スタンピード 急・1
「うはは、行くぞ!ヨモギ!」
「えー!そろそろよくないっすか!?魔物の数尋常じゃないっすけど!!」
聖槌をブンブン振り回しながらどんどんトリトンさんは進んでいくっすよ。そろそろダンジョンの入り口が完全に見えてくるんじゃないっすか?
「バカ言え!あと少しだ!入り口が見えるか見えないかくらいの所まで行くぞ!」
「こっちの台詞っすよ!そろそろ攻撃食らいそうっすよ!」
「なら大丈夫だ!まだ食らってねえんだろう!?」
「そうっすけど!!」
「待ちなさい!……ヘルフレイム!」
突然頭上から聞き覚えがある声がして、その直後目の前で大量の黒炎が濁流のように広範囲に広がりながら流れていったっすよ。その黒炎は数秒間にわたって流れ続けたっす。そしてそれが消えた後には視界内に魔物は一体も残ってなかったっす。この魔法は……。
「おお、来たか!だが、こんな序盤でそんな大魔法使ってよかったのかい?」
「うるさいわねえ。そもそもこんなところで無計画に皆が勝手に戦ってたら互いに攻撃し合う羽目になるでしょうが!だからせめて戦う場所を決めておくべきよ!」
「俺もそれに賛成だぜ!共闘する必要はねえがな!」
ミラさんっすよ!いやー、かっこいいっすねぇ!自分にできるのは支援魔法だけっすから憧れるっすよ!
で、そんな中背後からそんな大声が聞こえてきたっすよ。そこには二本の刀を腰に差したイゾウさんが立ってたっす。相変わらずよくわからない恰好をしてるっすよ。
「そうね、共闘するなんて私も考えたくないわ。で?あんたいつの間に来てたのよ?」
「俺か!さっき来たぞ!大量の黒い炎が流れていったのが見えたからな、ここにいるんだろうと思ってきたんだ!」
「いや、お前がいつ来たのかは今はどうでもいい。それよりも、俺としては共闘の方が戦いやすいんだが……。」
あー、このトリトンさんこういう時聖槌を起こせ無くなるっすからねー。そうなるときっと窮屈な戦いになるから嫌なんすよね。起こしちゃうと攻撃範囲と威力とかすべての武器ステータスが上昇するっすけどその代わりそれを制限できなくなるっすからね。
「はぁ!今から何かしら策でも立てるってわけ!?そんな時間あるわけないじゃないの!」
「そうだぞ!それに俺たちは共闘なんてせずとも十分強いではないか!」
「だーから!一緒に戦った方が戦いやすいって言ってんだよ!それに別々だと聖槌がお前らを巻き込んじまうから起こせなくなるんだよ!
いいか!?俺が一番前で魔物の足を奪うからそこをお前らが攻撃しろ!ヨモギは全体のフォローを頼む!これじゃダメか?」
おっと成長したっすね。前回はただただ聖槌を使いたいってただひたすら駄々をこねて他の冒険者の人に迷惑をかけてたっすからね。せめて作戦を考えてたっていうのはいいんじゃないっすか?それに、この二人は作戦に納得してくれれば感情だけで否定するような人ではないと思うっす。
「……悪くはないわね。あたしは賛成しておくわ。」
「……うーん、俺もまあいいか。別に刀で斬るだけが戦いではないしな。」
「おっ!そうかそうか!ならすぐに準備しよう。分かってると思うが、俺はちょっと前出るからできるだけ近づくなよ?」
おっと話があっという間にまとまったっすね。自分はじゃあ適当に二人の後ろから支援魔法をかけるとするっす。
「あら、久しぶりねヨモギさん。元気でやってるかしら?」
「は、ハイっす!めちゃくちゃ元気っす!」
「それはよかった。じゃあ支援魔法よろしくね?」
「もちろんっす!」
じゃあ頼まれちゃったからにはやるっすよ!自分にできる最高の支援魔法をかけるとするっす!
「聖属性魔法 ホーリーエンチャントタイプオール!それに加えてタイプマジックにタイプフィジック!」
ふふ、やってやったっすよ!全体バフに部分バフの重ね掛けっす!これが自分の今の最高地点っす!
「……へぇ、これはすごいわね!魔法攻撃だけにも別にバフをかけてるのね!」
「俺には物理攻撃のバフがついてるぞ!感覚だけど、多分倍近くの威力が出るんじゃないか!?」
おお、喜んでもらえて何よりっす。そして、魔物の足音が聞こえてきたっすから多分そろそろ……。
「起きろ!※※※!」
トリトンさんが聖槌の銘を叫んだっす。ということは……、トリトンさんが持ってた槌がとんでもない大きさになってるっす。一度振り下ろしたらそれだけで魔物をまとめて数体叩き潰せるくらいの大きさっす。……それを持ち上げられてるトリトンさんはおかしいっすけどね。
「はあぁぁ!」
空気を震わせるような咆哮と共に聖槌を地面にたたきつけったっす。その直後、姿が見えていた魔物たちが一匹残らず不自然に動きを止めたっす。
「ファイヤースピア、セプタ!」
「ㇱっ!!」
地面から炎の槍が7本無造作に生えて魔物を突き殺し、イゾウさんが放った斬撃が首を切り離したっす。
……いやー、相変わらずとんでもないっすね。この人たち。




