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ギルマスの憂鬱

夏バテで倒れておりました……。皆さんも水分補給と冷房で快適に夏を過ごしてください。


今日から毎日投稿を再開していきます。よろしくお願いします。

「あのスタンピードが収まってからもう1週間か……。」


 私個人からすると久しぶりに暴れられたからよかったしそれ以外にもいいことは多かったが、それにしても失ったものも多かった。机の上に置いてある紙を手に取る。


 Aランクでは死者こそ出なかったが、1名両足を失う大怪我を負った。その程度であればミラが治せるからギリギリ何とかなったが、逆に言えばAランクの実力者ですらその結果になったということでもある。


 事実、Bランクでは無事帰還できた者の方が少なく、死者もかなり出てしまった。作戦が上手くいったためにCランクの冒険者達は早めに後退できていたが、その分Bランクの冒険者に被害が回ってしまったな。これは正しいことだったが、それでもこれだけの被害か……。


 それでもCランクの冒険者が一番被害が大きく、死者こそ少ないが怪我をした冒険者が多すぎた。大怪我を負ったものはもちろん、それ以外にも冒険者をやめなければならなくなったものも少なくない。ミラがもっと手を貸してくれていたら話は違ったかもしれないが……。


 いや、そんなもしもの話をしてもしょうがない。実際に人手が足りていない。ただでさえ回復魔法の使い手が少ないから、完全に回復できたものも同じように少ない。今でもギルドに併設されている治癒院にたくさんの冒険者が入院している。回復魔法を使える冒険者達に依頼を出しても、やはり集まらない。


 私もソフィアも戦闘しかできないしな……。そう、そのソフィアもつい最近まで昏睡状態だった。傷は一つもなかったが、それでも起き上がることがなかった。おそらく魔力を限界以上まで使い切ったのだろう。あのドラゴンを止めたのだから、よく帰ってきてくれたとほめるべきなんだろうな。何か手当のほかに褒賞でも考えておこう。


 ……そしてまだ最大の問題が残っている。あのドラゴンを倒したのちにその場で昼寝をしていた大馬鹿ものの処遇についてだ。私が見つけた時に同行していたあの屋敷のメイドがすぐに回収したが、それでもドロップ品を回収していた多くの人の目に触れた。しかも昼寝に使っていた椅子の形が崩れて、血に戻り、体内に吸い込まれていく様子も。まあ要は吸血鬼だってことだ。


 その結果、スタンピードを収めたのは吸血鬼のお姫様だ、なんていう浮かれた噂までギルド内で流れるようになった。すぐにかん口令を敷き情報の統制をおこなったが、ただでさえスタンピードを収めたという大きな話題に、上位種である吸血鬼の存在がその噂の拡大に拍車をかけ、瞬く間に広まってしまった。


 ルナが家にいる間はあの先代勇者と剣神がかくまうだろうし、武力行使を行おうとしたところで無意味だから誰もやろうとはしないだろう。あの二人がいなくてもあの家のメイドは先代勇者のパーティーメンバーだったはずだから、一人でも十分以上だろう。


 ルナ本人も実力者だが、物理的な攻撃以外だと対処に手間取るだろう。バカな貴族は絶対に現れるし、そうでなくても彼女を欲しがる貴族家は多いだろう。法衣ではなく、土地持ちの貴族になれるかもしれない。それだけ彼女の持つ力は大きい。


 となると、魔王様の動きも気になるな。あのお方は一度戻ってきてすぐに出発してしまったが、吸血鬼の存在をどう捉えるかが分からない。魔王様が放置という決定を出せばそれだけで万事解決だが、もし逆の決定を出せばすべてがひっくり返ってしまう。

 尊敬しているし信頼もしているが、それでもそれが揺らいでしまうほど吸血鬼という存在は大きすぎる。


 その時、控えめに扉をたたく音がしてゆっくり扉が開いた。


「ソフィアか……。どうした。」


「ギルマス、魔王城からこのような手紙が届きました。」


 その手紙にはスタンピードに関する情報の提供を求める旨が記されていた。それに加え、もし冒険者の中に吸血鬼がいるのであれば、その情報も提供するよう最後におまけ程度に記されている。


「こんなに小さく書きやがって……!本題はこっちのことだろうが。それにそもそもこんな文言見たことない!」


「そうですね。ルナさんが吸血鬼であることはもう既に広く知れ渡ってしまってますし、同時にそれを求める下種な貴族が多いんでしょう。こんな手紙を公文書としてよこしてきたクズをはじめとして。」


「そうだな……。だが普段なら動かないであろう貴族も動き始めるかもしれん。だから早めに手を打つとしよう。確かあと少しで魔王様が帰還されるはずだからその時に打診してみるとしよう。」


「そうですね。その間は私が彼女のフォローをするとしましょう。あと適当な興味を持ちそうなAランクの人にも声をかけておきますね。」


「ああ、頼む。魔王様にさえ伝わればきっとどうにかなる。それまでの辛抱だ。」


「はい。お任せください。」


 二人は騒々しい冒険者ギルドの中で唯一静かなギルド長室でひそかに決意を固めていた。その様子を夕日が妖しく照らしていた。

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