プロローグ
……ん?私は今どこに……?
確か、さっき駅のホームで電車を待ってたはずなんですが。
ゆっくり目を開けると、私は真っ暗な場所に立っていました。
おかしいですね。今日は中間テストがあるからその教科書を持っていたはずなんですが、どこにもそれが見当たりません。それどころか手の感覚すらもありません。
「ふぉっふぉっふぉ。待たせたかのう、迷える魂よ。」
なんか偉そうな声が聞こえてきましたね。しかも真っ暗だったはずなのに周囲が突然白い明かりに包まれました。
声がした方を見ると、そこには立派な口ひげを蓄えたザ・おじいちゃんみたいな人が椅子に座っています。
「誰がおじちゃんか!それに儂は偉そうではなく、偉いのじゃぞ?何せ神様なのじゃからな!」
そうなんですか。まあよくわかりませんが、そういうことにしておきましょうか。それにしても一体ここはどこなんでしょうね。これから学校にテストを受けに行かないといけないんですが。
「あー、そのことなんじゃがな。何があったか覚えておらんか?」
さっき何があったか、ですか?うーん、駅のホームで教科書を眺めていて、それで……
あ、そうだ、思い出しました。
確か、ホームの一番前に立ってて、後ろを通った人にぶつかってしまったんでした。その勢いで線路に落ちてしまい、ちょうどその時駅を通過するはずだった電車に轢かれてしまったんでした。
あー、申し訳ないことをしましたね。ぶつかってしまった人は当然ですが、そこに居合わせた人達にも不快な物を見せてしまったでしょうし、電車も止まってしまったでしょう。
「……お主は死んでしまったんじゃぞ?なんでそんなあっさりとしているんじゃ?」
まあ確かにやりたいこととかはありましたけど、でも今更どうにもならないですし。それに少し解放されたって気分でもあるんですよ?両親は私よりもはるかに優秀な姉の方ばかりを見ていて私に関心すら抱かないです。かと思えば、同級生とは全く趣味が合わなくて、でも話すときは必ずと言っていいほど興味のないことに興味がある振りをしないといけないですし。
きっと私は中途半端なんでしょうね。姉や両親ほど優秀ではなく、でも同級生よりは優秀ということなんでしょう。
……はぁー、今更ですが、どっちかがよかったです。とびきり優秀か、それか普通か。優秀だったらもっと家族らしくなれたと思いますし、普通だったら友達ができていたかもしれません。
「ふむ、じゃがそれはそこまで悪いことかの?儂はお主のような人間は重要だと思うがの。」
それは全体としてみたらの話ではないですか。今しているのは私個人の話です。少なくとも私には気の許せる存在はいませんでしたよ。
……もし、誰かとなりにいてくれたらって何度も思いました。信頼できる友人の存在を何度も夢に見ました。でもそれは所詮は夢。目が覚めると鏡に映るのはいつも一人ぼっちの私。
……って一体私は何を……?
「なら、やり直してみないかの?儂が神をやっておるもう一つの世界で!」
は?やり直す、ですか?しかももう一つの世界って。パラレルワールド的な何かですか?
「そうじゃ!そこなら全部やり直せる。なにせこれまでの記憶も持っていけるからの。それに加え望むなら何か特別な物を授けよう。
例えば、何か特別な才能であったり、それを隠せる才能。これから行く世界には剣や魔法があるからの、その才能でも、こちらの世界と同じく勉学の才能でも何でもありじゃ!」
……なるほど?つまり、私はその世界に行けば欲しかったものが手に入るということですか。なら悪い話ではないですね。……今更ですがナチュラルに私の内心を読んでくるんですね。まあ神様だというのは信じられますかね。
さて、となるともっと具体的な話を聞くとしましょうか。
「おお!そうかそうか!向こうの世界に行ってくれるか!ではもっと説明しようかの!」
これから私が行く世界には剣と魔法があって、時代的には地球の中世あたりらしいです。いえ、どちらかというとゲームの世界と言った方が正しいのでしょうか?どうやら種族は人種だけでなく、ドワーフやエルフといった有名な種族に魔族といわれるかつて人類に敵対していた種族もいるそうです。もっとも、魔族が人類の敵と言われていた時代は既に過ぎ去っていて、今では戦争は起こっていないそうです。
ただ魔物という凶暴な生物が存在していて、その討伐を仕事にしている人が多いそうです。この魔物という存在がかつての戦争につながったらしいです。なんでも互いに魔物を操っているのが敵方だと思っていたらしいですから。それに加え、魔物被害がそれなりに大きかったのもそれに拍車をかけたのでしょう。それ以外にも研究職や、商売で生計を立てている人も当然ですがいるようです。
「といった感じじゃ。具体的には人種やエルフ、ドワーフといったもの達の国がヒューマニア王国で魔族たちの国がマンユ魔国という国を作っておる。どちらの国も王の下に貴族がおってそれらが領地を統治しておるの。」
ふむ、貴族というのは面倒くさそうですね。私には向いていません。でもお金は欲しいのでできれば大きな商家の娘とかがいいですね。
「ああ、お主の転生先じゃがそれはもう決まっておるぞ。」
え?そうなんですか?
「うむ!それはお楽しみとして取っておくとよい。ちなみにお主が心配していたようなことにはならんから安心してよいぞ。
さて、では最後にどんな才能が欲しいか聞かせてもらおうかの。」
では、魔法の才能と剣が使えない才能をください。
「ん?剣は使えんくてもいいのか?せっかくじゃし使えた方がいいと思うがの。」
いえ、剣も魔法もできたらそれこそ友達なんてできないじゃないですか。一人で完結するのはダメなんですよ。それに現代日本の知識を持っていけるんですからそれだけでも十分やりすぎですよ。
「ああそうじゃったの!では魔法の才能に剣が使えない才能を授けよう。それに記憶は保持したまま転生と。
……うむ、準備はできたぞ。」
おや、もうですか。ではお願いします。
「礼には及ばぬよ。儂は神様じゃからな。お主も二回目の人生を楽しんできなさい。」
なんか、本当にありがとうございます。
「ではのー!!」
神様の声に後押しされるように、私の意識は薄れていきました。