閑話 魔王城にて
ここで閑話を1話挟みます。
ルナたちがダンジョンに潜っているその時、彼女のあずかり知らぬ場所にて彼女の運命を左右する会談が行われていた。
場所は変わって魔王城。魔都にいればどこからでもその姿を見ることができるほどの威容を誇るその魔王城はいくつかの区画に分けられる。
魔王城にて魔国の実務的な仕事を行う法衣貴族やその部下である文官が働く区画。文官は優秀な平民やバカな貴族がなる。しかし、そこでは身分に関係なくただ優秀な者が上につく。とはいえ、貴族と平民では受けられる教育が違うために、差が出てしまうのは避けられないことのようだ。
次に社交の場。年に一度、各地の領主を含めた国内の貴族全員が参加するパーティーが魔王城の大広間にて執り行われる。その大広間は絢爛豪華な装飾はもとより、そして魔王による魔法により幻想的な空間が作り出されている。
それ以外の時は謁見の間として使われる。とはいえ、そもそも魔王が城にいることが少ないために謁見自体がされることもないが。そのため、魔宰相という魔王城を実質的に束ねている男がその話を聞くようだ。
そして最後に魔王の一族が住む居住スペースだ。魔王の親族しか入ることが叶わない魔王城の中でも上部に位置するこの区画は専用の通路を通らないと到着することもできない。
魔王の親族とはいえ、直接血がつながっているものはほとんどいない。しかしそのことは貴族の間では常識であるが口に出してはならないとされている。
そんな一家団欒の場所にて猛る男が一人。
「あのクソ平民どもが!!僕は貴族だぞ!しかも陛下直系の貴族だ!他の家柄もない貴族どもとも違う!真の貴族だぞ!!」
周囲に誰もいない閑散とした部屋の中に声が寂しく響く。というのも当然親族しか入れないために使用人も入ることができない。
そこに大きな本を持った女性が荒々しく扉を開けて入ってきた。
「うるさいわよ。珍しくどっか出ていったと思ったのに……。勉強の邪魔しないでよ。」
「黙れ!そもそも貴族なのに勉強なんてしてるんじゃない!生きてるだけで僕達は優秀なんだ!」
「……その考え方やめなさいって何回も言ったわよね?優秀なのは陛下ただ一人。私達はただその血縁者っていうだけなのよ。
……ってもういいか。とりあえず勉強の邪魔しないで。次騒いだら喉潰すわよ。」
「……チッ。さっさと失せろよ。こんな貴族の風上にも置けないやつめ。」
力では女性にかなわないのか、男は負け惜しみのように舌打ちをして言葉を絞り出した。
その時、
「「ッ!!??」」
強大な気配が突如として魔王城に現れた。だがそれは一瞬のことで魔都に住んでいる人々はもちろん、魔王城の下部にて働いている文官らも気づくことができなかった。だが、魔王城上部に住む親族のみがその圧倒的な気配を感じ取ることができた。
一瞬の硬直の後、魔王城に住むもの達が同時に行動を起こした。魔法や剣の訓練や研究といった今していることをすべて放り出し、ある場所を目指す。
すべては最上部、魔宰相以外の誰とも接しない魔王と親族が唯一会話ができる場所、帰還の間へ。
その気配が現れて1分も経たないうちにすべての親族が帰還の間に集まった。
「「「陛下、ご帰還心よりお待ちしておりました。」」」
「ご苦労。……特に異常はなさそうだな。」
よくとおるハスキーボイスで魔王が呟く。その目線の先には親族の誰も映っていなく、どこか遠くを見ているようだ。
「何か聞きたいことがあったら今聞こう。なに、久しぶりの家族団欒だ。遠慮はするな。」
こういう言葉には気を付けなければならない。立場的に上の者からの無礼講だの、遠慮はするなという言葉をそのまま受け取るといいことがない。それはどの時代、どの世界でも同じことでより一層無礼を働かないよう気を張らなければならない。
だが、また同じようにそれを文字通り受け取るバカは残念ながらどこにでもいてしまうのだ。
「では、恐れながら陛下。私ヒューム=アマデウスから一つだけよろしいでしょうか?」
この時点で親族からは殺意にも似た強烈な不快感と怒りが発せられている。なにせ一番年上で信頼を置かれている魔宰相よりも先に口を開いたのだ。暗黙の了解として、こういう時は年齢順に話すことが知られているし、これまでの生活の態度から見ても優先される理由はなかったのだ。そのために中にはヒュームを殺してしまおうと魔法の準備を始めるものもいた。
しかし、
「……よい。それで、要件はなんだ?」
魔王は寛大にもそれを赦し、続きを促した。自分に殺意を向けられているとは気づいていない男は再度口を開く。
「力をお貸し願いたいのです。僕が貴族と知ってもなお、狼藉を働いた愚か者に裁きを下していただきたいです。」
「……ほう?」
「その女は私との食事を断った挙句、他の男の所に行ったのです。それにあの生意気にも刀を持った女も。私の腕を強く握りしめてきた上に脅迫までしてきたのです。どうか、この愚か者共に厳正な処罰をお願いしたく。」
あまりに利己的な理由に親族からは殺意も失せ、逆に呆れの気配が色濃く漂い始めた。そしてこの男の最期を予感した。しかし、魔王は皆の予想を裏切り、少し濃い目の桜色の瞳を少し楽し気に輝かせながら
「ほう?少し見せてみよ。」
と宣った。
直後、男の体から力が抜け、地面に倒れこんだ。
「……ふふふっ。なるほどな。この娘、吸血鬼か。」




