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火傷とそばかす

「……ちっ、結局強そうなやつ(当たり)はなしかよ」


 日が傾き始め、空が青から赤に変わり始めたころ、本日最後の魔物狩りを終えたオルターはそれでも物足りなさを口に出していた。


「オルター様、今回倒した魔物の数は、例年の二倍はいたと思うのですが」


「数だけ稼いでも仕方ねえよ……せめて、茶猪(グランド・ボア)ぐらい固けりゃ、戦っている感も出るんだけどなー」


「!」


 赤狐の残党がいないことを確認していたカドルは、不意に聞こえた茶猪という単語に反応し、動きを止めてしまう。


「ん? どうかした……もしかして、他に魔物(獲物)でも見つけたか?」


「いえ、そういうわけではありません……」


 オルターとしては、たわいのないひとり言なのだろう。

 いくら珍しく魔物が出たとはいえ、大局的に見れば村の一つで起こったことにすぎない一年前の出来事(猪の厄災)なんて、オルターが知る由もないのだから。


「……でも、そうですね、」


 それゆえにこれは老婆心からの忠告ですらない。

 過去の自分の失態を棚に上げ、カドルは胸中を口に出さずにはいられなかった。


「強い魔物()との戦いを願うとき、それは得てして誰かの被害(不幸)を願うことにとられ……る可能性がありますから、あまり口にはしないほうがいいかもしれないですね」

 合計二十頭の赤狐の討伐を終えたカドルたち一行は、下山をしている途中、清流の流れる川岸で一度休憩をとっていた。


「あ、あの……すっ、すみませんでした!」


「えっ? あっ、はい……」


 カドルが川のほとりで今日できたばかりの火傷を冷やしていると、謝罪が飛んでくる。

 謝罪の主は、カルディア村のそばかすが特徴的な少女だったが、カドルはいきなり謝罪されたことに、頭にハテナを浮かべる。


「その腕の火傷(怪我)、さっき私をかばったときのやつですよね?」


「……いえ、怪我は気にしないでください。パーティーを組んだ以上、助け合うのは当然のことです」


 申し訳なさそうな少女にカドルは合点がいく。

 やり直す前、魔王討伐の旅に出たときは、カドルは同じパーティーメンバーの戦士であるガーナーに助けてもらってばかりで、彼女と同じようなことを言っていたのを思い出す。

 だから、この先の少女が何を言うのかも、少女に何を言えばいいのかもわかっていた。


「でも、私、今日ずっと皆の足を引っ張っていていて……」


「戦うことは嫌いですか?」


 少女の言葉を遮ってカドルは問いかける。

 問いかけに対して少女はビクッと震え、周りを見渡し、自身とカドル以外が近くにいないことを確認した後、


「嫌いとか、そういうのはまだわからなくて……ただ、怖い……です」


 押し込めていた気持ちを吐露した。


「……私、ちょっと前までは家族でやってる食堂を手伝っていたんです。

 だけど一年前、隣のランディア村に魔物の被害があったみたいで、村の護衛団が急に増やされることになりました。

 それで、私が守る者(タンク)の天職を持っているからって護衛団に無理矢理入れられて……」


 長かった髪も切らないといけなくなりました、と肩口に切りそろえられた赤みがかった茶色の髪を持つ少女は続けた。

 神託を授かることにより判明する天職については、道しるべになるように、その個人の素質が表示されるものの、必ずしも全員がその通りに生きられるわけではない。

 特に、魔物と戦うことを期待される天職を持ったとしても、実際に魔物と相対したとき、相手に殺されてしまうかもしれないということに、相手を殺さないといけないということに、トラウマを植え付けられることも少なくないため、戦いを怖いと思う人がいるということをカドルは知っていた。


(そう考えると、クレアの言う通り、トゥリエには才能があった……いや、トゥリエの心が強いことなんてわかっていたことか……)


 狼の災禍の後、カドルが一番に心配したのは手足の麻痺が残り、声も出なくなったクレアのことだが、その次に心配したのはトゥリエのことだ。

 トゥリエ自身に目立った外傷はなかったとはいえ、初めての戦闘(命のやり取り)で、精神的にまいっていないかを危惧していたのだが、彼女もクレアの容体を気にかけてこそいたが、その一件がトラウマになった様子は見られなかった。


(まあ、だからって、こちらの都合でトゥリエを振り回すことが許されるわけじゃないけど……)


「それでも、こうして護衛団に入ったのなら、それなりの理由があるんですよね?」


「り、理由なんて大したものじゃなくて……ただ、もし本当に魔物が家族を襲ってきたときに、皆を守れたらって……」


「それでいいんだと思います」


 やり直しの前、ガーナーにかけてもらった言葉を思い返しながらカドルは言葉を紡ぐ。


「戦うことが怖くても、それ以上に誰かを守りたいという気持ちがあるのなら、守りたい人がいるのなら、そのために頑張ればいいんだと思います」


(いきなり恐怖を乗り越えることは誰にもできない。ただ、自分にとって大切なものがあるのなら、それのために少しずつ強くなっていくしかない……そうだったよな、ガーナー?)


「……謝りに来たのに、なんか相談にまでのってもらっちゃいましたね」


「いえ、相談にのるなんて大したことは……」


「でも、ありがとうございます。私、今は足手まといだけど、もう少し頑張ってみようと思います。

 タンクってせっかくもらった天職に見合うことができるかわからないですけど」


 言っている内容自体はネガティブな反面、少女の沈んだ表情はしていなかった。

 完全には吹っ切れたわけではなさそうだが、それでも多少は顔色が良くなっていたことにカドルは安堵する。


「はい……でも、天職がタンクだからってことは気にしないでいいと思います。

 どういう才能がある(人物である)かというよりも、どういう人物だった(どう生きた)かということのほうが大事……だと僕は思います……」


「! ……なんだか不思議ですね」


「えっ?」


「私より年下なのに、なんか年上の人と話しているみたいです」


「そ、そうですか……?」


 少女は十五を超えていたので、十一歳の姿のカドルを見て年下だと判断したのは当然であったが、それは半分正解で半分不正解だ。

 なぜならカドルの体は十一歳だとしても、その内側には二十年以上生きた記憶が眠っているのだから。


「あっ、もしかして、私より年上でした?」


「い、いえ……そういうわけではない、のですが……」


 もともと嘘や話術が上手いほうではないカドルは、急に真実を当てられて慌てて取り繕う。

 この場をクレアに見られたら動揺したことに対して小言を言われるんだろうなと思う一方、さっきよりは落ち着いた顔でほほ笑む少女を見て、まあいいか、と思うのであった。

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