思ったよりもこの縛りは厳しいですね……
「はぁ、……はぁ。……やっばいですね、これ。一瞬でも集中切れたら魔法が途中で消えますし、何なら威力も足りないですね。」
「そうでしょう。それができるのとできないのとでは魔法使いとしてのレベルが違いますからね。普通なら段階的にやることですが、時間がないので一気にやってもらいます。」
「望むところです……!」
はい、今現在私達はトカゲの鍛冶場というダンジョンの中にいます。このダンジョンは暑いです。とにかく暑いです。入る前から聞いてはいましたが暑いです。湿気が高くなくて、ベタベタしないのが救いですね。
そしてこの集中が途切れそうになる状況でめちゃくちゃ複雑な魔力コントロールが求められているので本当に大変です。
「詠唱の禁止と中級魔法以上の使用禁止です。」
「はい?」
ソフィアさんが言った縛りの内容を聞いて素っ頓狂な声が出ました。
「ですから、詠唱の禁止と中級魔法以上の使用を禁止します。なので魔法の名前を言ってはいけませんよ。それに初級魔法だけしか使ってはいけません。」
「……初級魔法だけは理解できますけど、そもそも魔法の名前を言わないで魔法を発動させることができるんですか?」
「できますよ?ほら。」
突然飛び出してきたゴブリンにソフィアさんが氷のボールを放ちました。……どういうことですか?本当に何も言わずに魔法を放ったじゃないですか。しかも威力も十分。ゴブリンはもう起き上がってこないですよ。
「イメージとしては大慌てで魔法を発動させたら、詠唱よりも先に魔法が出てしまった、みたいな感じです。もしかしたら、似たような経験はしたことがあるかもしれませんね。」
ええ?そうでしょうか?
というわけで今私はダンジョンでひたすら魔物を倒しながらダンジョン内をウロチョロしています。中は迷路みたいに複雑な構造をしていて、それに加え壁からは少し熱気のようなものを感じます。そしてその迷路の中を私達冒険者とモンスターが移動しているといった感じです。
ですが、冒険者の数はそこまで多くない、というかほとんどいないみたいです。このダンジョンは不人気だと聞いていましたが、想像以上ですね。
「ここまで冒険者の人を見ないと少し不安になってきますね。皆さんはどこに行ってるんでしょうか?」
「やっぱりスライムの養場とドラゴンの爪痕が人気ですね。スライムの方は本当にスライムしか出ませんし、なんなら新人とベテランの交流の場になっているのでその点でも人気ですね。そこで仲良くなれればその後もしっかり関係が続きますからね。他のダンジョンに一緒に攻略しに行くとか、ただの荷物持ちで連れて行ってもらうとかっていう関係に発展するようですよ。」
「よく考えられていますね。ベテランにとっても、新人にとってもいい話ということですか。」
「そうなりますね。強引な勧誘は禁止されているので、その心配もする必要がないですし。それで、もう一つの方なんですが、ドラゴンの爪痕はそれなりの実力がある冒険者に特に人気です。あそこに出ない魔物はここら辺では出ませんから、たいていの依頼はあそこを何回か回れば達成で来ます。それに一層させクリアしてしまえば無事に脱出できるというのも敷居を下げているのかもしれません。最後にボスモンスターが出てくると言えど、一層じゃそこまで強くありませんからね。
なのでここは人気がありません。魔物は一種類しか出てこないし、暑いし、ひたすら広いですし、暑いですし。」
「……暑いを二回言いましたよ、ソフィアさん。」
「実際暑いですよ。私達は魔法使いなので軽装ですし、それに加えて火属性魔法も氷属性魔法もつかえるのでそれなりに熱さと寒さには耐性があるんですよ。なのでちょっと暑いな、汗かくな、程度で済みますが、普通の剣士やそれこそタンクを務める冒険者とかはここには入れないと思います。一番暑さが控えめな一層でも専用の魔道具が必要になってくるレベルです。」
「……専用の、魔道具、ですか?」
「そうです。ここ以上に暑い、というかそもそも生身で入ることが不可能な高難易度ダンジョンがいくつかありまして、そこに入る用の魔道具です。とはいえこんなふざけた難易度のダンジョンは大陸の中央部に行かないと存在しないので、そもそもそんな魔道具が魔都では普及していないんですけどね。
あ!そういえばアイテム袋は買いましたか?あれは前も言いましたが本当に便利ですからね。ほら、今倒したモンスターのドロップ品とかも全部拾っておけるんですよ。」
「……それは、便利、ですね。」
「あ、確か私が昔使っていたのが家にあるので、もしよかったら明日にでも持ってきましょうか?容量はそこまで多くないので長い間使えるかどうか分かりませんが。」
「ふう。是非お願いします。今現在、結構な金欠なんですよ。多分親に言えばお金を出してくれるとは思うんですが、冒険者に関するものは自分のお金だけで何とかしたいんですよ。」
「……感心ですね。ならまだCランクの昇格祝いを渡していなかったので、それにしましょう。」
「ありがとうございます。」
おー、先輩からお下がりをもらうなんて初めてですよ。思いのほか嬉しいものですね。……ですが、戦闘中に話しかけてくるのはやめてほしいです。たった数体のトカゲを倒すのに何度も魔法を放つ羽目になったじゃないですか。




