ゼツボウの中のキボウ
「この紅い月が出ている間だけ、我ら竜はドラゴン魔法という強力な魔法が使えるのだ……。当然、我以外の魔物にしても同じことが言える……。すべてのステータスが上昇し、凶暴性も増す……。小娘よ、あきらめろ……。もう、お前らの街は助からん……。」
……まさか、あそこまでの回復魔法を扱えるとは思いませんでした。あれが何回もつかえるとなったら一体誰にこのドラゴンを倒せるんでしょうか……?
「グググ……。多くの配下がいなくなった……。我のブレスだけでなく小娘の魔法も強力だった……。小娘はきっとあの街で結構の実力者だろうが、もう動けまい……。」
ドラゴンが大きな足音を立てながら私に近づいてきます。もう私は立っているのもやっとですが、それでもまだ打てる手はあります。攻撃しても無意味ですが、それなら他の方法でこのドラゴンの動きを止めるまでです。先ほど打った布石と私の命を使えば何とかなるでしょう。
「せめて最上位竜の我が手を下してやろう……。我は最強のダークドラゴン、名をダハーカ……。」
ですが、時間が足りなさそうです。あともう少しだけ時間が必要です。でも、もうドラゴンの口の中から黒い炎が漏れ出してきています。おそらくもうブレスを撃つ準備ができているということなのでしょう。
「我のブレスは最強の一撃……。いか……。」
「最強?あなたが?一体何の冗談ですか?」
ふう、声を出すだけで苦しいですね。肺がゴロゴロ言っていますし、何より声帯にも大きな傷がありそうです。ですがそんなことを言っている場合ではありません。
「あなたは確かに竜の中では強いのでしょう。……ですが、私一人の攻撃でそこまで負傷するあなたが世界最強だとでも?」
「何が言いたい、小娘……?」
「ふふふ、なんでしょうね……。ただ私はあるダンジョンを攻略した時に大昔にいたとされている、ある巨大な魔物の存在を知りました。その存在はあなたたちと同じくドラゴンと呼ばれていたようですが、その存在とあなたとの間には大きな乖離が存在します。」
「グググ……。それで……?」
「…………。」
「小娘、答えろ……。」
……ふう、ようやく準備が整いました。あとは発動させるだけです。
「無視をするか、小娘……。ならいい……。さらばだ……。ドラゴン魔法……。」
「(布石は私が散らした氷片、足りない魔力は私の命を消費させましょう。)魔法陣、起動!」
私を含むここら辺一帯を包み込むほどの巨大な魔法陣が浮かび上がりました。そうです、先の一分間であちこちを飛び回ってばらまいた氷片を媒体に魔法陣を作り上げました。……ふう、ここまでしたらもう大丈夫。もし仮に私が死んでも魔法は発動します。ですが、ドラゴンに殺されてしまう前に魔法を発動させましょう。私が唯一使える超級魔法。
「小娘ッ!貴様ッ!」
「……超級魔法!アイス・エイジッ……!」
私が発動させた魔法の威力を肌で感じ取ったのかドラゴンが後ろに引こうとしましたが、その程度で逃げられるはずがありません。ものすごいスピードでドラゴン全身を包み込み、そして当然のように私も氷に包まれました。おそらく小高い氷山のようなものが出来上がっていることでしょう……。
……ああ、意識がなくなってきましたね。命を削りすぎましたか……。生きて帰ると約束したんですけど、やっぱり難しかったようです。ごめんなさいね……。
「ソフィアさんっ!!大丈夫ですかっ!?」
「Cランクの冒険者は下がれ!代わりにBランクが前に出ろ!急げ!」
現状は最悪と言っても過言ではない。突如空が夜空に変わり、真っ赤な月が浮かび上がったと思ったら魔物の動きが止まったんだ。そこで異常を感じたんだけど、直後からとてつもなく大きな地震が起こって何も行動を起こせなくなってしまったんだ。
そして地震は5分くらいで収まったんだけど、それからはあまりに猶予がなかったんだ。動きを止めた魔物をどうするか迷っている内に今度はさっきよりも大きい地震が起きて、それと同時に空から炎の塊がたくさん落ちてきた。
それのいくつかが冒険者の所に落下し冒険者たちは若干パニックに陥ってたのに、それに加えて炎の塊の一つが門に直撃して城壁を大きく破壊した。これまで余裕だと思っていたのに、なぜかいきなり城壁っていう一番守らなくてはならないものを壊されてしまった。
そして魔物の凶暴化が決定打になった。もうそれからは前方にいたCランクの冒険者達は逃げ回るだけで、一人になったところを凶暴化した魔物に殺されていってしまっていた。
大慌てで号令をかけてBランクが前方に出るように言ったけど、正直これも意味があるとは思えない。ここを突破させてしまえば、もう後ろは何もない。本当に城壁すらない。だから、今ここで戦える冒険者だけでどうにかするしかない。
「レグルス、魔物を集めろ!ミモザは援護、ベガは討伐を頼む!僕は一人で斬りこむ!」
「任せろ!二人とも頼んだぞ!」
「はい!」「うん!」
とにかく僕は前線まで走ってとにかく剣を振り続ける。剣聖ゆえの最強の剣技と経験からの最適行動で常に切り抜ける。剣だけを使う人の中では僕は最強に近いと思うんだけど、それでも厳しい。
何せ数がおかしい。1体倒す間に2体に襲われるなんてことも普通に起こるから、常に移動を続けて囲まれないように、そして剣の攻撃範囲から魔物を逃がさないようにという距離感を保ちながら剣を振る。
……何とか30分くらい戦ったと思う。体感では1時間くらいだったんだけど、おそらく30分くらいしか経っていなかったとおもう。でも、もう集中力も限界だ。おそらくミモザとベガの二人も魔力切れでもう危なくなってきているころだろう。戻らないと……。
……ああ、くそ。でも攻撃を受けすぎたかな。今は何とか迫ってくる魔物を逃げながら倒すっていう本当に最終手段を使いながらしのいでいるけど、限界が近いかな……。攻撃を受けた右目からは血が流れて視界がふさがっているし、剣を持っていない左腕は何度も盾にしたせいでおそらくもう動かせないくらいボロボロだ。
「うわっ!!」
集中力が切れた時って、足を滑らすなんていう普段ならしないことをしでかしたりもするんだよね。もう、ダメそう。起き上がれなさそうだし。
「大丈夫か!?おい、リュウマ!本当にギリギリだったぞ!」
「本当だね!何とかなったかな!?」
「すまない、待たせた!あとは戦えるもの以外は下がれ!ここは私達が引き受ける!」




