行き場のない不安と怒り
魔王様はそこまで言うと、私を魔法陣で送り返してくれました。気が付くと魔王城の前の広場に立っていたのでおそらくはそういうことなのでしょう。
……はぁ、どうしましょうか。もう本当によくわからなくなってきました。いや、吸血鬼の存在がそれほど重要な存在だということは分かっています。理解もできています。でも、それを受け入れられるかどうかは話が違います。受け入れられるはずがないじゃないですか……!なんで、私は家族を捨てなければならないんですか!?なんで、私は見ず知らずの人と結婚なんてしなければならないんですか!?
なんで、私は吸血鬼なんですか……?神様、なんで私を吸血鬼にしたんですか?私は普通がよかった、と言ったじゃないですか。全然、普通なんかじゃないじゃないですか。案の定友達なんかできないし、持ちたくもない関わりを持つことになって……。本当に、なんで……?
それに、そもそも私は別に強い敵と戦いたいわけでもないんです。というか今思えば普通に怖いです。今は冒険者として活動していますし、なぜかそのたびにとんでもない敵と戦っているような気がしますけど、本音だと安全な依頼を受けて日銭を稼ぐとかでもいいんです。あのギルドの食堂でご飯を食べている冒険者みたいな生活でよかったんです。毎日依頼を受けて、その達成報酬でご飯を食べながら依頼主がどうだとか、今回の連携はまずかったとか愚痴をこぼしながら誰かと時間を過ごしたかったです。だから、正直言うと魔王様から提示してもらった全部の条件が私とはあってなかったんです……。
ああ、なんでこんな思いをしなければならないんでしょう?辛いです。苦しいです。楽しく生きられると思ったのに、なんでこうなるんでしょう?
……貴族が悪いんじゃないですか?私を、吸血鬼を利用しようとしている貴族がいなくなれば、私は嫌なことをする必要がなくなるんじゃないでしょうか?あの時、ギルドでナンバまがいのことをしてきたクソみたいな貴族がいなくなれば……!
「ねぇ、そこの君。ちょっとお茶していかない?ほら、全部おごってあげるからさ。」
ちらりと私の周囲に視線を配ると、一人の貴族らしき男と数人の護衛が立っていました。その腹には脂肪がたまり、その瞳には気色の悪い情欲の色が浮かんでいて、私の体を舐めまわすように見ています。
「…………ければ。」
「え?いいから行こうよ。おすすめの店知ってるんだ。」
「お前らさえいなければッ!」
私に触ろうと手を伸ばしていたその男をただ、魔力の放出だけで吹き飛ばしました。それは強風となり私の威圧と共に私の周囲全方位に放たれました。昼間とはいえ吸血鬼の威圧です、それをまともに食らった男とその護衛は地面に座り込んだまま動けないようですね。
……もう、なんで本当にこんなのしかいないんですか?こんなのがいるから私が大変な目にあってるんじゃないですか!こういうのがいなければ、魔王様だって内乱の心配をする必要がなくなりますよ。
やっぱり、こいつらに生きている価値なんて……!
「ルナさん、落ち着いてください。一旦帰りますよ。」
ソフィアさんがいつの間にか帰ってきたのか、私の右手を後ろから取ってきました。
「ですが、こいつらのせいで……!」
「落ち着いてください。今ここで彼らに危害を加えたら悪いのはルナさんになります。それに、急いではなさいといけないことがあります。本部ギルドに戻りますよ。」
「……。」
「行きますよ。」
ソフィアさんに手を引かれながら私は広場を後にしました。
「さて、一体何があったのか聞きましょうか。あの広場で何があったんですか?」
広場から場所を変えて、今はギルドのギルド長室です。ギルマスも席に座って静かにこちらを見ています。
「……私は分からなくなってしまったんです。もう、どうすればいいかわからないんです。……結局どの道、私はやりたくないことをやらなければならないんです。……あんまりです。なんで絶望が待っているのが分かりきっている道を私は選ばなければならないんですか……?しかも、それなのに私の未来を奪ってくる輩はみんなクズばかり。」
「……そうですよね。ルナさんはまだ14歳でしたもんね。でもいいですか?確かにルナさんの現状はとても大変なものになっているでしょう。ですが、それは皆がいつか必ず通る道です。私も通りました。
特に冒険者という仕事上、誰もが似たような状況に追い込まれます。依頼の達成か、仲間の命か。仲間の命か、自分の命か。しかもその判断をたった数秒、もしくはもっと短い時間で決めないといけないんですし、もっとタチが悪いことに、どちらを選んだとしても後悔しないことはありません。
だから、考え方を変えましょう。いつかしなければならない重要な選択を、誰よりも早く体験できるのだと。すべてはきっと自分のためになると考えてください。」




