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鎮魂式と親子

「命を賭して村を守った英雄に惜しむことのない礼讃を。そして、英雄のその御霊に安らかな安寧を」


 ランディア村で緊急の鎮魂式が行われたのはディアンマ村長が村に戻ってきてから数日後、猪の厄災から約二週間後のことだった。

 年一回の村全体の鎮魂式としては季節外れで、スティーブの葬儀自体もすでにすんでいたが、今回は事情が事情であり、村を守った英雄のために特別に行われたものだ。

 空はあいにくの雨模様ではあるものの、鎮魂式には村人の多くが出席し、皆沈痛な顔をしながらも静かにしていたが、一部だけ子供が泣き続けている場所があった。

 だが、それを止める者は、止められる者はいない。

 なぜならその子供は本日の主役の娘、サフィールであったからだ。


「うぅ、パパ、パパ……」


 父を求めて泣きじゃくる少女はカドルたちよりさらに幼く、溢れる感情が抑えられない。

 そんな我が子を落ち着かせるようにスティーブの妻であるシャーレが優しく背中をさする。


「サフィール、もう泣かないって約束したでしょ」


「でも……」


「いつまでも泣いてたら天国のパパが笑ってくれないよ?」


「いいもん! 天国で笑ってくれなくたって、ここで怒ってくれるなら、ここにいてくれるなら……ママはそうじゃないの?」


「っ……、あんたって……子は、本当に……」


「ママ? ! ご、ごめんなさい! だ、から……ママも……泣かないでよお……」


 身を寄せ合い英雄を偲ぶ親子の悲しみは鎮魂式が終わるまで続いた。

 その間も雨は降り続き、空が晴れることはなかった。

「すまないのお、雨の中、急に呼び出して。そこらへんの適当なところに腰かけてくれ」


 鎮魂式のあった日の夜、カドルはディアンマ村長の家に呼び出されていた。

 ディアンマ村長の家は村への貴族などの来訪者が来た場合の応対する場所でもあるため、家具や調度品はいくつかそろっているものの、そこまできらびやかというわけではない。


 このとき、応対室にいたのは、ディアンマ村長とカドル、そしてクレアだった。


「君は……そうか、」


「初めまして! 私、カドル兄さんの妹でクレアって言います!

 すみません、本当はもっと早くに挨拶したかったんですけど、今まで一緒にいられなかった分、兄さんと一緒にいたくて」


 普段話をするときより、明らかに数オクターブ高い猫被りの挨拶をカドルは無表情で聞き流す。

 カドルが目覚めてから一週間以上費やした演技の練習の成果が出ていた。


「そうか、お主が噂の……カドル君、彼女がここにいるのは……」


「はい。こいつ……クレアも、猪の厄災の関係者です」


 ニコニコ笑っているクレアのこめかみに怒りのマークが浮かぶ。


 カドルがディアンマ村長から呼ばれた理由はもちろん、猪の厄災の一件について。

 蒼月祭にカドルが言ったディアンマ村長に向けて言った茶猪がランディア村を襲うという予言が、まがりなりにも実現したのだ。ディアンマ村長としてはカドルを疑うはまだしも何か事情を知っているのではないかと思うことは当然で、それはカドルたちも予想していた。


(……なに初っ端から間違えるって何してんのよ!

 あれだけ時間とって設定合わせも芝居の練習もしてあげたのに!)


(べ、別にこれぐらいはセーフだろ? 間違えたわけでもないし)


(うっさい。言い訳すんな。せっかく私が理想の妹を演じてあげているのに……)


(理想の妹……?)


(何か言った?)


 カドルとクレアは言葉を出しているわけではなかったが、お互いに視線で何を言いたいのかはだいたい読み取れるようになっていた。


「カドル君?」


「あっ、すみません」


(今度はちゃんとしなさいよね)


 ここでクレアと言い争っても仕方がないため、ひとまずランディア村長への説得に注力する。


「ちょっと長くなりますが、順を追って話します……」


 ランディアさんのご存知の通り、僕と父はスレイン王国からこの村に来た難民です。

 ただ、国を抜けるということは当然危険が伴うわけで、両親は双子を二人共連れては行くことは難しく、また母の体調も当時良くなかったので、片方は父が連れていき、もう片方は母と一緒に村に残ることにしました。

 そして、その連れて行く方に選ばれたのが僕で、母と村に残ったのがクレアです。


 僕は父が亡くなった後も、母とクレアに会うことは考えていませんでしたが、ある日、西のウェラスト山でクレアと偶然会ったんです。数年ぶりの再会でしたが、妹なのですぐにわかりました。

 ただ、クレアがウェラスト山に来たのは俺に会いに来たというわけではなかったんです。スレイン王国でも猪の厄災と同じように村が茶猪(グランド・ボア)に襲われる事件が起きていて、クレアのいた村も被害にあいました。

 それによって、母が亡くなり、住んでいた村もなくなったため、クレアは一縷の望みをかけて国境を越えてきたそうです。


 そうして僕とクレアは再会したのですが、スレイン王国では茶猪が村を襲うのは必ず、満月から半月になるまでの一週間だけという噂が流れていたそうです。

 茶猪がここに来るかはわかりませんでしたが、もし来た場合、一番危なかったのが村の護衛団の皆がいなくなるあの日だったので、蒼月祭に村長に会ったときは嘘をつきました。


 カドルは事前に用意してあった設定(シナリオ)を言い切る。

 わざわざ作り話を用意したのは、クレアとの関係性と猪の厄災について、未来から来たことを語ることなく最低限体裁を整えるためだ。

 練習の甲斐もあり、嘘が苦手なカドルであっても言い間違いはなく、舌がのってくると言葉がつっかえることも減ったが、話を聞いたディアンマ村長の顔は蒼月祭の日と同様に渋い表情。


 朝から降り続いている雨は夜になっても静かに降り注いでいた。

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