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再開と奴隷

 スレイン王国のとある村に一組の家族がいた。

 家族は仲睦まじい夫婦と、その夫婦の最も大事にしている少女の三人という一見すると普通の家族であったが、唯一珍しいことに夫婦そろって魔物を討伐する冒険者であった。


「パパ! ママ!」


「ん? どうした?」


 早朝、装備を整え、家から出ようとする両親を少女が引き留めた。


「あの……その……今日は、行かないで!」


「何? 心配しているの? 大丈夫よ。今日のクエストはいつも受けているやつだし、夕方には帰ってくるわ」


「……でも、今日は嫌な予感がするの…………」


 それでも不安がる娘に対して、父親と母親はお互いの顔を見合わせた後、少女の前にしゃがみ込み、少女の服の袖をそれぞれ片方ずつ優しく握った。


「約束だ。お前が大きくなるのを父さんはずっと見守っているから」


「約束よ。あなたの家族ができるまで、母さんはずっと一緒にいるから」


「「だから、今日も笑顔でお留守番すること」」


 この村では、約束に関する一つの風習があった。

 それは固い約束をする場合、相手の服の端を握って約束事を口にすること。

 そして、服の端を握られた側が約束事を了承すれば、それは必ず守らなければいけないということだった。


「……うん!」


 その後、少女は親に心配をかけないように親を笑顔で見送った。


(大丈夫……パパもママも強いもん……!)


 両親が帰ってきたとき、笑顔で迎えるため、少女は必死に自身が感じた予感を抑え込む。

 だが、その労力は徒労に終わる。

 この日、夜になっても少女の両親が家に帰ってくることはなかった。

*天歴(テンレキ)990年 人間領 スレイン王国 シャケル*


 人間領のはじにあるスレイン王国は魔属領との距離が近い地域が多く、たびたびはぐれた魔物たちが村を襲ってくる。

 魔物に襲われた結果親を失った子供たち言葉巧みに奴隷商に騙され、売られることも少なくないというのがこの国の現状だった。


「おい、さっさと戻れ! ったく、売れ残りやがって、使えねえガキどもだ」


 奴隷商人である男は苛立っていた。

 その日は十年に一度の蒼月であり、スレイン王国でもその日を祝う習慣がある。

 そういった祭りごとの日には財布の紐が緩みがちになるため、奴隷商人は意気込んでいたのだが、結果はまったく振るわずじまいであったからだ。


 一方の奴隷たちは怒鳴られることを慣れているようで、無表情のまま自分たちの住処である木の格子で囲われた牢屋に戻る。

 基本的に子供の奴隷にかけられている手錠は板の穴を開けただけの安っぽいものだけであり、足枷もつけられていない。

 これは、子供への優しさというわけではもちろんなく、子供ゆえにたとえ脱走してもその後のあてはないから脱走しないということを見こしてのものだ。

 そして、それでも脱走しようとしたものは捕らえられた後に顔に焼印が押される。そうすることで、奴隷としての価値は下がるものの、誰から見ても奴隷とわからせることで再犯防止と他の奴隷の見せしめとしての役割を持っていた。


「……」


 奴隷たちの列の最後尾に一人の少女がいた。

 彼女は元々住んでいた村で魔物によって家族を奪われた後、ある男に出会った。

 男は少女を含む両親をなくした子供たちに対して、シャケルにある孤児用の住居と職を斡旋するという言葉で子供たちを募り、夜に街へと到着させると宿に一泊させた。

 そして翌朝、男は突然いなくなり、子供たちを無銭宿泊とすることで子供たちを奴隷へと落とす。

 そう、男は奴隷斡旋を生業としており、少女はその被害者の一人だった。


 少女は明かりがない部屋の中を窓から入る月の光を頼りに進む。

 その途中、昔彼女の両親が教えてくれたことを思い出した。


(あそこにいけば、パパとママに会えるのかな……)


 両親が少女に教えてくれたのは月には死んだ人の魂が眠ってあり、蒼月の日にはそれが起きて地球に届くというもの。

 それゆえに、少女はせめて最後にもう一度と窓の外にある蒼月を見たとき、彼女の中にあるクレアが目を覚ました。


「! ……ちゃんと戻ってこられたみたいね」


 クレアは目を覚ますと、手錠をつけられた手をそのまま顔に持っていき、火傷がないことを確認する。

 それはやり直しを始めたばかりの頃、脱走に失敗した経験から癖になってしまっていることだった。


 ひとしきり自分の体の安否を確認した後、周囲の人に目を向ける。

 周りにいるのは、今までのやり直しと同様、自身と同じ奴隷だけで目的の人物がいないことを確認した。


(やっぱり、あいつはいない……人を増やそうが、再開(リスタート)は十歳のころの蒼月の日ってのは変わっていないようね。

 一回目のあいつに聞いたときはこの頃は自分の故郷にいるって言っていたはず……やり直しに他人を巻き込んだのは初めてだけど、ちゃんとうまくいっているかしら?)


「おい、お前、何をやっている!」


「!」


 足を止めた少女に奴隷商人は怒りながら近づく。


『やめてっ! 痛いっ! 熱いっ! 助けて!!』


 クレアは脳裏に以前の脱走を失敗したときに受けた仕打ちのフラッシュバックが起こるが、目を閉じ、恐怖心を殺す。

 思い浮かべるのは失敗した場合のことではなく、成功させるためにはどうするか。


(……大丈夫。私ならやれる……私ならできる)


 脱走するための方法、脱走後の行先、そして奴隷商人(邪魔者)を排除する覚悟。

 全ての準備が整ったクレアは目を開くと行動を開始した。

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