名探偵の告解
【戦いシリーズ】で名探偵の対決を書こうとしたら、なぜか一方的に教え諭す話になってしまいました。
筆者はブラウン神父の大ファンです。原作の神父のカッコよさの100分の1でも伝われば本望です。
ホームズはすでにカッコ良いのが世間に浸透しているので、オッケーとしました。
懺悔を受ける神父は淡々と教えを述べていた。
「どんな時も真理を忘れちゃいけません。たとえ地獄の果てにも十戒の言葉【我の外何ものも神とするなかれ】という立札は立っています。確かに人は愚かです。しかしそれを裁くのは神以外には法しかありません」
長身で痩せ型、細くとがった鷲鼻の、顔全体の俊敏かつ果断といった印象の男は不服そうに言った。
「確かに平凡な人間に他人を裁く権利はありません。しかし私は別です。なぜなら神に選ばれているからです。例えば悪と対峙したとき、敵とともに滝つぼに落ちました。しかし私だけは生き残ったのです。これは私が特別だという証です」
神父は顔をしかめ横に振った。
「川に落ちて無傷だった人間なんていくらでもいますよ。それが奇跡だったら聖書はどんだけ分厚くしなきゃあいけないか。自分が選ばれた人間だと思うのは危険です。私の知り合いにも神の鉄槌を下すのだと、ハンマーを放り投げた罪びとがいましてね。ああ、そん人はちゃんと罪を告白し、すでに法の裁きを受けていますよ。自分の傲慢さを自覚してね」
しかしインパネスコートを纏った男は納得できないようだった。いらいらと手元のパイプを叩きつけている。
「しかし人はどれだけ低能か! 」
神父は強引にさえぎった。
「私から言えることは、あとはひとつだけです。あんたの傍にいるたった一人の親友を大事にしなさい。そしてあなたの行動、考えを逐一包み隠さず話すのです。その親友がそれであなたから離れていくようなら、それがあんたの下り坂の始まりですよ」
男は怒りも頂点を極めたのか手にしてたパイプを叩きつけた。
「私に親友など!……」
青い目をしたどんぐり鼻の神父は穏やかな声で諭した。
「大丈夫ですよ。あんたの親友はまだあんたが大事だ。たとえ結婚しても、君に何かあれば駆けつけるくらいにはね。初歩的なことですよホームズ君! 」
最後の言葉、自分の口癖を聞いたととたん男は憑き物が落ちたように静かになった。
「ありがとうございます。ブラウン神父。あなたは本当に他人の本当の罪を聞くのには一流ですね」
男は最後に神父、いやわれらが先生に鹿打ち帽を脱帽してお辞儀をした。
しかし当のエセックスから来た小柄の神父さんはと見れば、眼をしばたたきながら蝙蝠傘を探しているのだった。
最期までお読みいただきありがとうございます。
今回もWikipediaが大活躍しています。
また G・K・チェスタトン作 中村保男 翻訳 のブラウン神父の童心 (創元推理文庫) を参考にさせて頂きました。
日本ではいまいちマイナーなブラウン神父。最近はドラマ化もして、知名度が上がり小学生からのファンの筆者も嬉しいです。
ミステリーも大好きなのでいつか本格推理小説も書きたいです。
誤字脱字報告を頂けると助かります。
感想を頂けると望外の喜びです。
それでは次作は戦いシリーズでお会いできるのを楽しみにしております。