時を越えて、新世界へ
時の流れ空間に囚われて、脱出した。その宇宙の星は?
(序章)突然、惑星スムカの上空に現れた宇宙船群
⑴
地球歴xx32年、地球から2000万光年離れた、おとめ座の楕円銀河にある惑星スムカで、元地球人の、机化一は暮らしていた。
スムカは多くの点で、地球に似ていた。密度や大きさは、ほぼ同じであった。
この星の太陽となる、恒星テンタも、地球の太陽と、ほぼ同じ質量であった。
テンタとスムカの距離も、太陽と地球のそれと、ほぼ同じであった。
しかしながら、スムカの大気は、原始の地球に似ていたのである。
先に、机化一はUと共鳴し、ネオUとなり、宇宙へ旅立った(嘘空間記:SOSブラックホール)。
彼は宇宙を彷徨った。
さ迷いの中に目的もあった。
その目的の一つは、地球に似た環境の星を見つける、ことであった。
スムカは、そんな星の一つであったのだ。
スムカは、冷えて安定してきた原始の地球に似て、大まかに言えば、岩石と海洋とガスの星であった。
ガスは成分の中に、火山活動によって生成されたものを多く、含んでいた。
ガス層は薄く、昼は強烈に暑い。夜はその逆であった。
化一は決意した。
彼は彼以外にも、ネオUとなって、何時かは地球人が、この地に現れてくれるであろうことを夢見ていたのだ。
惑星スムカを、地球型生物の住める環境に変えてゆくことを決意したのだ。
体内に素粒子融合炉を有するUは、あらゆる無機物を合成する能力を持つ。
有機体である机化一が、共鳴合体したネオUは、有機体をも合成する。
彼らは、まずドームを造った。
ドームの内側に疑似地球環境を創出した。
化一が育ち暮らした、日本の中国山地の、山間の村に似た住環境であった。
これはかって、消滅していた故郷の生家を再現した経験が、大いに役立ったのである。
持参した草木の種子が役立った。
⑵
ドームの内側において、化一はUと分離し、一人の人間として暮らせた。
彼らはひたすらにドームを増やしていった。
ドーム間には、仕切りが設けられた。これは、ドーム間の伝達災害等を防ぐためである。
だが、同時進行で、自然浄化も行われている。
ドーム外でも、酸性成分とアルカリ成分は、互いに反応し、より中性の大気や岩石や土砂等に変化して行く。
極めてゆっくりではあるが、スムカの環境は地球に似てくる。
UやネオUの能力は優れてはいるが、このプロジェクトを完遂するには小さい。
可能ならば、UやネオUのような、仲間達を呼び寄せる必要もある。
そんなある日、化一は透明なドームの中で、芝生に横たわって、天空を仰いでいた。
海洋に近く、火山活動からは、離れた場所であった。
彼は、少年時代から、天空を眺めることが好きだった。
そのころも孤独を好んでいた。
彼は、孤独に慣れていたのであった。
記憶上、懐かしい人々はいる。
遥か遠いこの星にいて、今は無き人たちを想う。
時には、ドームを透かして見える、このスムカの空に、その人の顔や姿が浮かぶ。
巨大な想い出ビジョンにもなる。
スムカの、地球環境化対策に、避けて通れない問題がある。
ドーム外で生きられる有機生命体、を見つけることがある。
かって、太古の地球で発生した原始の生命体が、自らに合うように地球環境を変え、あるいはその環境に合うように、自らを進化させていったごとく、現状のスムカ環境に合致した、そのような生命体を見つける必要があったのだ。
だが、それらには悠久の時が必要であった。生命の星地球は、一朝一夕では成らなかった。
⑶
仰向けの化一の足の方向から、地平線の方向から、中天に向かう白いものが現れた。
複数であった。
次第に数を増してゆく。
音が低く聞こえてきた。
様々な形の飛行体である。
地球に居た頃、化一は時折、夢を見た。
故郷の、南方向に開けた山間の村で、突如として、天空いっぱいに、様々な形をした、数限りない飛行体が現れ、南から北へ向かって飛んでくるのを。
爆音を轟かせている時もあれば、シーンと静まり返っている場合もあった。
宇宙人の襲来を思わせる、迫力ある、異様な夢であった。
今、化一の眼前で起こっている現象は、その夢にそっくりであった。
夢の場合は、その迫力のためか、そこで目が覚めた。
だが今は、夢と違う。
彼らは高度を下げている。
スムカに着陸するのか。
白色に輝く銀色の飛行体は、滑らかに見える。
平地を目指しているのか。
化一は身を起こした。
北方向に広大な平原がある。
先頭は、まさに、その平原に降りつつある。
化一はUを呼んだ。
直ちに、Uは出現し、その直径100mに及ぶ碁石形の巨体を、ドームに着けた。
化一は、Uの中に入り、気晶体となり、中枢部で燈黄色に輝いて、Uと共鳴合体した。
その瞬間、彼らは、より能力の高いネオUへと、変化したのである。
⑷
ブラックホールで、X線等の、素粒子を食して成長した、高度知能生命体Uの仲間は、その体内に素粒子融合炉を有する。
その融合炉で、あらゆる種類の元素をつくる能力がある。
さらに、如何なる化合物をも合成する能力を備えている。
Uとは、地球人の名づけた、彼への呼称である。
同様に、地球の人間達は、彼らの仲間の総称を、彼らを発見した当初の呼び方に基づいて、Nb(エヌビー:ノンブラックホール)と名づけた。
Nbは、他にも、素晴らしい能力を持っていた。
その一つが、空間を移動するスピードであった。
彼等には、異次元空間を利用する能力があったのだ。
これは、ブラックホールで育った彼らの身に着いた能力であった。
超重力から身を守る能力でもあった。
彼らは、この三次元空間を、一瞬に、異次元化して進む。
机化一には、それが、三次元空間を、二次元化して突き破り、より遠く離れた三次元空間へ移動するがごとく、想われた。
だが単に、別な異次元を利用して、その場を迂回しただけであったのかも知れぬ。
かっての、机化一は、Uのこの能力を利用して、宇宙の果てまで到達したのだった。
Uにとって、この惑星上で、大平原に行くのは簡単であった。
だが、たった今、そこに着陸している、多くの飛行体に関しては、まだ謎からのスタートであった。
Uにはさらに素晴らしい能力がある。
無機質の彼の巨体には、きはめて高度な知能もあった。
高度な、情報収集能力と、それを解析する能力もあった。
ネオUは情報を得、瞬時に解析しつつ、大平原へ向かってゆく。
⑸
ネオUは、机化一とUが一体化した生体である。
しかしながら、両者間の会話もある。言わば、気の合った運命共同体でもある。
大平原へ向かうネオUの中で、Uが言った。
「あの宇宙船の中には、君と同じ生物が多数いる」
「えっ、地球人か!」
「いや、地球人とは断定しないが、ほぼ地球人と同じ生物がいる」
「どこの星から?」
「わからない」
、
太陽テンタの光をあびて、白銀色に輝き、大平原に着陸した飛行体群。
内部には、多種多様の生命体が存在した。
しかも、地球人とほぼ同じ生物もいるらしい。
「危険度は?」
「低い」
ネオUとして、彼等から受ける危険度は低いらしい。
少し間をおいて、Uが言った。
「彼等の方が、こちらを警戒している」
数機もの飛行体が、砲らしき物を、ネオUに向けていた。
「離れる」
直径100m碁石状巨体の、ネオUは、大平原の中空から離れ、距離を置く。
「彼等に、我々が敵でないことを、知らせる必要がある」
「その方法は?」
「まず、彼らの言葉を知りたい」
地球において、Uの通信パルスを解読し、地球人との会話の糸口を作ったのは、他ならぬ、机化一であった。
「今度も、君のパルスを送るか?」
「どんなパルスを?」
「平和を伝えるパルスだ」やや間をおいて。
「彼等の中には、地球人と、ほぼ同じ生物がいると、君は言ったな」
「うん」
「平和の歌を流そう」
「うん、どんな!」
机化一は即断に言った。
「日本の歌、ふるさと、だ」
それは、いつも彼の心にある歌であった。
ネオUは、大平原の宇宙船群に向かって、それを奏でた。
恰も、地球の、田舎の町の、時を知らせるメロデイのごとくに。
⑹
“うさぎ追いし、かの山 こぶな釣りし、かの川 夢は今もめぐりて 忘れがたき、ふるさと”
ネオUの奏でる、穏やかなメロディが、大平原に流れる。
「地球に比べて、酸素濃度は低いが、大気濃度としては、大きくは違わない。音の伝わりに問題はない」とUは言う。
「ここで、このメロディを聞くとは、予想外だ」と化一。
「宇宙船群が何となく騒がしい」情報能力に優れたUが言う。
宇宙人達が、メロディに、反応しているらしい。
「うん、どう出るかな?」
しばしの時が流れてゆく
そして、同じメロディが返ってきた。
宇宙船群の、おおよそ中央に位置する、艦からであった。
ネオUとは異なる音色であったが、化一には爽やかに聞こえた。
しかし、少し間をおいて、流れてきたメロディがあった。
それは、”赤とんぼ”であった。
彷徨える宇宙人(サドン編)
地球から、およそ、41000光年離れた、M61銀河の惑星サドンの住人、サドン人に、最初の悲劇が訪れたのは、地球西暦1926年に観察された、この銀河内の超新星の時である。
超新星は、凄まじい爆発光を伴い、周囲を照らす。
その光は、強烈な放射能を伴い、広大な周辺に、多大な影響をもたらす。
惑星サドンも、例外ではなかった。
爆発の中心で生じた、強烈なエネルギーの放散は、惑星サドンに達するころには、弱まっていた。だが、この放射線は知的生物であるサドン人を変えたのである。
この放射線は特異な粒子qを含んでいた。
qは脳内細胞の知的細胞部分に作用した。その部分の活動を変えててしまった。
qを含む放射線(qレイ)を受けたサドン人の脳は、その知的活動を停止してしまったのである。
その一瞬の間に、大部分のサドン人達の知能は退化した。
サドン人の世界は大混乱におちいった。ほとんどあらゆる機能が、事故と破壊と停止に向かって、短期間に突き進んでいった。
組織的な動物生態も、にわかには生まれてこない。悲劇の中にさらに悲劇が次々と生じて、混乱はやがて頂点に達する。
やがて、惑星サドンのサドン人は、年月を経て、彼ら独自の生態系を作り上げていった。
主な住みかは、知的だったサドン人の残した廃墟であった。体毛の乏しい彼らには、暖をとるのに、この廃墟と、内部に備えられていた繊維製品等が必要だったのである。
ここに至り、人口は大幅に減少していた。
事故と破壊と病気と飢えと争いと気候がその主な原因であった。
極めて少数だが、qレイの照射から免れたサドン人達がいた。
⑴
超新星生成の大爆発は一瞬か!。
サドンに降り注いだqレイの照射はおよそ一週間。
その間、地底深くで活動していた者もいた。
その彼らが、この照射を免れた。
彼らの一部は、地底で通過してくる宇宙線を観察していた。
彼らは地底で、地表の混乱を知った。急に途絶えた地表との交信がその発端であった。
同時に宇宙線量とその種の、激しい変化を観測した。
交信の断絶は地表だけでは無かった。比較的浅い地下でも生じていた。
地上との通信系統に異常は無かった。
人的異常が推測された。
彼らは、慎重な行動をとった。
彼らの居た宇宙線観測所は、深い地底から浅い地底へと、さらに地表の構造物へと、各所に観察拠点を備えていた。分厚い岩盤をえぐって造られた構造の観察施設であった。
それぞれの地点で、そこまで到達する宇宙から来た素粒子を観察し記録していたのであった。
標低(マイナス標高)150mの観測拠点の所員が、通信で身体の変調を訴えた。より下部の所員が対応した。
訴えた男は、その行動が極めて不安定になっていた。正常と異常が混在し、そしてトータルとして異常であった。
即座にその状況が、下部へ伝えられた。
そしてすぐに、彼ら二人は下部へと下った。異常が上部にあること、危険が上部にあること、を察知していたからである。
上部からの通信は無かったのである。
彼らは異常の原因がqレイにあることを推測した。そして、それが収まるのを待って地上に出た。
地上に残されたデータは、身近な大爆発(超新星)を示唆していた。
そして、彼らの仲間達の悲劇を目の当たりにしたのである。それは彼ら自身の悲劇であった。
地上では、多くの設備や道具類が、まだ正常であった。
まだまだ多くの食料があった。
地下で難を逃れた所員達は、とりあえず自分達の住み家を、その宇宙線観測所に置いた。その理由の一つは、さらなる超新星爆発を懸念したからである。
⑵
正常に残された所員達が行動を開始した。
まず、敷地の周りに簡単な、しかし退化人の侵入出来ない、バリケードを造った。
一部の武器も確保した。
次いで、中期的な食料の確保と交通手段の確保に向かった。さらに、衣料品・医薬品等多くのものが運び込まれた。
当面の生活安定が確保されていった。
”他にも、生き残った人間がいるはずだ。対処していこう” 彼らの中での会話が具体化する時期がやってくる。
残された所員は18名、男性15名・女性3名、であった。
結果として、まず、各地で多数の地下勤務者の生存が確認された。
その中には有能な人物が多くいた。否、ほぼ全員が有能であった。
宇宙に関しての天文学者や物理学者が多いのは当然であった。
加えて、メンテナンスを担当する工学の専門家や技術者、体調を管理する栄養・医学の専門家、通信技術の専門家も同様に多くいた。
若い気鋭の者が大半を占めていたのである。
彼らは、集まることを提案した。
まとまった一つの共同体をつくることが重要であった。
そして、宇宙線観測所の一つが存在する大陸に近い島を選んだ。
その名はペナ島であった。
ペナ島は周囲が数キロの小さな島である。
悲劇が起こるまで、家庭を持つ観測者は、その家族と共に暮らしていた。
地下から出てきた観測者達は、より身近な悲劇に直面したのであった。
ペナ島で、自治体が出来上がった。
彼らが決めた、これからも彼らが決める、彼らの世界が生じていった。
退化した家族達に対しては、特別な管理体制がとられていったのである。
子供が生まれる。
正常人、退化人を問わず。
退化人はDNAにも異常をきたしていた。その子供も異常であった。
この退化人のDNAは研究対象に取り上げられていった。
時は過ぎ、正常人の数も当初に比して、かなり増えていった。
世代が次第に代わって行く。
そして、35年が経過した。
(3)
そこから、40000光年以上離れた地球の、西暦1961年のことである。
それは予期不可能であった。
M61銀河の中心で、明るい光が観察されたと同時に間髪を置かずに、惑星サドンの地表へq粒子が降り注いだのであった。
再び悲劇は繰り返された。
今度も地下に潜っていた人のみが異常を免れたのであった。
正常に生き残った者達のショックはあまりにも大きかった。
再興の支柱であった多くの人が、もはや役に立たぬ存在へと変化したのであった。
残った正常者達は地上に出ることを恐れた。
彼らの主たる生活拠点は地下200メートル以下へと限定されて行ったのである。
以前にも増して苦難の時が続いた。
主たる生活拠点が地下となっても、完全に地上と離れることは不可能である。
遠い将来はいざ知らず、早期に地上から離れきることは不可能であった。
食料の生産・確保、エネルギーの調達、資材の調達等の様々な地上での用事が不可欠であった。
彼らは、必要最小限の人数で且つ順番制でそれを行った。
もし地上活動中に超新星爆発のq粒子が降り注いだら、その時が彼らの知性の終焉である。
そして3年後、地上活動中の彼らに終焉が訪れた。地球西暦1964年であった。
知性を有したまま生き残った地下生活のサドン人達の苦悩は増して行く。
誰かが言った。否、同様の声が多かった。
「こんな星は、もう、いやだ!」
「この星から脱出しよう!」
「この銀河は不安定な星が多い、超新星爆発の発生が多い」
「この銀河から離れるのだ!」
「宇宙船を造れ!」
真剣な討議が、この方向で為された。
”この星・サドンから脱出する。M61銀河系を脱出する” が、ひとつの結論であった。
広大な宇宙を移動し、理想の星を探す。
いつ果てるとも分からぬ”彷徨える旅”に出ようと言うのだ。
この目的に向かって始動を開始したのである。
だが、この結論に全面的に賛成しない者達もいた。
彼らの考えは”q粒子の防護壁をつくるべし”であった。
この説自体は正論であった。が、可能か否かは脱出説と同様に不明であった。
⑷
時は流れてゆく。
非常事態に備えての、複数エキスパート制の中で、進められて行く。
結論が、具体的化されて行く。
脱出の行程は、サドンの引力圏およびバル(サドンの太陽)惑星圏を脱出し、次いでM61銀河圏を脱出することである、これらをクリアする技術と装置・装備が必要である。
それらには。途方もない問題をはらんでいた。
よしんば脱出出来たとしても、その先は保障されていないのだ。
”完全なるアドベンチャー”試みとなるのだ。
宇宙を航行するための徹底的なエネルギー対策が検討される。
同様に食料対策が、そして心の対策が、安全対策と共に検討される。
それらは”彷徨える(さまよえる)宇宙人としての対策”であった。
脱出に採用された大まかな具体策は以下のごときである。
1.サドン軌道上に脱出基地を組み立てる。
2.脱出基地で宇宙船を組み立てる。
3.サドンを脱出する。
サドン赤道を回る、静止円軌道を目指し、部品・材料・燃料・食料等が次々と打ち上げられる。
同様に、人間を静止円軌道に乗せるための、ピストンロケットと、小形居留衛星が造られてゆく。
もはや、中心となっている大多数のサドン人は、q粒子パニック中の世代と、パニック後(地球西暦1964年以後)世代であった。
彼らの中には、胎児の時に、あるいは生誕後間もなく、q粒子を受けた者も少なからず居た。知的q被爆者である。
知的q被爆者は優れた頭脳を持つ者が多かった。
頭脳組織の初期成長段階で経験したq粒子過が、知能組織を変えたのであろうか。この脱出計画に大きく寄与していた。
前にも記したが、q粒子を受けた退化人はDNAにも変化を来たしていた。
脳の未発達時にそれを受けた知的q被爆者(略称:IQH)も同様であった。結果として彼らに対して、q粒子はプラスな影響をしていた。
⑸
脱出基地が建造される。
未知へ向かう宇宙船が組み立てられる。
そして最初の一機に出発の時が来た。
乗組員は男女12人づつの24人。
船体の推進力として、メインおよび複数の補助エンジンとして特殊なイオンエンジンが採用された。
さらに特殊な配線が宇宙船全体を被っていた。
それは、まだ未完成であったが、超4Dタイムコントロールシステムがあった。
超4Dタイムコントロールシステムとは、タイムトラベルを可能にする装置のことである。
IQHの頭脳がもたらしたマシンであった。
その完成度が試されるのは、暗黒の宇宙空間に出てからであった。
タイムトラベルには、暗黒空間がもっとも容易であるとの論理であった。
暗黒空間自体が、不明の空間ではあったが。
そして、最初の一機は飛び立った。
バル太陽系のプラネット間を通過し、バルの引力圏をぬける。
卵型銀河空間へ静かに躍り出てゆく。
サドンとの通信は次第に遠のき、後方に置かれてゆく。
まずは、はこの卵型ギャラクシーを離れることにあり、q粒子の被害から逃れることにある。
そして、最終的な目標は安全な惑星を発見し、そこに住着くことであった。
その過程が如何に永くとも。
彷徨える、サドン系宇宙人のスタートであった。
宇宙は無限の謎に満ちている。謎に包まれた世界、否、謎に開かれた世界が宇宙である。
我々、地球人の科学力は、その謎の一部を明らかにしたのに過ぎないのだ。
科学が今よりも未発達だった時代、想像力に支配された世界が、そこにあった。
あなたが、現在は科学の発達した時代であって”ほとんどの事が既に解明されている”と考えておられるならば、宇宙について二つだけお聞きしたい。
「宇宙に果てはありますか?」
「宇宙はどの様に出来ているのですか?」
答えたいあなたは勉強して下さい。
興味があるならば、その謎を解明して下さい。
やがては滅びゆく地球・太陽・銀河系から、我々の遠い子孫を救う礎を見つけるかもしれません。
今も科学は十分に未発達です。
しかしながら、想像力に満ちた人達の世界とは言えません
空想をしましょう。
夢を持ちましょう
誰もが抱いている心の中のロマンを大切にしましょう。
彷徨える宇宙人(ダークスペース編)
(1)
男女24人のサドン人でスタートした宇宙船は暗黒の空間を飛行しつづけた。
大気のない空間は暗い。その空間に恒星のみがスポット的に明るく浮かぶ。
「航路は順調だ」 と、キメロン。
「ブレーキは出来るだけ使うな」 と、最年長のカイン。
「承知だ。いつ果てるとも分からない航海だ、燃料は貴重だ」と、 担当(機関長)のキメロン。
「大気の無い空間は、摩擦減速の少ない慣性の法則の世界だ。
我々は目的の星に着くまで、飛び続けねばならない。
大気は無くとも放射線はある。恒星との距離に注意しながら、スイングバイ航法で乗り切るのだ」 カインは乗組員全員の長(船長)でもある。
「現状、宇宙塵帯は避けるのだ。ガス帯もだ、宇宙船の損傷を避けねばならない」
「放射線などの観測は我々に任せてください」 ウリキが言った。弟のシャーリキとは双子である。彼らはIQH(知的q粒子被爆者)なのである。
「大気はおろか、現状知られる限りの最小素粒子、さらにそれ以下の小粒子放射線も検出してみせますよ」 自信たっぷりにシャーリキも応じる。
「今はエンジン停止状態で船は進んでいる。消費しているエネルギーは船の内部で起こっている。船内エネルギーの保存にも留意してくれ」
「リサイクル装置は万全です。宇宙線エネルギーの利用と保存の技術も実用化が近いわ」 と、ターワ。彼女もIQHである。
「エネルギー保存の法則に合致した設備が完備すれば、最高なんだがな」 カインは笑いながら言う。「エントロピーがね」 と。
「だから、分散するエントロピーを、外部からの放射線エネルギーでまかなうのです」 と、ターワ。
「うーん、期待するよ」 カインは、IQHの能力を尊敬しつつ、畏怖していた。
「ダークエネルギーの利用か」 カインはつぶやいた。
ダークエネルギーとは、全宇宙を構成する全てのモノの73%を占める未知のエネルギーなのだ。残りは23%がダークマターであり、我々が感知しているモノは4%にすぎないのだ。
と、言われている。
いま、この宇宙船は、真空の大気の中を飛行しているのではない。おそらくは、ダークマターとダークエネルギーに満ちた空間に浮かんでいるのである。
バル太陽系は抜けた。
だが、この銀河(M61)を抜けるのさえ、容易ではない。まして、他の銀河系に到達することは、現状のイオンエンジンでは不可能に近い。
元より、自分達の世代で、目的となる星に到達しうる可能性は極めて低いのだ。
q粒子を放つ過去の超新星爆発は、この円盤状銀河の中心付近のバルジ(膨らみ)で発生している。
惑星サドンの属するバル太陽系は中心から外へそれた位置にある。
宇宙船は、半径約1万5000光年の銀河円盤の中心から、円盤の先端に向かって離れてゆく。
なおも、銀河圏の先端までは、遥かなる距離がある。
⑵
距離や時間を超えて、なお其処に存在する自分達が、必要なのだ。
そんなことは不可能、我々地球人の一般的な考えである。
宇宙空間に飛びだすサドン人の考え方はこうである。
”異次元空間を利用する”
異次元の存在なくして、三次元立体構造だけでは、現宇宙は考えられないのだ。
宇宙船に装備された超4Dタイムコントロールシステム(S4DS)とは、現次元でのあらゆる大気や放射能をも、完全に遮断する装置なのである。
サドンでの実験は大気・放射線の絶対遮断にまでは至らなかったが、極めて近い時点において、特異な現象が発見されたのであった。対象となった物体の大部分が消失したのであった。固体が蒸発したのではない。固体・液体・気体を含めた多様体物質の質量が消滅したのである。
この次元から消滅した物体はどこへ消えたのか?
彼らは”異次元へ移動した”と結論した。他に考えようがなかった。
では、異次元へ移動した物質はどうなったのか?異次元でのこの物質の経過は? 当然、現次元の存在者には分からない。
だがここに、興味深い提案者が出現した。
若き考古学者、ジューラであった。
彼は消滅した一つの固体に注目した。それに酷似したモノを知っていたのである。
その物はペナ島の山中にて発見され、謎の物体として、これまでに扱われてきたところの、円筒形のマヌカイト(古銅輝石安山岩)であった。
マヌカイトはペナ島では本来産出されない岩石であった。
その形状には、人工的な様相が強く表れていたのである。
ジューラは、この二つの物体が似ていることを、提案したのである。
超4Dタイムコントローラーシステム(S4DS)の発案者であり、実験責任者であったアシュロが、それを確かめた。
その結果、ペナ島で発見された円筒形のマヌカイトは、古く長い年月経過による、多少の欠損や汚染が見られたけれども、実験によって消失した固体に間違いがないことが確定したのであった。
有史以前の火山活動によって生成したマヌカイト、その円筒に書かれていた微かな文字の痕跡、痕跡中の元素の経時年代分析で、それは凡そ2000年前のものと分かった。
話はややこしい。
このシステムの実験によって消失したマヌカイトは、異次元に飛ばされ、さらに凡そ2000年昔の時代へと時間を下った後、現次元に出現したのであった。
異次元に空間(?)があり、異次元から、この次元へ入ることも可能なのだ。
もしかして、その次元空間(?)から、任意のこの次元の、任意の空間への進入も、可能なのかも知れないのだ。
(3)
この実験のポイントは、実験対象物の、外界からの遮断にあった。
当然、q粒子も外界因子として、遮断の対象であった。
実験時点において、q粒子の飛来は無かったが、それが存在していたとしても”遮断し得た”と確信出来うる、実験結果であった。
ここで当然の議論が起きた。
「宇宙へ逃げる必要はない!」
「S4DSでは野外活動は不可能だ!」
「子孫のことを考えろ!」
白熱した議論の末、両者の言い分は、共に採択された。
共に大きなリスクがあったが”若者は宇宙をめざす”・・これを押さえることが出来ない。
そして、第一陣が宇宙へ飛び出したのであった。
「リスクだな」
「アドベンチャーだな」
「リスクやアドベンチャーがあるから人生は楽しいんだ」
宇宙船の乗組員は全員が夢とロマンの持ち主であることに間違いはなかった。
リスクやアドベンチャーが何故楽しいのか。
それは、それらが大きければ大きいほど、彼らの全身全能を試されることになるからであった。
軽いリスクや軽いアドベンチャーはもちろん楽しい。
自信に満ちたサドン人の集団、それが彼ら24人であった。
S4DSは外界からのあらゆる粒子を遮断する装置でもある。これの担当者は、サドンに残ったアシュロ、の直弟子であったシャクラであった。
飛来する素粒子を吸収し、宇宙船内のエネルギー源に転換しようとする女性ターワとは、対照的な存在の好ライバルである。
現状、S4DSは不稼動であり、ターワのエネルギー転換研究は進んでいた。それは並行して、放射線吸収装置の開発宇宙船は放射線レベルのより低い空間めざして、暗黒の道のりを進んでゆく。でもあった。シャクラは良き協力者であった。
宇宙船は放射線レベルのより低い空間めざして、暗黒の道のりを進んでゆく。
だが、シャクラの担当するS4DSを稼動させるに好条件の、暗黒度の高い(極低密度放射線レベル)空間はまだ出現しない。
「我々は、この渦巻状銀河のディスク面に沿って平行に進んでいる。この面にいる限り、放射線レベルの極端な低下は望めない。なぜならば、この銀河上の恒星群の分布範囲内にあるからだ」 カインが言う。
「スイングバイ航法を利用し続けるには星の引力・遠心力が不可欠だ。だが、これでは銀河を抜けて、ハイレベルの暗黒空間に達するまでに、我々全員は、年老いて、とっくに死んでしまっている」 キメロンも応える。
「ディスク面に対して、より垂直に航行する、それしかないのだ」 カインが続ける。
「ディスクに対して、より垂直な自転をしている遠心力の強い惑星を利用しよう。それにより、ディスク面をはなれることにしよう」 と、結論づけた。
(4)
乗組員全員が集められ、説明がなされる。
ターワが言った。「放射線エネルギー吸収バッテリー(RB)は完成間近です。もう少し待って下さい。その後、バッテリーを充電してからディスク面を離れるのが得策です」
「バッテリー容器の問題点は解決したのか?」 と、カイン。
「ええ、シャクラの協力でS4DSをヒントにつくり上げました」 と、ターワ。
「より低性能なS4DSで十分な効果があります」 と、シャクラ。
「より有効に利用可能な星に遭遇するまで、まだかなりの時があるだろう。ターワもシャクラも頑張ってくれたまえ」 「なるほど、放射線を遮断する装置は、放射線をエネルギーに転換し溜める容器にも使えるわけだ」 と、カインは続けた。
「成功すれば、この宇宙船の航行エネルギーは無限だ。期待するよ」 キメロンも嬉しそうである。
「より有効なエネルギー源となる放射線帯の観測は、我々に任せてくれ」 ウリキとシャーリキもエールを送る。
「食料品調達計画にもスグレモノになりそう」 食品担当の生物学者女性マユルも期待が大である。「だって、幹細胞からの肉や野菜等は、いくら美味しくても、精神的に飽きるでしょう。光と熱で栽培した野菜や果物を、多量に準備したいですからね」
「腕が奮えるね」 と、コックのトック。
「自力で、渦巻き銀河の皿から垂直に脱出できるかも」 カインは思った。
時はいくらか過ぎてゆく。
低性能S4DS(LS4DS)がS4DSの内側に張り巡らされる。両S4DSの中間にRBの基板が設置されてゆく。
RB基板は放射線エネルギーを熱エネルギーや電気エネルギーへと変換可能な基板である。
開閉可能な宇宙線吸収口が、十数か所、船体の周囲に設置される。大型の吸収盤も数箇所の吸収口に取り付けられる。
「順調だな」 と、エネルギーレベルゲージを見ながら、機関長のキメロンは、ターワに言う。
「宇宙に放射線は無限です。推進エネルギーと生活エネルギーの量的問題はこれで解決します」 と、ターワ。
「時が来れば、さらに機材用の材料も調達が必要だ」 と、カイン。「とりあえず、エネルギーを満杯にしよう」
そしてRBは完成した。
放射エネルギーは恒星が多く出す。
身近な恒星に接近する。やがて、RBはエネルギーで満杯となった。
宇宙船は、その恒星の巨大衛星(惑星)を利用してスイングバイし、ディスク平面から垂直方向へと、脱出する。
ウリキとシャーリキの逆探索が始まった。
それは、極低レベル放射線空間の探索である。
「さしづめ、重力の無い擬似ブラックホールをさがすと言うところだな」と、ウーリキ。
「放射線の射さない闇帯でもいいさ」 と、シャーリキ。
「そんな場所~、有るのかな~」 と、二人同時に唱和する。
「その気の合うところで、よろしく頼むよ」 と、カインも笑いながら相づちを打つ。
他の乗組員も拍手する。チームワークは良好である。
(5)、
皿とは言え、銀河の皿は、それほど薄くない。
しかし、宇宙塵帯やガス帯を避けてきたこれまでの航行が、いつの間にか、宇宙船を、皿の最表面に浮かんだ状態に保っていたために、比較的に容易に皿を抜け出すことに成功した。
初速スイングバイのスピードはほとんど落ちず、イオンエンジンが加速する。
「すごい、このままでは、光速級のスピードも可能だな」 ウリキがおどける。
「まさか」 カインが笑う。
「宇宙線量が急速に減少してきたぞ」 計器を見るシャーリキが報告する。
乗組員全員に、これまでとは異なる緊張感が高まってきた。
サドン脱出に続く二度目の正念場が近づいてきていた。
それは、全員が”自らを異次元に飛ばす!”と言う、未知への不安のためであった。
不安”今さら何をか言わんや”であった。
希望や夢は、そこに有ったからである。
”他の銀河、q粒子の無い、安全な銀河へ” が彼らの当面の希望と夢であった。
全員覚悟は出来ていた。
否!、サドン人の希望と夢であった。
試行錯誤の、時間も場所も存在しない。
「ところで、S4DSの性能は未だ未知だ。仮に、異次元へ進入したとしても、その先が不明だ。未知の異次元に、そのまま留まるのか、過去あるいは未来へと、どの様に移動してしまうのか、どうやって現次元へ戻るのか、皆目不明だ。何か手立てはあるのか?」 と、キメロンがカインに聞いてみる。
「わからない。全ての様相には次元が異なる要素が含まれる。我々が、一時的にせよ現次元から消滅することだけは確かである」 と、カイン。
「ほぼ自殺行為に等しいな」
「そのとおり」
「全員、その覚悟で来ている」
「わくわくするよ」
宇宙船(spaceship)は銀河渦巻きから垂直に離れ、徐々に、より暗黒の空間へと侵入して行く。
皿を離れて、宇宙線量は確かに減った。だが、その減衰曲線は時間軸に対して、ほぼ平行になってきた。もはや減衰曲線とは言い難い時期が訪れた。
「この辺りで手を打たないと、我々の寿命が尽きてしまうよ」 ウリキが半ば怖気て、背伸びしながら声をだす。
「うん」 カインは船長席で腕組みをする。
全員に緊張が走る。
「待てよ!」 そのとき、シャーリキが叫んだ。
(6)
「これは何だ!」 シャーリキが叫んだ。
「変だ!」 ウリキも首を傾ける。
「どうした」 カイン達もレイビジョンの前に集まる。
「この画面の空洞は何なんだろう。まるで、ダークスペースの中のブラックホールだ」 ウリキが指さす画面にはポッカリと空洞があった。
「計器の故障じゃないのか?」
「サブビジョン画面も同じだ。故障じゃない」
・・・・・・・
「もっと、近づくのだ」 カイン。
「X線は?宇宙ジエットは?」 キメロン。
「周辺に超重力を示す兆候は無い」 「新タイプのブラックホールだ」 ウリキとシャーリキが強調した。
宇宙船は近づいてゆく。
全乗組員が緊張し高揚していく。
「これは!」 再び、シャーリキが叫んだ。「これは、ブラックチューブかもね、次元がつかめない存在だよ」 その表情は、あきらめ顔の笑みである。
「そうか!ホールならば、奥行や深さが幾らかでもつかめるんだがな」 ウリキも兄弟に合わせる。
「先は異次元、何一つ解っていないの!」 ターワがたしなめる。
「よし、全員を集めろ!」 カインが号令した。
・・・・・・・・・
「諸君、ついに来るべき時が来た。これ以上は無いと考えられる”ダーク空間”がそこにある。
異次元へ飛び、遥かなる空間へ脱出する時が来た。この宇宙線すら存在しない真黒空間には、S4DS(超4Dタイムコントロールシステム)すら、現状必要としない。
だが、このS4DSが必要となる時が必ずくるだろう。
諸君、自身の体を固定してくれたまえ。なに、恐れることはない。我々は宇宙船サドン号と共にある。どこまでも!」
・・・・・・・・
「キメロン、頼む!」
「OK!]
「マックロ空間まであと何分だ?」 キメロンの声。
「不明だ!が、外部空間から判断すれば、およそ27分だ!」 シャーリキが応える。(*お粗末なSFにつき、地球での時間を採用させていただきます)
「イオンエンジン停止!」 キメロンの声 「予定の行動に移れ」 と。
「エンジンおよび全てのエネルギー吸収および放出装置を収納せよ!」
・・・・・・・・
宇宙船サドン号は殻を閉じ、カプセル状の機体へと変形していった。惰性が宇宙船を異次元空間へと導く。
(7)
異次元空間が目前に存在し、そこへ”サドン人にとっての、既存次元空間から侵入(進入)する”と言う事は、異次元側から判断すれば、異物質が侵入してきたことになる。”異物は排除される”と言う原則が、この次元空間に於いても適用される可能性がある。
「スピードは?」 カイン。
「ジャスト1マッハだ!かなりの減速だ」 と、キメロン。
カプセルとなった宇宙船サドン号は、排斥を覚悟して、異次元空間へと飛び込んだ。
24人のクルーは息を呑んで、状況を見守る。
・・・・・・・・・
「変化は?」
「無い?!」
「時計は?」
「正常だ!」
「外部は?」
「レーダー停止状態!窓外をみろ!」
「闇ではない?!」
「明かりでもない!」
窓をのぞく全員が同様に、ビビッドに反応する。
「時間のチエックを忘れずだ」 カインが自分に言い聞かす。
「窓から何か見えるか?」
「見える!」 窓外を注視していたほぼ全員が言った。
「何が?」 少し遅れて窓に向かうカインが聞いた。
「さあね」 コックのトックが肩をすぼめた。
サドン号の左舷空間に、広く動的な映像が存在した。
宇宙であった。
暗闇の中に恒星が銀河が浮かんでいたが、以前と違っていた。
「動いているんだ!宇宙が!」 キメロンがカインに近寄り、言った。
「確かに!」 カインが応える。「宇宙船はどうだ?」
「計器上は停止している。自分の第六感的にも停止状態だな」 とキメロン。
「高みの見物、って感じ」 これも近づいてきたウリキが言った。
「まさしく!」 カインが同意する。つづいて言う。
「高次元からの眺めだ」
「より、低次元からの眺めではないな」 キメロン。
ここは正しく、既存宇宙よりも、より高異次元の宇宙、つまりハイコスモ空間であった。
点や線や平面や立体を越えた高次元に位置していた。否、位置の概念すら定かではない。
(8)
「動いている宇宙、あれは時間の流れだ!」 カインが指摘する。既に全員がそれを納得していた。
「我々は宇宙の暗闇を越えたのだ」
「我々の時間はどうなっているんだ?時間の流れは一定なのか?可変なのか?」」
「我々の位置は変えられるのか?」
「どうやって、元の宇宙へ戻るんだ?」
「ここはダークマターの中なのか?」
「ここにダークエネルギーはあるのか?」
「我々は目的がある。われわれの目的にそう行動は可能なのか?」
これらの全てが疑問符として残る。
彷徨える宇宙人(異次元の謎編)
(序)
おとめ座銀河群M61銀河の中心に発生した超新星は、地球年代2006年11月24日にも発見された。この発見をされたのは、日本人の板垣氏である。
この銀河での超新星は、過去1926年、1961年1964年に次いで4度目の発見であった。
M61銀河バル太陽系の惑星サドンの人類は、その都度、悲劇を被ってきた。
爆発と共に飛来した放射線・q粒子が、サドン人の知能を一機に低下せしめたから、である。
数回にわたる超新星爆発は、彼らを不安のどん底に陥れるに十分であった。
次には、いつ飛来するともわからぬ、q粒子を伴う超新星爆発であった。
ついに彼らの行動は、惑星サドンを脱出しょうとする動きへとエスカレートしていった。
・・・・・・・・
そして、
M61銀河の表面から飛び出した宇宙船サドン号は、ついに、より高次元の空間へ到達したとおもわれた。
だが、高次元の世界は、全てが未知の世界であった。高次元それは異次元である。
大まかに記せば、一次元世界は、点と線の世界であり、二次元世界は面の世界が加わる、三次元世界は立体の世界である。
我々のこれまで暮らしてきた世界は、これに時間次元を加えた、三次元プラス時間の世界である。
今回、宇宙船サドン号の到達した空間は、さらに次元を加えた高次元の世界らしい。
”ここはハイ次元ハイコスモスの世界だ!”サドン号乗組員全員がそう納得した。
(1)
「時計は正常に動いている」
「船内では、変わったことは、まだ見られない」
「船外の光景は大変わりだ」
「宇宙の動きをリアルタイムで見られるなんて信じられないよ」
「まるで高速度カメラ撮影によるスローモーション映像を見ているようだ」
「これは、何を意味していると思う?」 ウリキが茶化すような表情で、言う。
「我々は、あの宇宙の時間外に居る、と言うことだね。高見の見物さ」 シャーリキが、同様の表情で返事をする。
「それって、我々が置き去りにされているの?それとも、我々が先へ進んでいるの?」 ターワの思案顔。
「ここは、天文学者の出番だな」 ウリキ。
「そんな人、いないわ」 ターワ。
「宇宙が膨張しているのか?、収縮しているのか?いずれもクエッションマークだ。なにか特徴的な星等を観察しない限り、時間方向は解り難いんだ」 キメロン。
「我々は、我々の宇宙から、どんどんと時間的に、ひょっとすると時代的に取り残されたり、先へ進んでいる。これが最大の問題だ」 カイン。
「何かを試みよう」 キメロン。
「そうだ、そのとうりだ。シャーリキ、近くの星を観察してくれ、あの宇宙の時間経過がプラスかマイナスか調べてくれ」 カイン。
「オーライ」 とシャーリキ。「で、何で?」
「もちろん、望遠鏡でさ」 キメロンが笑いながら言う。
「とりあえず、頼む」 カインも微笑んで言う。
「わかった。俺、目がいいからな!」
「そして、平行してだが、少しテストを行いたい」 カインが言う。
「そうだろうね」 キメロンも合わせる。
「現状、宇宙船はカプセル状態だが、まずこれを変えてみたい」
「なるほど」
「キメロン、最初にエンジン口を開いて見てくれ」 しばし間をおいてキメロンが応えた。
「OK、・・・・異常なしだ」
(2)
船長のカインの胸中には、このハイ次元界に対して、ある推論が生じていた。
それは 「この次元界は”タイムトンネル”ではなかろうか?」と言う想像であった。これまでの、彼らが住んでいた宇宙の時間の外に、現在の彼らの時間があった。
この次元の中で、この宇宙船を動かしてみれば、如何になるのか?
単なる、この空間での位置的移動に終わるのか?あるいは?である。
”自由に、タイムコントロールが出来るかもしれない?”と言う期待であった。
彼はそれを試そうと考えたのである。
「シャクラ、S4DSを開けてくれ」 カイン。
「了解!」 S4DSの専門家シャクラが動く。「こちらも異常なしです」
「よし、二人とも、装置稼動スタンバイで、即停止にも備えてくれ」
「全員が、ショックに備えていてくれ」 と、カイン、さらに続ける。「シャーリキは、観察続行だよ」
「どうなるんですか?」 トックが怪訝顔で聞く。
「分からないね。ただ試行錯誤するのみだよ。事態を変えることが可能なのか、どうか、を試すのだ」 カイン。
「このままで好い、とは言えないからな」 ウリキが補足する。
「RB(放射線エネルギー吸収バッテリー)も必要なはずよ」 と、ターワ。
「すまない!そのとうりだ!」 と、カイン。
「おっと!高感度レーザーも必要さ!」 と、今度はウリキ。
「そーだ!全て、スタンバイだ!」 照れ笑いのカイン。
「おれも、美味い飲み物を用意するか!いや、これはまだ冗談」 トックも参加する。
「あとで頼むよ!」 と、キメロン。
結局、全員24名が集合した。男女各12名づつである。
カインが言う。
「時間が無いかもしれないので、簡単に言う。
どうやら我々は異次元の世界に突入してしまったらしい。これまで過ごしてきた宇宙は、あの様に、我々の外にある。
我々の外にあって、時間が流れている」
(3)
「ちょっと」 と、シャーリキが口を挟んだ。
「あの我々の宇宙の、時間は過去へ進んでいる。この我々は、未来へ突っ走っているのだ。その速度はわからないが、かなりのスピードだ」 と。
「ありがとう」 と、カイン、がつづける。
「ここは、ある種のタイムトンネルの様なものだ」
「まってくれ!」 今度はキメロンが口を挟んだ。
「あの我々の宇宙が、過去へ進むだって、信じられない。シャーリキ!過去へ戻っているって、本当か?」
「間違った!我々がどんどんと差を広げているだけだった。ウサギとカメの競争で、我々がウサギと言うわけだ。この次元の中の我々が、どんどん先に進んでいるんだ!時間軸を!」 と、シャーリキ。
「了解!我々が先に進んでいるんでは無くて、今いる我々の空間が、だろうな」 と、キメロン。
「衝撃があるかもしれない。各自スタンバイしてくれ!」 カインが一気に弁じた。
「そう言うことで、あの宇宙の時間よりも速い時間で進んでいる。
このままでは、どうなる事やら、だ。で、この空間を移動したい。出来れば、この空間を脱出したい。これから、それを試みる」
全員に緊張と覚悟が走った。
「まず最初に、キメロン!イオンエンジンを吹かしてくれ。徐々にだ!」
「オーライ!」・・・「反応は、シャーリキ!どうかな!」 キメロン。
「変化なしだ!・・つかれるなあ!・・ウリキ交代の用意を!」 ウリキがシャーリキの傍による。
「出力を上げろ!最大まで上げろ!」 カイン。
「だめだ!、何の変化も見て取れない!」 シャーリキが断言した。
「エネルギー排出は、効果がないんだ!」 キメロンが言う。
「ターワ!今度は君だ!エネルギー吸収装置を稼動してくれ!」 と、カイン。
「ハイ!RB稼動します!スイッチON!」 と、ターワ。
「変化なし!」 間をおいて、ウリキが応える。
「シャーリキ!レーザーを偏角稼動だ!」 と、カイン。
「変化なしだ」 ウリキが、さえない顔で応える。
(4)
「要するに、ここは異次元なんだ。我々の次元の操作をいくらやっても無駄だってことさ!」
「じゃどうするんだ?」
「どうもこうも仕様がないんだ!」
「あきらめ」
「他力本願」 次々と言葉が発せられる。
「それが正解かもしれないな」 カインが腕組みしながら言う。
「いずれ、我々はこの世界から消えるだろう。そんな気がするよ」 キメロンも声を出して言う。
「悲観的観測が強いな!」 コックのトックが好く透る声で言った。「美味い料理をご馳走するよ!」 と。
「頼む!」 シャーリキが真っ先に声を発っした。「休憩だ!」
「料理を手伝うわ!」 二人の女性、スジイとジョートがトックの後を追って、厨房に向かう。
「疲れた・・」 ウリキ。
「だろう・・」 と、シャーリキ。
「目の好い二人にしてはチョッと疲れすぎじゃないか?」 キメロンが座り込んでいる二人の席に行く。
「この次元は時間軸が異なるだけでもない・・」
「そうだ!何か変だ!」 ウリキとシャーリキがキメロンを見るともなく、応えた。
「何が変なんだ!」 カインも寄ってきた。他の乗組員も注目。
「つまり・・」 やや元気を取り戻しているシャーリキが難しい顔で言い出す。
「あの宇宙の遠ざかりかたなんだが、位置はほぼ同じだ」 「そりゃそうだろう」とキメロン。
「だが、あの惑星の回転速度は、どんどん遅くなっていく。つまりこちらの時間が速くなっているのだ」 「ふん、そうだろう。カメを追い越したウサギから見れば、カメは後ろへどんどん遠ざかるのだ」 とキメロン。
「距離じゃなくて時間がなんだ!こんなに疲れる理由が問題なんだ!テレビを見ているどころじゃない!」
「そう言えば、使い古した映りの悪いテレビ画面を見ているときの、疲れ方に似ているよ!] ウリキも口を挟む。
「オイオイ、ここに走査線も発光体も無いぜ!」 と、キメロン。
「おれは、猛スピードのカーチエイスを見つづけている間隔だな!」 とシャーリキ。
「皆さん、食事が出来ました」 スジイが現れた。そして、食事が運ばれる。
「まず一服しよう。良い答えが出るには、時間が必要なんだ」 カインが年長者らしく、自分の食事席に帰る。
(5)
「うまいね!」 最年少のセエタが、嬉しそうに食べる。彼は、まだ成長期のIGH(知的q粒子被爆者)である。
「そうだろう!」 トックも席について、これも嬉しそうに応える。「料理を覚えたくないかい。セ・エ・タ!」
「覚えたいね!何でも科でも!」
「それって、料理に限らず、何でも科でもってことだな」 トックは肩をすくめる。
「僕は、分からないことを、知りたいんだな」 セエタが遠慮がちに笑って答える。
「若い者はいいな!」 ウリキが横から口をはさんだ。
「ウリキだって若いじゃないか!」 セエタが言い返す。
「若いほど、発想が素晴らしいんだ!なぜなら、既成の理論にとらわれないから!」 ウリキが負けずに言う。
「それって、僕が理論的でないみたいだな!]
[そのとうり!」
「実は、僕は非常に理論的なんだ!」 セエタが少しばかり大きな声で言い出した。みんなが注目する。
「聞こう!」 と、キメロン。
「みんな、聞いてよ! この船はマッハ1で、この異次元空間に飛び込んだ。しかしですよ。先程のテストから、この船の動力は、この空間では全く用をなさなかった。これが何を意味するかと言うと、結論は明らかです」 と、一息いれる。
「分かったよ!セエタ!」 ウリキが感動的に応えた。
「引っ張り出そう!」 シャーリキも合わせた。
「何を!」 トックが怪訝な顔で聞いた。
「この船、宇宙船サドン号をさ!」 シャーリキがみんなに向かって宣言した。
「誰が!」 と、トック。
「俺達が、腕力でさ!」 と、シャーリキ。
「どうやって?」 今度も、トックが聞く。
「サドン号の後尾は、このハイ次元ぎりぎりの境い目にあるはずだから、後尾を後ろへ越えれば、すぐ元の次元へ復帰出来る。ロープを繋いで、船体をハイ次元から引っ張り出せばOKさ!」 シャーリキが一気にしゃべった。
「チョッと待って!」 今度はウリキがさえぎった。
「時間次元の違いをも、忘れているよ!」 と。
「次元境界を越えれば、たちまち時代遅れさ!住んでいる時代がずれるんだ」 と、つけ加える。
「じゃ、どうする!」 と、シャーリキ。
「いっきに船体も我々も、元の次元へ出るのさ!」 と、ウリキ。
「どうやって?」 トックが笑いながら、また聞く。
「二人ともずっこけだ!」 今度はカインが割って入った。これも笑っている。
「セエタ! 何か良い方法があるかね?」 と聞く。
(6)
「ないよ!二つの異なる次元を結びつける異次元間トンネルでも無い限りは!」 無理だ!と言いたいセエタである。
・・・・・・・・・・・・・・
「じゃあ、異次元間トンネルとまではゆかないが、二つの異次元を結びつけてみようか?」 カインが言い出した。
「え!どうやって!」 またもや、トック。
「簡単さ!結べ付けられなくても、やってみよう!キメロン ロープが有ったね」 と、カイン。
「太いのや細いのや、色々とね」 キメロン。
「太い劣化し難いタイプを後部のハッチに用意してくれ!そしてそのハッチから、さらに後部へ、そのロープを繰り出すんだ!」」 と、カイン。
「何を意味するんだ!」 と、キメロン。
「異次元間の境界にロープを送る。ロープがもう一つの次元に達すれば成功だ。達しなくても、接するんだ!!。意味するところは、単なる試行錯誤の一つさ!」 と、カインが一気に語る。
「なるほど、何となく分かるよ。やってみよう!」 と、キメロンが立ち上がる。
「送るのは、船内からの人力でだよ」 分かっていることを、ウリキが付け加える。
「ホイホイ」 キメロンが手を振る。「ウリキ、手伝ってくれ!」
「俺も行くよ!」 双子のシャーリキがウリキの後を追う。
・・・・・・・・・・・・・・
「これって、テレビのブラウン管の映像に外部から参加しょうってことに似ているよ」 セエタが独り言を言った。
「そうだ、二次元世界へ三次元世界から入り込むことに似ている」 もの静かなシャクラも同調した。
「やってみて、結果を待つ。現状、これしか思いつかないんだ」 カインがつぶやいて、三人の後を追った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「シャーリキ!」 追いついたカインが声をかける。
「望遠鏡を持ってきてくれ!できれば、二つだ!」
「双眼鏡ならば有るよ!」 と、シャーリキ。
「それでいいよ」 と、カイン。
船尾に向かう、キメロンとウリキがロープを抱えて合流する。望遠鏡と双眼鏡を持って、シャーリキも来る。
船尾の機関室にはエンジン推進状態を観察する覗き窓もある。
外部作業用のロボットアームも設置されている。
「さて、それじゃ、やるよ!」 キメロンがロープをハッチに設置して、後尾ロボットアームの操縦台に乗る。
別の二つの覗き窓から、カインとシャーリキが注視する。
ウリキは操縦台後方でロボットアームの動きを見ている。
ハッチが開き、アームの指がロープを掴み、船尾へと動く。「推進口から真っ直ぐ後方へロープを持って行く!」 キメロンが喋りながら、ロープを持ったアームを動かしてゆく。
「オーライ、オーライ」 ウリキとシャーリキが声を合わせる。
ロープが船体を越えて、延びる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
セエタが機関室へ飛び込んできた。トックも付いてくる。そして言った。
「宇宙が変わったよ!?スローモーションは消えた!?」
「そうなんだ!」 シャーリキが声を弾ませる。
「成功なんだ!」 カインとキメロンも同時に言う。
「レーダー稼動可能!」 ウリキとシャーリキが中央船室に戻ってゆく。
(7)
「しかし、どうして?」 セエタが一緒に戻りながらカインに聞いた。
「推論しか出来ないんだがね」 カインも考え込むように 「中央船室で、皆の居る場所で話すとしよう」 と言った。
「船の状態はどうだ?」 戻ってきたカインが、まず声をかける。
「かなり振られているね!飛び込んだ位置とは大違いさ!場所も未特定!」 ウリキが応える。
「そうか!波紋が生じたらしいな!」 カインが腕組みをしながら 「私の推論を述べよう」 と言った。
遅れて戻ってきたキメロンも席に着く。
カインの説明が始まる。
「承知のとおり、ハイコスモス(高次元の空間)で、我々の動力は全く用をなさなかった。マッハ1の慣性力で飛び込んだこの船体は、セエタが言ったように、既知コスモス(従来の三次元宇宙)のごく近く、言い換えれば紙一重の場所にあって留まっていたのだ。
船体と、その内部は既知コスモスのままであった。
私は、この状態を液面上部に存在する泡と似ていると、想像した。この場合液がハイコスモスであり、上部気体空間が既知コスモスである。既知コスモスの泡が我々の船体を極めて薄く取り巻いている。
泡は、針で突けばはじけるだろう!。
一瞬にして、既知の気体空間に同化する。この船体も!」 ここでカインが一息入れる。
「ハイコスモスは流体ですか?」 と、トックが聞く。
「既知コスモスと同様に時間流体だが、その時間の流れは、既知コスモスに比べると、かなり高速だ!」
「我々の世界は、時間と言う流体の中にある。流体は場所によって、流速が異なる。急流もあれば緩流や停滞流もある」
「なるほど!」と、トックが合点した。「時間のながれも、水の流れとおんなじなんだ!」 と。
皆もうなづいた。
「既知コスモスの泡に守られていたことが、幸いしたんだ。そうでなければ、今頃は全員、老衰して死亡さ!」 ウリキが結論付けた。
「その前に、異次元空間での環境死さ」 続いて、シャーリキが付け加えた。「水の中で息が続かぬようにね!」
「結論を言うと」 と、最年少のセエタが、顔を赤らめて言った。
「あの異次元は、我々の宇宙と同じで、三次元プラス時間次元の宇宙であった、と言うことだ!」
「そうだ!時間速度のみがことなる宇宙であったかもしれない」 カインが言う「他の点は未だ不明のままだから・・」
振り出しに戻ったのか?
否!
さらに、宇宙の旅はつづく。
「もはや、我々は、何処にいるのかも解からない、現状だ!」 ウリキが珍しく真顔で言った。
「我々のレーダーは宇宙地図から外れた!」 シャーリキが補足する。
------------------------------------------
沈黙の後、カインが言う。
「近い天体に向かう。住める天体を捜す。船の状態のチェックから始めよう」
彷徨える宇宙人(異次元の謎編 完)2022.07.13部分変更済
彷徨える宇宙人(滅びゆく惑星編)
(1)
「あぶく(泡)が弾けただけで、こんなに吹き飛ばされるとは!」 ウリキが手を広げながら嘆息する。
「そこに、時間因子が加わって、相乗効果がでたのよ!きっと!」 ターワも声をはさむ。
「異次元界にいたんだ!我々の理屈は通用しないんだと思うよ」 セエタが言う。
「答えは簡単には出ないな」 キメロン。
「q粒子から離れた可能性は高いから・・・」 と、カインがリーダーシップを執る。
「キメロン、近い天体を目指して、出発だ!全員スタンバイだ!」 全員が安全確保状態に入る。
「オーライ!近い天体に向かって、航路をセット!イオンエンジン始動!」 キメロンの声。
だが、すぐ。
「なんだ!これは!」 けたたましい声に変わる。
「どうしたんだ!」
「なに!これ!」 口々に叫ぶ。
「猛スピードが出ている」 シャーリキが叫ぶ。
「エンジンを止めろ!」 カインが叫ぶ。キメロンが直ちににエンジンを切る。
「何が起こったんだ!」
「わからん!出力、全開状態での起動だ!」 キメロンが首をすくめる。
「近い天体とはいえ、ずいぶんと、遠いからな。到達さえ危ぶまれる距離さ!」
「何光年か、何十光年か、そんなもの分かるものか!」 ウリキがまた嘆息する。「なにしろ、天体データが無いんだ!」
「なるほど」 と、カイン。「もう一度、各部所を点検してくれ!」
全員が持ち場の点検に回る。
やがて、異常なしの声が、各メンバーから届いてくる。
「全箇所異常なしか!」 カインが一人語ちた。
その時、遅れてやってきたターワが、思案顔で言い出した。
「RB(放射線エネルギー吸収バッテリー)がちょっと変です」 と。
(2)
「どう変なの?」
「エネルギーの残存量を示すメーターが振り切れています。指針は200%以上です」
「RBは閉じていなかったのか?」
「ハイ!先ほどの異次元界では反応を見せませんでした」 ターワがきっぱりと言った。
「あれは、あのスピードは、単なるエネルギー量だけの問題では無いと思うよ」 と、キメロン。
「もしかして、ダークエネルギー?」 セエタが口をはさんだ。
「お出でなさったか!セエタ様のお出ましだ」 と、ウリキ。
「ひらめき専用の頭だぜ!」 と、シャーリキ。
「これは、ミステリーエネルギーだわ!」 専門家のターワが首をひねる。
異次元からのエネルギーか?その可能性は非常に大だ!居合わせたみんなが、そう思った。
対策が話し合わされる。
”慎重に、これに対応する”のが、まず最初の結論だった。
「シャーリキは、今見える天体データを大急ぎつくってくれ!」 と、カインが要請する。 「その後で、キメロン、最低出力からの起動だな」
「オーライ」 二人が応える。
出来上がったばかりの、新しい天体図、バル太陽系に似た太陽系プラネットを捜す。
幾つかのプラネットが浮かび上がる。
そして恒星VS303系プラネットが、その目標となった。
そのころ、かの、ミステリーエネルギーは試され、4Dエネルギーエンジン(4DE)として、従来のイオンエンジン上に付加された。
4Dの意味するところは、四次元である。画期的な時間速コントロール可能なエンジンとして登場したのである。
時間速とは”目標点と、目標点到達までの時間を設定すれば、目標点にその時間に到達する”速度のことである。
当然、瞬間移動も可能である。
現実的には、目標点が安全な場所であるか否かが問われるだけでなく、船体と乗組員の身体の安全性も問われる。
4DEは、豊富な時間流の存在する空間のみで利用可能なエンジンであろうか。
「さきの異次元空間で得た、このエネルギーをタイムエネルギー(TE)と名づけよう」 と、カインが言った。
「エネルギー量は?」 と、セエタが聞く。
「まだ不明だ」 と、カインが応える。「慎重に大切に使わねばならない!」
(3)
「VS303系に近づこう!安全を確かめつつ、少しづつだ!」 カイン。
「いよいよ、プラネット(惑星)トレッキングが現実味を帯びてきたんだ!」 めずらしく、キメロンが興奮気味に発声した。
「スタートレッキング!スタートレッキングのほうが格好良いな!」 セエタが顔を赤らめて言う。・・どこかで聞いたような名前・・サドン語だが・・。
「早く、住める星を見つけるべきさ!」 ウリキが、「悠長なことを言うな」 と、たしなめる。
そんなことから、新たにタイムエンジン(4DE)を装備した宇宙船サドン号は、急速に慎重にVS303太陽系に近づいて行った。
「第三惑星が有望!」 シャーリキが告げる。
「大気がサドンに似ている!」 ウリキも声を高めた。
「大気圏内に突入する!第三惑星の高所!空き地広場に着陸!」 カインが号令する。
「シャーリキ!着陸位置探査!」 カインの指令が続く。
「OK!、待って!この星には文明がある!」 シャーリキが叫ぶ。
「バランス軌道上を回れ!高度5500km!」 カインが指令を変える。「この惑星面を探索する!」
「攻撃される可能性あり!全員十分注意せよ!キメロン瞬間移動スタンバイだ!」
「オーライ承知!」 と、キメロン。4DEは最高の防御装置でもある。
「人工衛星多数あり!」 ウリキが報じる。「避ける!」 キメロン。
「高度アップ!40000km! 人工衛星ならびに地表を監視せよ!」と、 カイン。
「高度約36000kmに人工衛星が多い。ここが静止軌道位置だ。我々も人工衛星となり、軌道傾斜角10度で偵察を行う!」 カインが告げる。運行幹部達の相談結果でもある。
星の上空軌道を無数の人工衛星が舞う。
サドン号も、ときおりイオンエンジンを吹かしつつ、高軌道から星の地表をや飛び交う人工衛星の観察を続ける。
”知的生物的なエネルギー活動が認め難い。”これが観察の結論であった。
”この星の文明を創造した知的生物の現状は?” 上空からは謎として残る。
「なぜだ?」
彼らは第三惑星の地表へと降りてゆく。様々な建築物が、いたる所にある。
降りるに連れて、建築物には、風化や損傷、植物の進出が見えてきた。
”これは、過去の文明だ!” と、全員が思う。
建築物の密集した地域の郊外、広場に宇宙船サドン号は着陸した。
故郷惑星サドンを出発して後、初めての地表面である。
(4)
「これは快適な星だ!」 「住める!」 口々に乗組員が声を発する。
”建造物の構造から見れば、ここの知的生物は我々に似た生き物らしい” 地上に降りて、周辺をうかがって、そう思った。
”しかし、ここに住んでいた知的生物は何故いなくなったんだ?”
”滅びたのか?この星を脱出したのか?”
”その理由は?”
「とりあえず宇宙船から出て、生活をしてみよう。幸いなことに、住家はある」 カインが告げる。
「ウリキとシャーリキは欠かさず観測を頼む。太陽(VS303恒星)や惑星の動向には特に留意してくれたまえ。交代でOKさ・・」
植物は生え茂り、動物の姿も眼につく。
水はあり、流れもある。大気が循環しているのだ。
「ここの構築物には特徴がある」 構造建築を得意とするタムが言う。「炭素化素材が多いことだ」 と。
「この建築物の柱につかわれているのは炭化木材だ!」
「うん、途中の通り道の端々、小川の堤防・堰堤も黒っぽい!」 カインも同意する。
「ちょっと!これって、ダイヤモンドじゃない!」 ジョートと共に部屋を見て回っていたスジイが、箱を持って現れた。
「なんて大きさ!本物とは思えないけど!」 ジョートも興奮気味である。
小箱の中にはダイヤらしきモノが数個、太陽の光を浴びて輝いている。
「うーん、ここは宝の星かな!」 と色めき立つメンバー。が、「我々に価値があるのかな?」 セエタが疑問顔をする。
「ダイヤも炭素の結晶よ」 と、マユル。
「この壁も黒っぽい。炭化物が混じっていそうだ」 カインが言う。「炭素がやたらに多いようだ」 と、回りを見やる。
「他に、石灰石加工物が多い。崩壊が進んでいるのは木材加工物だ」 タムがあいづちを打つ。「我々のサドン建造物に似ている。大きく異なるのは炭素化物が多いことのようだ」 と。
「これも興味ある謎」 と、セエタが大人びた腕組み。
辺りには食用可能そうな植物も見られる。
「宿舎もあるし、久しぶりに野外料理をふるまおう!」 トックが高らかに声を発する。
「大賛成!」 スジイとジョート。そして聞いていた皆が喜ぶ。
(5)
ささやかな、しかし快適な野外会食。久しぶりの、狭い船内からの解放感。
明るい太陽光の時間帯は過ぎてゆく。
「あれは何!」 突然、スジイが、上空を指差しながら声をあげた。
「オーロラだ!」 シャーリキと替わって野外に出てきたウリキが応じる。
「太陽風がこの惑星の磁場を乱しているのだ!。かなり強い太陽風がでているのだ!」
「ここは、この星の極地か?」 カインが聞く。
「極地に近い!」 ウリキが答える。「しかも、冬季だ!」 と。
「冬季でこの暖かさか!強い太陽風とは、太陽の表面活動が活発なのだ!」 ウリキが追加する。
「この星は永く住むには適していない!」 と。
太陽風とは太陽から噴き出すプラズマ(イオン化した粒子)である。水素・ヘリュウムおよびそれらの同位体も含む。
オーロラが現れる時は、太陽の活動が活発な時である。
”この太陽(VS303恒星)系は、不安定な時期に入っている可能性があるのだ!” ウリキの言葉から、聞いていた全員がそれを感じた。
太陽(恒星)は誕生以来、次第に明るさを増してきた。
永い年月を経て、この明るさの増大が、この系の惑星の温度を上昇させる。
様々な要因も加味しながら、生物の住む環境を狭め、やがては、住むことすら不可能に至らしめるのである。
今、この太陽は、かって住んでいた知的生物の判断を、この惑星から脱出する方向へと決めさせた。多分、十分な余力の有る内に!
”この星は、生物が生きるには絶望的な方向を向いているのである” と思わせた。
「だが、絶望が近づくのは、今日明日の事ではない!我々の宇宙船のメインテナンスを十分に行い、同時に4DEやTEについての知識も深めねばならぬ。全員で取り掛かろう!」 と、カインが述べる。
全員がうなづく。
とにもかくにも、今のところ、結果として、宇宙の旅の第一段階(?)は、無事に進んでいるのだ。
「セエタ!どうした?」 浮かぬ顔で、腕組みをしているセエタにカインが声をかける。
「ここに住んでいた知的生物は、我々に似た文明人であったのでしょう?多くの文明人がどうやって、一人残らず、この星を去ることが出来たのか?不思議なのです」 と、セエタ。
「そのとうりだよ!セエタ。実は、まだここに住んでいる可能性もあるんだ!」と、 カイン。「みんな、行動に十分注意してくれ!」 と。
「了解!」 全員が応じる。
「未知の生物ばかりだ!」 キメロンも注意を喚起する。
(6)
時が過ぎてゆく。
この星に関する多くのデータが収集される。
サドン号の修理が終わり、4DEに関して、今可能な知識の整理やマニュアルが作成される。
宇宙における時間エネルギーの分布も議論される。まさに未知の領域であった。
狭い範囲ながら、到着地周辺の探索も行われる。
タムとセエタが中心となって木造小屋を作った。
簡単だが25人が入れるサイズであった。数人が寝泊まりできる床も用意した。
好評であった。
「もう、この星に住もうか?qレイも無さそうだし」 食材の豊富さに確信を得たのか、トックが冗談雑じりに言う。
「そうね、この緑色の自然がたまらなくいいわ!」 と、スジイが合せる。
「おいおい、問題ありだよ、この星は!」 と、ウリキ。
「ホントのところは分かってないのさ」 と、シャーリキ。
今、二人は珍しく、観測から離れている。
「長い宇宙空間の旅で、みんな緊張の連続だったんだ」 と、キメロン。
「確かに、この星に関しては、まだまだ不明だ。住み続けられるものならば住み続けたいが?」 カインが締めくくるようにつぶやく。
「そう簡単に、この星の近未来データは把握できないよ」 ウリキも真顔である。
小屋の落成記念か?、全員が集まって、食事パーテイが始まった。
「ここの生物は、サドンの生物によく似ていると思わない?」 と、ジョートが生物学者でもあるマユルに聞く。
「似ているわ!まるで亜種と思えるものが多いわよ」 と、マユル。
「そのとうり!建築物のサイズも間取りも仕様も、すべて我々にも適合する。ここに居た知的生物は、我々に酷似している筈だ!」 タムが断言する。
「なぜ?」 隣に座したセエタがつぶやく。
「星の環境が似ていれば、生物も似てくるのよ!きっと!」 マユルが見解を述べる。
「その知的生物だが」 と、普段はもの静かなシャクラが言う。 「かなり高い科学力を持っていたと思う」
「たとえば?」 セエタが聞く。
「例えば、人工衛星。例えば、炭素化素材、スジイが見付けたダイヤモンドも人工物かも知れない」 まだまだ有るとの、シャクラの素振り。
「そうだ!そのとうり!彼らは宇宙船を開発して宇宙へ飛び出したに違いない!」 キメロンも合鎚を打つ。
木造小屋は疎らな樹林の陰に作られ、開放的である。
近くに小川も流れている。
(7)
「私、ダイヤモンドの製造装置が見たいわ!」 スジイが言う。
「僕は宇宙船の発射基地が見たいよ!」 セエタも言う。
「おそらくは、人工衛星の発射基地に並存しているかも?」 キメロンが興味深げに同意する。
その直後であった。
「宇宙船の発射基地は無い!」 突然の声!
解放されていた小屋の入口から数人の人影が現れた。
頭部にはヘルメットを付けている。
発した言葉はサドン語であった。
突然のことである。全員が驚く。しばし間を置いて、カインが制止、冷静に対応する。
「あなた方は何者ですか?」 と。
「我々はこの星の住人。この星の名は地球」 ヘルメットに取り付けたマイクを通じて、中央の男が語る。
「私が、あなた方の言葉を話すのにも驚かれている様子ですが、まず最初にその説明をしましょう」
「我々は、あなた方が地球に接近してくるのを知っていた。あなた方の科学力や性質を警戒し、息をひそめて慎重に対処した」
「あなた方が、地上に降り立った後も同様である」
「あなた方の言葉を理解することは重要です。言うまでもないですが、あなた方を理解し、コミュニケーションをとるために必要ですからね。そして今、ここに現れたわけです」 ここで、彼は少し間をおいた。
ある種の緊張感が、互いの間に満ちている。
カインが言う。「我々はあなた方の敵ではない」 と。
地球人の男も言う。「そのように期待します。あなた方は地球の細菌にも抵抗力があるようです」 と。
「実は」 と、カイン。
「この星は、地球と言う名の星は、我々の飛び立ってきた星、サドンとよく似ています。海も川も山も生物も、それに知的生物である、あなた方も」 と。
「だから、微生物も似ている。抵抗力も似ている」 カインと、その地球人が合わせた。
思わず、両方の集団に、同時に、共通のの笑いが生じた。
平和の笑みである。
「我々は互いに共通する存在として、お話を聞かせて下さい」 カインは述べる。「我々は、あなた方に、どのようにして説明して良いのか分からないほどの遠方の星から、それに関連する奇妙な経験をして、この星にやって来ました。もちろん、それらの事もお話させて戴くつもりです」
「似通った共通の同類であるとして、お付き合いいたしましょう」 地球人のその男も返答した。
「では、お先に、我々の、ここに至った経緯を説明しましょう」 カインが突然の訪問者としての、敬意をもって語りだした。
(8)
カインの地球人に対しての説明は、要領を得ていた。
地球人達の間にはドヨメキがあった。
とりわけ、時間流の異次元帯脱出の場面に、それが大きかった。
間をおいて地球人が話出した。
「我々は、この星、地球に、置きざれにされた人間達です」 今度はサドン人達が固唾を呑んだ。地球人が続ける。
地球人が地球を脱出したのは2135年のことである。
・・・ その経緯は’SOSブラックホール’特に(パート3)を参照していただきたい。・・・
「我々は、何十億という人間がネオUとなって地球を脱出した際、脱出をためらったり、情報の行届かなかったりした人間の系統です」
「その後も、地球は異常気象が続きます」
「地球の異常気象は2000年代に入ってから顕著となりました。地球を取り巻くオゾン層の破壊がありました。化石エネルギー利用による大気中炭酸ガスの増加等による温暖化がありました。また、原子力の誤った利用による環境破壊が進みました」
「地球の国々が、自国の防衛のためだ、と称して核武装を行ったのです。原子力発電も利用しました。当然のこととして、事故も生じます」
「地球の世界中に快適な環境が減少してゆきました」
「加えて、太陽が、その動きに変化をもたらしてきたのです」
「太陽の磁場の変化は、地球の温暖と寒冷に密接に関係していたのですが、当時活発な磁場をもたらす太陽の黒点が減る現象が続いたのです」
「これは、地球大気への太陽系圏外からの、多量の宇宙線の侵入を許すこととなり、普通ならば地球を寒冷化します」
「宇宙線は湿度のある大気中で、水滴の核をつくり、雲を形成します」
「この雲が太陽光線を妨げ、地球を寒冷化するのです」
「しかし、大気中に増加した炭酸ガスの影響で、どちらかと言えば、地球は温暖化傾向だったのです」
「人々は、一部の学者をのぞいて、ほとんどの人々が、これ、太陽黒点による、寒冷化現象兆候に関心を示さなかったのです」
「温暖化を止めることに、つまり、大気中の炭酸ガスを減らすことの方に集中したのです」
「大きな不幸は、この後始まったのです」
(9)
「石油、石炭、天然ガス、メタンハイドレートなどの化石燃料の使用を徹底的に減じてゆきました」
「炭酸ガスを吸って成長した樹木の炭酸ガス化をおさえるため、木材炭化が進められ、建造物に炭化木材が多く使われるようになります」
「あなたがたもお気付きのように」 と。 カインたちも頷く。
「そして、大気中の炭酸ガスは次第に減って行きました。快適な温度環境へと変わってきたのです」
「丁度いい温度環境。それは、その時の太陽の活動状態と共にあったのです」
「太陽の黒点が増えれば、どうなるか、油断がありました」
「黒点の活動は収まりかえったまま、一向に活発化しません。
実は、地球は歴史的にみると、人類が観測を始めてからではありますが、太陽黒点が少ない期間が続きますと、気温が寒冷化することが解っていました。
過去には、1700年ごろには、小氷河期と言われる時代もありました」
「大量の宇宙線が侵入し、雲の発生をうながし、太陽光を遮るからです」
「このような時代が現実にやってきました。」
「地球人類は動揺します」
「贅沢に慣れっきった地球人が、この寒さに対抗します。
”炭酸ガスは寒冷化を防ぐ!化石燃料が寒さから我々を守る!”
このような短絡的な発想が、その場しのぎの発想が、支配的になります。
実際上、大多数を占める人々が、寒さから身を守るにはこの方法だけだったのです。大多数の住居そのものが、これら化石燃料仕様だったからです」
「そうして、大量の化石燃料が消費され、大気中の温暖化ガスが増加してゆきました。汚れた空気が蔓延化してゆきます」
「実は、多くの人達がこれを危惧していたのですが。寒さを防ぐ手段として、これを止められなかったのです。そして・・悲劇へと繋がります・・」
ここまで語って、この地球人は一息つきます。
「もう、お解かりでしょうね」 と、サドン人たちを見渡す。
「太陽の黒点活動が始まったのだ!」 と、セエタが言った。
「太陽風プラズマが宇宙線を跳ね飛ばし、雲を吹き飛ばした」 と、ウリキ。
「黒点活動が活発化し、温暖化が始まった」 と、シャーリキ。
「冷房にも、巨大なエネルギーが必要だ」
「実用可能な、あらゆるエネルギー源へと対象が広がります」 と、地球人は語り続ける。