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魔印と技術

 フィルシーたちから解放されたカドルとトゥリエは村に戻り、ディアンマ村長のところに向かった。

 その理由はもちろん、フィルシーが来ると言っていた青亀(魔物)に対して、対策を行ってもらうため。

 ディアンマ村長も驚いていたが、あえてカドルの負傷したところを残していたのと、頼んだ内容が問題ない範囲だったため、すんなりと協力を得ることができた。


「よし、ディアンマ村長への説明も終わったし、次は……」


「ねえ、カドル……」


「ん? どうした?」


「あの、その……あのときに言ってた、カドルのお師匠さんが魔物に殺されたって……」


「あれか。あれは…………嘘なんだ」


「ふぇ? う、嘘……?」


「ああ。あの時はそれっぽいことを言えば見逃せてもらえると思って言っただけなんだ。

 危険な目にあわせてごめんな」


「う、ううん……嘘ならいいよ、嘘なら……」


「さて、次行こうか。お昼も近いし、昼ご飯までには帰れるようにしようか」


「そうだね……………………嘘つき」

 カドルたちがクレアの待つ家に戻ったのは、昼近くになっていた。

 フィルシーたちはすでにランディア村を発っており、村では一年前の猪の厄災で亡くなったスティーブの一回忌の準備が行われている。


「……えっ? そんなことがあったんですか?」(はあ!? カドル(あんた)、何をやってんのよ!)


 自分の家に帰ってきたカドルと付いてきたトゥリエは、昼ご飯をすでに食べ終えていたクレアに朝の出来事を伝えた。

 話を聞いたクレアは、トゥリエの手前、表の顔は驚いている(猫をかぶっている)のだが、裏の顔では当然、カドルの犯した愚行に対して怒っていた(虎をかぶっていた)


「うん……クレアちゃんにもできるだけ早く教えようって思ったんだけど、私のせいで……」


「いや、遅くなったのは、ディアンマ村長には青亀(魔物)が来るって伝えてきたからだ。俺の提案だから俺のせいだ」


 トゥリエを庇う形でカドルが話をきる。

 クレアもその理由をなんとなく察し、黙認することに決めた。


「なるほど。でも、無事に帰ってこれて良かったです」(ふうん……尾行されてないでしょうね?)


「そうだな」(一応、確認はしてきたつもりだ)


 フィルシーやヴォルガーの二人がこっそり戻ってきてこちらを監視することや、二人以外の魔物が潜んでいる可能性も考えて、村を見回ったのも帰宅が遅くなった一因としてあった。


「今日はスティーブさんの一回忌もあるし、なるべく混乱が起きないように村の守りを強化するのをお願いして、青亀と戦うようなことは止めてもらったよ。一応、あのエルフの発言が嘘の可能性もあるし」


 口ではそう言ったものの、カドルは来る魔物が青亀であるということを含め、フィルシーが嘘は言っていないだろうと直感的に確信している。

 だが、去年死者を出したばかりのこの村で下手に伝えると混乱が起こることは間違いないし、ディアンマ村長は信じるとは言ってくれたものの、実際に(肉体的には)子供であるカドルの言うことだけを根拠に村の護衛団を動かすことは難しいだろう。

 なにより、うずく傷がカドル自身が立ち向かわないといけないことを強く主張させている。


「だから、魔印(マーキング)がついている俺が、魔物を倒せば万事解決するわけだ」


 カドルにつけられたひっかき傷のように見える火傷跡を見て、クレアは眉をしかめた。


(さっき聞いた話と傷跡を見るに人狼のほうは女王種(クインス)であることは間違いなさそうね。

 女王種と会って脱臼程度ですんだのは奇跡的だけどさっきの話だと逃げられそうにないし、それに……めんどくさいことになったわね)


 無数にいる魔物たちの中で、種族の中でも最上位の存在を女王種(クインス)と呼ぶ。

 女王種が優れているのは、その種族の中でも飛び抜けた力を持っていることもそうなのだが、もう一つ理由がある。

 だが、それをこの場で言及すると確実に良い方向には転ばないとわかっていたクレアは出かけていた言葉を一度飲み込み、話題を誘導することにした。


「……兄さん、怪我のほうは大丈夫なんですか?」


「? あ、ああ。痛みはとりあえず大丈夫だけど……トゥリエ、回復魔法を頼んでもいいか?」


 トゥリエは約一年間の修行とネーブ伯爵家の長男オルターの住んでいる屋敷で魔法書を読んでいたこともあり、水と土属性の魔法は中級(キ・クラス)はほぼ全てマスターしている。

 さらにその中でも回復魔法に関しては元々の才能も有り、上級(メ・クラス)まで使えるようになっているため、すぐに完治させることもできたのだが、下手をするとトゥリエの魔法を使えることが他の村人に漏れるのと、ディアンマ村長の説得への危機感の演出(リアリティ)のため、残したままにしていたのだ。


「うん……万物を構成する粒子よ。(レイ)湿(シツ)を持って顕現せよ。清流よ。彼の者に安らぎを。中水の癒川(キ・アクエール)


 トゥリエから放出される魔法粒子を媒介に、大気中の魔法粒子が魔力によって操られ、回復の性質を持った薄青の水がカドルの怪我をした部位を包み込む。

 回復魔法は欠損さえしていなければ骨折でも治すことはできるが、その反面、魔法を受ける側の肉体を活性化させるため、体力を消費するというデメリット(眠れば回復する程度)があり、それは怪我の度合いが酷いほど大きくなる。

 今回の主な負傷はヴォルガーに受けた腹部への打撲と、脱臼した関節を一人でに治したことによる炎症、そして最後にトゥリエを庇って受けた手のひらの火傷だ。


「……どうして、治っていないの?」


 治癒の効果を持った水がなくなったとき、脱臼や打撲の腫れは引いた一方で、魔印がつけられた左手は回復魔法が終わってもひっかかれたような火傷跡は残ったままだった。


「魔印については、普通の傷と違って回復魔法で治すことはできません。傷そのものが魔物の瘴気(カルマ)に侵されていますから」


 その身にカルマを宿している魔物は、死ぬときに体と一緒にカルマを発生させる。

 一方で、魔印(マーキング)のスキルを持っている魔物は、自身のカルマの一部を操ることができ、その応用例の一つとして獲物に宿し、追跡することもできた。


「そんな……魔印を失くす方法はないの?」


 クレアの思惑通り、無事に魔印の解呪方法に話題がいく。

 口に出してはいなかったが、トゥリエ自身も直感的に魔印をこのまま放置しておくといけないものだということに気づいたようだった。


「……方法ならあります。魔印の源はカルマなので、瘴気解呪(カルマ・ディスペル)さえできれば……」


 そしてクレアが危惧していることの解決策にして最大の試練を口に出す。

 この一年間、魔法については目まぐるしい成長を遂げたトゥリエだったが、僧侶のスキルである瘴気解呪については、まだ身に着けられていなかった。

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