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偶然の罠と決着

「がっ、はっ……」


 突進と背中の衝撃により意識を失い、崩れ落ちていたカドルを自身の吐血と口の中に広がった血の味が目覚めさせる。

 意識が戻ったカドルは反射的に立ち上がろうとするが、体の激痛と倦怠感がそれを妨げる。

 動かない体に茶猪王(ボア・キング)の追撃を心配して焦るが、意外にもその様子はない。


(見逃された? いや、死んだと思われているだけか……)


 座り込んだ位置から見える茶猪王は、すでにカドルから興味を失ったのかもと来た場所に戻ろうとしている。

 カドル自身、突進をもらった時は死を覚悟したが、生きているのは雑木林の草や枝葉がある程度衝撃を吸収したくれたことともう一つ、茶猪王に衝突する寸前にカドルは自分の体がわずかながら宙に浮いたことに気づいていた。


(風を操るんじゃなくて、自身の周囲の物体を浮かす……浮上(フロート)。それが茶猪王(やつ)のスキル)


 落ちる岩、真っすぐに飛ばした短剣、そして自分の体。全てが茶猪王に近づいた瞬間に空中へと向かったことからカドルはそう推測する。


(射程範囲は体から約一メートル。スキルは常時発動しているんじゃなくてある程度は任意で切り替えていているってところが妥当か)


 射程の範囲は目測。発動については茶猪王の周囲の物は常に浮いているわけでないことから出てきた分析。

 さらにカドルは茶猪王は浮かせる物体に対象は選べないことまで予想がついていた。もし浮かせる対象を選べるならわざわざカドルを浮かすことなくひき殺せばいいのだから。


(残りの魔核(コア)は二個。……! あいつがあの地点にさえいけば、まだ勝てる可能性がある!)


 カドルは自分の手持ちの札を確認し、最後のにうつ博打を組み立てる。

 博打は明らかに分は悪く、また失敗したら今度こそ間違いなくカドルは殺されるであろう。

 だが、それに賭けることについてカドルは一切の迷いはく、心は不思議なほどに落ち着いていた。


『あんた自分が死なないって思っているんじゃない?』


 前日のクレアに言われた言葉が脳裏をかすめる。

 あのときはもう決めたことだからで押し通したが、実はどうしてそこまで固執していたのかはカドル自身わかっていなかった。

 もちろんディアンマ村長やスティーブに恩を返したいという気持ちやトゥリエを守りたいという気持ちに嘘はない。しかし、それだけで命を懸けられるような人間ではないことはカドル自身わかっていた。


 なら、何故命を懸けるのか。

 ボロボロでも、いやボロボロだからこそ余計な思考が削げ落ち、カドルは自身の答えにたどり着いた。


「……違うさクレア。死なないと思っているから立ち向かうんじゃない。

 死にたくないから……ここで理想の結末(トゥルー・エンド)を諦めることは、俺が俺を殺してしまうことだから、俺は絶対に諦められないんだ」


 誰に聞かせるわけでもない言葉が口から勝手に出たのは、疲労からか、恐怖を打ち消すためか、それとも何か別の理由があるのか。もうカドルにもその答えはわからない。

 ただ、ようやく自分の中で腑に落ちる答えを出せたカドルは怪我した足を引きずりながらもたしかな足取りで雑木林を抜けた。




「……悪いな。最後に少しだけ付き合ってもらうぞ」


「ブモオ!?」


 突如目の前現れたカドルに茶猪王が驚いている隙に魔核を投げる。

 その魔核は魔力を供給過剰させた爆発寸前のものだったが、カドルが投げたそれは茶猪王目がけてではなく、その手前。茶猪王のスキルの範囲直前に落ち、間もなく爆発を起こした。


 爆風と共に土が舞い上がり、お互いの姿を隠した。

 目の前に現れた目隠しに茶猪王はすぐさまスキルを発動させる。

 周囲に漂っていた土煙が茶猪王の足元にある土と一緒に上空へと上がり、煙を晴らす。


 そして、煙が晴れると先ほど姿を見せたはずのカドルの姿が消えていて、代わりに先ほど茶猪王の前で爆発したものとは別の魔核による爆発の痕跡が残されていた。


「うおおおおお!!」


 茶猪王の上空からカドルが吠える。

 土煙によって茶猪王の視界を塞いだ瞬間、残り一個の魔核の爆風を利用して空中へと飛んだのだ。


「ブモオオオ!!」


 だが、茶猪王もすぐにカドルの位置とその意図を理解し、反撃を行う。

 茶猪王は浮上を発動し、自身の周囲にある物体をカドル目がけて放った。。


「ぐっ……!」


 一つ一つのダメージは大きくないもののすでにカドルの体は限界に近い。

 ゆえに短剣だけは絶対に離さないようにと短剣と自身の手をトゥリエからもらったミサンガによって固く結んでいた。


(……頼む、力を貸してくれ!)


 飛来する土や砂利、石礫を耐え抜いている中、茶猪王の足元から銀色の光が見えたとき、カドルは博打の成功を確信する。


 さっき来た茶猪王は知らなかった。

 自身がいる窪んだ場所に、茶猪(グランド・ボア)たちを倒したその場所に、カドルの偶然の罠(とっておき)が眠っていることを。


「ブモオ!?」


 茶猪王が発動していたスキルによって落とし穴の被せていた土がある程度取り払われた結果、底に眠っていた矛先も浮き上がり、真上にいた茶猪王自身に突き刺さる。

 自身を襲う下からの激痛に茶猪王はたまらず発動させていたスキルを解除してしまった。

 そして、


単盗直入(スマッシュ)!!」


 空中から落下の勢いを利用したカドルの捨て身の突きが繰り出される。

 カドルが最後の力を振り絞って繰り出したその一撃は、茶猪王の額に黒色に輝く魔核と短刀の刀身をぶつけさせ、甲高い金属音が暗闇の山に木霊させるのであった。

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