機械
スバルは先ず、事情を伺うことにする。
「マジな話、お前は何故、人質を取ったりジョージに加担したりするんだ?」
「オレが根っからの悪党だからだ! 要は他者を虐げ、自分は上に立ち、衝動のままに暴虐の限りを尽くして生きていく……それがオレなんだ!」
「なるほど。お前に慈悲は要らなさそうだな。マジでぶっ殺してやるよ」
もはやこれ以上、何も追究する必要はないだろう。スバルは毒ガスを生み出し、眼前の護衛を毒殺しようとした。しかし護衛は、自らの全身を機械に変えることにより、毒の効かない状態となる。
「自己紹介が遅れたな。オレはソルクス――――ジョージの護衛だ」
ソルクスの腕は光線銃と化し、殺傷力のある光線を次々と乱射していく。スバルは何発かの攻撃を浴びつつ、相手との間合いを詰めていく。
「お前の力を知っていたら、お前のことはナギサに任せたんだけどな……」
機械の体を有する者に、毒は通用しない。スバルは今、異能以外の手段で戦うことを要されている。
そこで彼は先ず、右ストレートをお見舞いする。
無論、機械の体は頑丈で、そう簡単に傷を負わせられるものではない。それでもスバルは軽めのジャブを何発か叩き込み、それから相手にアッパーカットを食らわせる。直後、彼は肘を瞬時に曲げ、そのまま自分の肘を相手の顎に打ち付ける。されど相手は機械の体を有している。グリードの力であればまだしも、人間の力では到底傷を負わないだろう。
「無駄なことを! 生身の人間であるテメェは、毒ガスが意味をなさなくなった時点で負けたようなものなんだ!」
ソルクスは高らかに笑い、全身から高圧電流を放った。この一撃を全身に浴びたスバルは転倒しかけたが、すぐに体勢を整えた。これは彼にとって極めて不利な戦いだが、それでも引き下がるわけにはいかない。
「俺をあまり侮らない方が良い」
「しっかし、ナギサも見る目がねぇよなぁ! 満身創痍のテメェを置き去りにして先に行っちまうなんて、とんだ大マヌケだ! アイツ、頭の中にアリの巣でも出来てるんじゃねぇのか? ギャハハハハ!」
「お前、今……ナギサを馬鹿にしたのか?」
スバルの心に火が点いた。彼はスーツのジャケットを脱ぎ捨て、標的を睨みつける。この時、彼の雰囲気は一変していた。
*
同じ頃、ナギサは次のフロアにて、思わぬ相手と再会していた。
「また会ったネ……ナギサ」
アルセアだ。彼は枕を抱えつつ、大きな欠伸をする。
「アルセア……君が最後の護衛かい?」
ナギサは訊ねた。無論、彼女の推測は当たっている。しかしアルセアには、依然として戦意がない。
「そうだネ……ボクはジョージの護衛だヨ。だけど今は実働時間外でネ……働くだけ損なんだ。そんなわけでボクは寝るから、先に進んで良いヨ。アデュー」
彼が戦いを断ったのは、これで二度目のことである。これにはナギサも呆れ、苦笑いを浮かべるばかりだ。
「君は本当に自由だね」
「よく言われるヨ。ところで、三人目の護衛は自分の体を機械化させる異能を持っているんだけど、スバルに勝ち目はあるのかい?」
「スバルをなめてもらったら困る。彼は僕が最高のセフレと認めた男だからね……異能がなくても、それなりに強いよ」
彼女はスバルの腕を信頼していた。アルセアはため息をつき、ソファーベッドに横たわりながら話を続ける。
「最高のセフレ……ネェ。ボクから見れば、キミも充分自由なヤツに見えるヨ」
「まあ、否定はしないかな。いずれにせよ、僕はスバルを信じているよ」
「そう。じゃあボクも、キミたちを信じてみるネ。このままキミたちを泳がせておいた方が、面白いものが見られそうだヨ。あまり退屈だと寝ちゃうけどネ」
そう言い放った彼は、天井の角に吊るされている監視用のモニターに目を遣った。