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選択と説得

「……っていうのがあんたが眠っている間に起きたことなんだけど」


「……」


 カドルが倒れている間に起こった事実をカドルは顔を下に向けて聞いていた。


「今、あんたが考えていることを当ててみましょうか?」


「!」


「『自分じゃなくて、スティーブさんがトゥリエの回復魔法を受けていれば、彼が助かったんじゃないか?』……あんた、最低ね」


 図星であるカドルは言い返せない。

 特に最低と言われる原因も自覚しているからなおさらだ。


「命を助けてもらっておいて、助けてもらったことにケチをつけるなんて本当にバカだわ」


 クレアはカドルの心を完全に読み切り、カドルの心のうちを代弁する。しかし、だからこそカドルはそれを肯定してはならない。

 それを認めてしまえば、トゥリエが命の選択をしてしまったことに、スティーブが死んだ責任の一端を背負わせてしまうことになるのだから。


「と、まあ、あんたの自虐趣味(うじうじごっこ)に付き合ってあげたんだから、このことについては、もう蒸し返さないこと。それと、あの子の前でそんな顔は見せるんじゃないわよ」


「わかった……この村にいることもトゥリエがいるからなんだよな?」


 クレアから聞いた情報からカドルの中で点と点が繋がっていき、一つの結論が導き出される。


「つまり、お前は今回の魔王討伐にトゥリエを連れていくつもりなんだな」


 肯定も否定もしなかったが、カドルはクレアの顔から自分の考えが間違っていないことを確信する。

 前回こそパーティーのメンバーに僧侶はいなかったのだが、それは入れなかったのではなく、入れられなかったのだ。そしてクレアがさっき言っていた話すための条件というのも自然と導かれる。

 だから、カドルにトゥリエが魔王討伐に出発するように説得しろということなのだろう。

 必然の結末ディスティニー・エンドを変えるため、あらゆる手を尽くそうとするクレアにとって、新しいパーティーメンバーを入れるというはごく普通に思いつくことなのだから。


「……俺は、嫌だ」


 カドルの本音にクレアの形の整った眉がピクリと動いた。


「たとえトゥリエにどれだけ才能があったとしても、100%の安全を保証されているんだとしても、俺はトゥリエを連れて行きたくない」


 せっかく村が安全になったんだからもうトゥリエを危険に巻き込みたくない。それがカドルの偽らざる気持ちだ。

 個々人がカルマへの高い耐性がないと、魔物領をまともに進めなくなるため、パーティーを組めるのは神職持ちだけではあるが、必ずしも神職持ち全員が魔王討伐の旅に出るわけではない。

 基本的にはパーティーは、勇者が任命を受けた国に依存し、その国の僧侶以外の神職持ちになるのが通例であった。


「あんたがどう願おうが、天職が僧侶である以上、村を出るのがあの子の運命よ。連れて行くのが私たちか教会かって違いってだけで」


「たとえそうだとしても、俺たちの都合であいつを振り回していい理由にはならないだろ」


 前回、その旅を経験し、そして今回も旅に出る覚悟はすでに決めているカドルだからこそ、その道中の辛さは知っており、トゥリエにはその辛さを味あわせたくない。


「あんたねえ、いい加減に」


「……嫌だけど、反対はしない。お前の理想の結末(トゥルー・エンド)のために必要なんだろ?」


 だが一方で、自分の命はもとより、村を救う機会をくれたクレアに返しきれないほどの恩義がある。

 それを少しでも返したい、いや、返さなければならないとカドルは心に決めている。

 だから、勝手であろうと


「俺がトゥリエを絶対に説得する。ただし、それでも説得できなかったら諦めてくれ」


 カドルが提案できるのは本気で説得するから無理なら諦めてほしいという矛盾した願いだけだ。

 こんな提案、説得するカドルの匙加減でどうにでもなる以上、クレアに受け入れるとは思わなかったが、これ以外にカドルができそうなことはない。

 またクレアには呆れられるんだろうなと予測していたカドルだったが、意外にもクレアはケロリとしていた。


「あっそう。あんたからトゥリエちゃんに言ってくれるなら手間が省けて助かるわ。じゃあ、よろしく」


「……えっ、えっ!?」


 絶対に何か言われると思っていたカドルはアッサリし過ぎているクレアに違和感を覚える。


「何ぼけってしているのよ。善は急げって言うんだし、さっさと隣に行ってきなさいよ」


「いや、お前……まさか!?」


 ポカンとする姿を口角の端をあげ、笑いを堪えるようにするクレアを見て、カドルはようやく気づいた。


「あーっはっはっは!

 あんたが素直に頷かないことぐらい私が予測できないはずないじゃない。

 すでにトゥリエちゃんには手は打ってあるというか説得は済んでいるのよ! もちろん、ご両親のほうもね。

 なのにあんたときたら『俺が絶対に説得する』って、ぷぷっ、なにカッコつけてんのよ。あ~、おかしいー」


 一切の遠慮もなく、明らかに悪役がやるような高笑いをするクレアにカドルはあるはずもない角が見えたような気がした。


「お、鬼め……」


「はあ? 私は勇者よ? 鬼程度と一緒にするんじゃないわよ」


(勇者ってなんなんだよ……)


 王様より偉く、鬼より恐ろしい勇者にカドルは白旗を上げるしかなかった。


「連れて行くのはいいとしても、もしトゥリエの天職が僧侶じゃなかったらどうするんだよ?」


「はあ? 私が今までどれだけ神職持ちを見てきたと思っているのよ。

 将来神職持ちになるのを見抜けないならまだしも、将来神職持ちになると確信した相手を外すことはなかったわ」

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