7話「密かな同類」
いつか明かさなければと思っている秘密が、いくつもある。
今回露見したのはそのうちの一つで、イーザックからあの謁見での顛末について聞かされたらしいレオ様は、あの後しばらくして扉を開けたかと思うと、顔を覗かせるなりこう叫んだ。
『同性ならノーカンですよね!』
ノーカン、という言葉はよく分からなかったが、レオ様が元居た世界の言葉で「数に数えない」ということらしい。逐一数を数えているのかと思うとまめな方だという印象を抱きもしたが、恐らくそういった意味合いの言葉ではなかったのだろう。
唇を重ねるという行為は、こちらの世界においてもそれなりに特別な意味を持つ。あの言葉は「お互いにあのときのことは忘れよう」という意味だったのかもしれない。
致し方ないこととはいえ、やはり申し訳ないことをしてしまっただろうか。
事前に認識のすり合わせを行っていれば、レオ様が魔力欠乏を起こす事態は防げたはずであり、あの場での対応も意識のない人間に対して行うにはあまりに危険なものだった。結果的に助かったからよかったものの、何か別の手段を取るべきだったことは明らかだろう。──彼のいう「ノーカン」にできないなら、なおさら。
「……同性なら」
レオ様が掲げた「ノーカン」の条件は、同性であること。見た目こそ可愛らしく淑やかな淑女であるものの、あの方がれっきとした男性であることは、私が誰よりもよく知っている。
あのとき、半ば強引に手のひらを叩きつけられた平たい胸。彼はそこにあるべきものがないと証明することで、自身の性別が女性でないことを明らかにしてみせた。
私も同じことをしてみせたら、あの方はさぞ驚くのだろうと思いながらも、それを実行に移すことはしない。何の因果か似た境遇にある者同士、秘密を共有し合うべきかとも思ったが、今回の出来事を彼の中で「ノーカン」にするために、もう少しだけこの事実は秘めておく必要がありそうだったから。
慣れた手つきでボタンを外し、制服を脱ぐ。騎士学校時代からほとんど変わらない服装で過ごしているせいで、すっかりこの手の服には慣れてしまったが、服に伴って体が変化するということはなさそうだ。
シャツを脱ぐと、姿を現すのは引き締まった肉体と、それから私の秘密を守るために胸元に巻かれた布。
鏡の向こうでは、私の打ち明け損ねた事実が、言葉を纏うことなく自らの存在を主張していた。
──私、アンネ・フィリップ・アインホルンは女である。