警戒と魔核
(誰なんだろう? 村の人、じゃないよね……?)
二人組はフードを深く被っており、顔は見えなかったが、トゥリエはランディア村の住人ではないだろうと予想する。村人の場合、わざわざ晴れている日にローブを被る理由がなく、反対に旅人なら外に出るときに全身をローブで覆っていても説明はつくからだ。
ひとまず、返事をしようと動いたトゥリエをカドルの手が制した。
「カドル? !?」
カドルを見ると、顔が明らかに強張っており、目の前の二人を警戒していることがわかる。
「トゥリエ……」
カドルは呼びはしたものの、トゥリエに目を合わせることなく、旅人を見つめたまま、後ろ手で指を掻くようにして二回曲げる。
(あっ! これって、後ろに下がれってサインだよね……?)
特訓では、パーティーで戦うときを想定してサインについてもトゥリエにはいくつか教えている。
ただ、今サインを出したことにトゥリエは困惑しながらも、カドルの表情から真剣さは伝わっていたので、教わった内容を思い出して、カドルの後ろに隠れた。
「ご警戒……なされているようですね……」
相手がローブを深くかぶっているため、顔はお互いに見ていないものの、あからさまに警戒されている雰囲気を読み取って、シルフィーは少し悲しそうな声で呟いた。
「……何が目的だ?」
挨拶をすることもなく、カドルは単刀直入に伝える。
一方のフィルシーもしょうがないと割り切り、話を進めようとする。
だが、
「フィルシーたちの目的は……目的は……ヴォルガー様どうしましょう……?」
「ん? 何がだよ?」
「警戒されている状態では……重特性の魔核の所在の手がかりを手に入れるため、スティーブ様のお墓の場所を探しに来たことを聞いても答えてもらえないかもしれません……ですが、嘘をつくにもお相手方の様子からまだ幼子。ここで、いい大人のフィルシーたちが嘘をつくのは……」
「ああ、うん……もう、事情を全部しゃべっちゃってるし、別にいいんじゃね?」
カドルとたちとは対照的に緊張感のない様子のシルフィーとヴォルガー。
一方でその余裕の差がお互いの彼我の差を如実に表していた。
「しかたねえな。ここは私に任せとけ」
目的がばれて(ばらして)しまった以上、シルフィーより自分が言ったほうが早く話が進むと判断したヴォルガーがフォローを入れる。
「もう見抜かれているみたいだから言っておくけどよ、あんたらの予想通り私らは魔物だ。
だが、心配する必要はねえよ。あんたらが仕掛けてこねえ限り、何もするつもりはねえよ」
(魔物!? この人たちが?)
状況をよくわかっていなかったトゥリエは、ヴォルガーのカミングアウトをただただ驚く。魔物を見たことがないトゥリエにとって、魔物は知ってはいれど、会ったことがなかったため、これが初遭遇になる。
しかし、会ったとき、そして正体を明かした今もヴォルガーとフィルシーは敵対する意思を見せない相手のため、いまいち敵とは思えなかった。
一方で、前の旅を含め、魔物の脅威を嫌というほど知っているカドルは警戒をとくことはできない。
(こいつら重特性の魔核って言ったよな? それも人型の魔物……だいたいはクレアから聞いたとおりだけど……)
カドルは以前に聞いたクレアに聞いた魔物と魔王、そして猪の厄災の真実について思い出す。
魔物は、全体で一つの勢力ではなく、擁立する魔王候補とそれらが持つ魔核の特性によって大きく三つに分かれていると聞いていた。
一つ目の勢力は、空特性の魔核を持った天空王を支持する空の一波。
二つ目の勢力は、重特性の魔核を持った地重王を支持する地の一派。
三つ目の勢力は、時特性の魔核を持った海時王を支持する海の一派。
それぞれが覇権をかけて争いあい、三つから残った一つの勢力の魔王候補がはれて魔王として君臨する。
そういった魔物たちの事情をクレアは前回のパーティを組んだ時には共有しなかった。それは三特性を持つ魔核はやり直しの魔法に使うため、パーティ内でも情報を隠しておきたかったのと、どの勢力が残ったところで魔物が人間に敵対することに変わりないからだ。
ただ、今回はカドルについては、魔王と戦うという使命があるため、事情を事前に聞いていたのだが、どうやらそれは正解だったらしい。
(こいつらのせいで、村が……スティーブさんがっ!)
猪の厄災の日、カドルが倒した謎のスキルを使っていた茶猪王は、重特性の魔核を持っていたことをクレアから聞いていた。すなわち、茶猪王の一団が前回はランディア村を滅ぼし、今回はスティーブが死んだ一因を担っているのは間違いないのだ。その敵が目の前にいるということで、いやがおうにもカドルの憎悪の炎が激しく焚き付けられる。
(……いや、今はそんなことを考えている場合じゃない)
だが、現時点でさえ圧倒的な実力差を感じる目の前の二人組にその感情まで感づかれたらどうなるかは火を見るよりも明らかである。
茶猪王との関わったことを隠すことはもちろん、特に戦いの中で重特性の魔核を壊したことは絶対に知られてはいないため、胸の中の炎は抑え込まなければいけない。
(けど、どうしてこの二人はランディア村に来たんだ? ……クレアの予想が外れたってことか?)
クレアの説明を聞いたとき、カドルが真っ先に心配したのは、重特性の魔核の探索や壊したことによる報復のために魔物がランディア村に再度襲撃することだったが、クレアはそれを否定した。
というのも、三特性の魔核は壊れても魔物領のそれぞれの勢力の拠点としている土地で復活する。やり直すうちの何度か三特性の魔核を壊しているクレア自身がそれを保証していたからだ。
さらに、消滅させることはできないものの、壊すことでそれまでの成長はリセットされるらしく、三勢力が争っている現状では再度復活したであろう重特性の魔核を成長させることはともかく、壊れたことに対して人間領に魔物を派遣してまで調べてくるまではしないというのがクレアの所見だった。
だが、現状としてはその考えは外れ、こうしてフィルシーとヴォルガーが目の前に立っている。
そしてさきほど聞いたフィルシーの言葉から、ある可能性にカドルは気づいていた。
(『重特性の魔核の所在』って言っていたけど、魔核があいつらの土地でなくなったなら、いや、そもそも復活していたなら、わざわざ人間領の土地まで来ないはず……まさか!)
その可能性とは、猪の厄災の日に壊したと思っていた魔核が実は壊せていなかったということ。
つまり、重特性の魔核は今も人間領のどこかにあり、虎視眈々と地重王として復活する機を待っている可能性だった。




