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スキルと条件

「ねえ、クレアちゃん。スキルってどうやれば身に着ければいいの?」


 クレアがトゥリエの瘴気解呪(カルマ・ディスペル)習得を後回しにしていた理由として、三つあった。

 一つ目は、魔法書を読める環境があるうちにできるだけトゥリエに魔法を詰め込んでおきたかったこと。

 二つ目は、魔物が出ないランディア村では、そもそも瘴気解呪を覚えても使う機会がないこと。

 そして三つ目は、そもそもカルマ払いが使えず、その上、何度もやり直しをしてきても僧侶とだけは一度も組んだことがなかったクレアには、僧侶が瘴気解呪を習得するのに必要な条件がわかっていなかった。


「……スキルというのは、一般的に本人の素質(天職)に基づく技術と精神が一定以上の水準まで高められたときに初めて使えるようになる特殊技能(ワンオフ)であり、どんなに才能がある人物でも他の天職のスキルは使うことができないと言われています」


 だが、カドルの現状からそう悠長なことは言っていられないため、クレアはトゥリエにスキルについて説明を始める。


「盗賊の技能(スキル)である奪取(スティール)であれば、急所をつく技術と我欲。戦士の超耐魔体(スーパー・アーマー)であれば、力の流れを制御する技術と冷静さを。

 ……賢者の瘴気解呪(カルマ・ディスペル)は、魔力のコントロール技術と好奇心が必要だと言われています」


「たしか僧侶と賢者って同じスキルはなんだよね? じゃあ、私も賢者って天職と同じように頑張れば!」


「……いえ、そういうわけにはいかないみたいです」


「えっ?」


「僧侶と賢者でスキル名は同じですが、実際にやっていることは微妙に違うんです。

 賢者のほうでは、カルマそのものを分解し、体から取り除いている一方で、僧侶のほうでは、カルマの毒性を弱め、体に耐性をつけさせているんです。

 ですから、僧侶と賢者で身に着けるべきものも微妙に違っていて……魔力のコントロール技術は僧侶でも必要だと思うんですが、もう一つが……」


 クレアは今までのやり直しの中で会ってきた僧侶たちから瘴気解呪に必須の技術は魔力コントロールであることは、ある程度確信を持っていた。そして、現状のトゥリエの魔力コントロール技術では十分な実力があることも。

 しかし、そうなると、トゥリエが瘴気解呪を使えない理由は精神的な何かが欠落していることになるが、それについては現状のクレアですら検討が付いていなかった。


(いったい、こんなにいい子の心で一体、何が足りていないのよ!)


「……瘴気解呪を使えるようになるのは『神を信じることだ』って言ってた。僧侶じゃなく、癒す者(プリースト)の人から聞いた話だけど……」


 治癒魔法を受けたことで体力が減ったせいか、やや眠気を帯びた声でカドルがポツリとつぶやく。


「! 兄さんは、プリーストの方に会ったことがあるんですか?」(はあ? あんた、プリーストに会ったことあるの?)


「昔、ちょっとな……」


「神様を信じることですか……それが本当なら神秘的ですね」(『神を信じる』って何よ。全然わけわからないじゃない! 信憑性はあるの?)


「そう、かもしれないな」(俺も詳しくは知らない。けど、嘘を言う人ではなかったことは確かだ)


 カドルの言葉を聞いてクレアは思考を働かせる。


(まるっきりの出鱈目って結論付けるのは簡単だけど、教会って組織が神を崇めて所属している僧侶とプリーストの多くが瘴気解呪を使えることを考えると、実は神を崇めることに何か秘密が隠されているってこと!?)


「神様、神様神様……神様って、村の神様でもいいのかな?」


 一方でトゥリエのほうも考えていたものの、よくわからず、とりあえずカドルの言う通り、神様を思い浮かべることから始める。


「おそらく大丈夫だと思います」


 ひとまず、クレアはトゥリエに神様を信じるという行為を肯定させる。

 カドル言ったことを鵜呑みしたわけではない。

 ただ、今持っている情報の中でトゥリエで瘴気解呪を習得するにはカドルがそのプリーストから聞いた言葉しか手がかりがなかった。


(神を信じることが、本人の精神とどう関係があるの……?)


 クレアは、神の信仰をあくまで個人の精神性と結びつけて考えようとするが、煮詰まらず、沈黙がその場を支配しようとしたとき、


「くぅ~」と可愛らしいお腹の虫が鳴った。


 三人しかいない状況のそれは、鳴らした本人が赤面していることもあり、犯人を探し出すまでもない。


「……悪い、お腹がすいた。ひと眠りもしたいし、カルマ払いについては、後にしてこの場はいったんお開きにしよう。

 トゥリエも親父(トロン)さんとお袋(マリー)さんが心配しているだろうし、帰って安心させてきたらどうだ?」


 だが、本人の前でそれを指摘するのはさすがに忍びないため、カドルが助け舟を出す。


「う、うん! カドル安静にしててね! クレアちゃんもまた後で!」


 トゥリエは、顔の色は戻っていなかったが、慌ただしく自宅へと帰っていった。


「あんたにしては珍しく気がきいたじゃない」


「珍しくは余計だ。珍しくは……」


「そうかしら? 私は、あんたに気を使われたことなんてないんだけど」


(お前と相手するときが一番気を使っているよ)


「ふうん……じゃあ、私も気を使って明日からあんたの特訓メニューを三倍にしようかしら」


「あっ!」(しまった!? 対面でのこいつ相手だと読まれるんだった!)


 二人は冗談交じり(とカドルは願っている)の軽口をたたきながら、トゥリエが家に帰りつくのを待つ。

 ここからの話はトゥリエには絶対に聞かせてはならない。

 カドルの家の周りに気配がないことを確認した後、クレアは言った。


「……あんたに魔印を付けた魔物(やつ)は女王種よ。おそらく、エルフのほうもね」


「……」


「驚かないのね」


「あれだけ強ければさ、なんとなく予想はついていたていたよ」


 クレアとカドルに緊張感を持った静寂が流れる。

 それは、猪の厄災の前日にカドルとクレアで意見が決裂した時の空気に似ていた。

 だが、そのときはカドルとクレアの意見が対立していたことが原因だったが、今回の理由は異なる。

 今回、二人の意見が対立することなく、むしろ二人とも同じ考えだったからこそ、それを言うのは重くのしかかっていた。


「あんたはさ……」


 少しの間の後、口を開いたクレアだったが、探るように言葉を発したことに自身で驚く。

 言葉が思った以上に弱々しく、さらに言葉を選びそうになったことに気づくと唇を噛みしめることで自分を戒めた。


(何やろうとしているのよ私は! たとえこいつがどうなろうと、私さえ無事なら何度だってやり直せる! そう、私さえいれば……)


 一呼吸した後、心を奮い立たせたクレアは、強い意志を持って言葉を投げかける。

 トゥリエの前では言えなかったそれを。


「わかっていると思うけど、トゥリエちゃん(あの子)が数ヶ月以内に瘴気解呪を覚えない限り、あんた死ぬことになるわ……いや、その場合は私があんたを殺してあげるから」

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