期待
「……自分のため、ですか?」
「そうです。それに忘れてないですか?手紙にも書きましたし、約束もしましたがこれからは私も一緒にいるんですよ。いわば、パーティーのメンバーです。」
まあ、サブマスでもあるし、受付嬢でもあるんですけどね。と苦笑いしながらソフィアさんは続けます。
「私達はルナさんの味方ですよ。言い方は厳しかったかもしれませんが、魔王様もです。期待をしていない人と話すようなお方ではないです。
ですから、あと二週間だけ頑張ってみませんか?もしだめでも、その時は私も魔王様に話をしてみますから。」
……そうなんですか?私は魔王様から期待されているんですか?手も足も出なかったのに?それにたった二週間ですよ。それで埋まる程度の差ではなかったように思います。それにもし期待に応えられたとしても得られるものはより強い化け物と戦う権利です。
「……頑張るの自体はいいです。魔法は好きですし、昨日よりも一歩でも前に進めていると思えたらもっと楽しいです。でも、強い魔物と戦うのが好きなわけでは無いんです。できることなら戦いたくもないです。家でのんびり過ごしていたいです。適当に魔法の練習したり、本を読んだりするだけがいいです。」
「それは……。」
「そんなことは許されないのは分かっています。ですが、……それだとしても辛いです。」
「じゃあルナ。魔王様はなぜ魔王様の仕事をしてくださっているんだ?」
これまで静かに話を聞いていたギルマスが声を上げました。
「あの方は自らの庇護下にいるにもかかわらず利用しようとしてくる貴族たちから距離を置くために、特に親しい人を作らず常に一人で魔王としての職務に没頭している。唯一その側に立ち、魔王様から信頼を得ているのが魔宰相と呼ばれている男だ。」
魔宰相……。あの時、魔王様が言っていた人ですね。そういえばあの時だけ、少し人間味が感じられたような……。
「それは彼の統治の能力だけでなく、ひとえに彼自身がこの魔都で魔王様の次の実力者だからだ。唯一彼だけが魔王様にその実力を認められている。
分かるか?魔王様は強者を求めている。そしてルナはそんな魔王様に期待されているんだ。もしかしたらルナならあの魔王様の隣とまではいかなくても、信頼に足るレベルにまで至れるかもしれないと。」
魔王様が?……本当に?
「まあ、別に魔王様からの信頼などいらないというのであれば、そのまま過ごしていればいい。一体魔王様が何をおっしゃったのか、私には知りようもないことだがルナにとってみれば嫌なことが起こるんだろうが、それを甘んじて受け入れればいいんじゃないか?」
……は?何を言っているんですか?魔王様からの信頼がいらない?そんなわけないじゃないですか。魔王様は私の数少ない心の底から尊敬している方なんですから。それに私がそんな未来を簡単に受け入れるはずがないでしょう。
「お、目に光が戻ってきたな。どうだ、頑張ってみる気になったか?」
「やってやりますよ。魔王様がもし私に期待してくださっているのであれば、それを裏切るなんて言うことは許されることではありません。」
「おっ、なになにー?面白そうなこと話してるじゃーん。私も仲間に入れてー!」
決心を固めてギルマスと目を合わせた時、突然扉がバーンと勢いよく押し開けられて一人の少女が入ってきました。
……エウロペさんですね。
「エウロペさん、あの時は言い忘れていましたが、手紙を届けてくださりありがとうございます。」
「気にしない気にしない!それにその話をするならこっちの方こそごめんなんだよね。」
え?どういうことでしょうか?
「いやー、こう見えてもあたしちゃんって結構強い冒険者なわけよ。だから本来であれば、ルナちゃんが戦ったスタンピードのボスモンスターはあたしちゃんが倒さなきゃいけなかったわけだよ。そうなんだけどねー、野暮用で魔都から離れている間にスタンピードが起こったものだから、ルナちゃんとソフィアちゃんに全部押し付けることになっちまったんだ。
……5年周期で起こることは知ってたのにほんとにごめんね。そのせいで吸血鬼だっていうこともばれちゃったんでしょ?」
「……なんであなたまで私が吸血鬼であることを知ってるんですか?」
「およ?あんまし驚かないんだね?まあ、さらっと種明かしをするとあたしちゃんの目は特別なんだよ。見ただけでその人や魔物の冒険者カードに書かれているような情報は全部読み取れるっていう感じのね。よく魔眼とか神眼って言われるよー。
似たようなのだと、確か刀バカのイゾウとかも似たようなの持ってるって聞いたような。まあ、彼の場合は色で見たものの強さが分かるとかって言ってたかな。」
え?ちょっと待ってください。絶対今の言ったらダメなやつですよね?
「……エウロペ?何を冒険者の個人情報をばらしているんだ?」
ほら。ギルマスがお冠です。
「あっ!またやっちまった。じゃ、怒られる前に帰るとするよ!じゃあねー!!」
エウロペさんは言うが早いか、すぐに転移魔法を使っていなくなってしまいました。




