褒賞と白紙
「勇者、いやクレアたちよ。よくぞ魔王を倒した。貴君らは我が国の誇りだ」
魔王を倒して数週間後、王都に帰還した勇者一行は、旅立ちの地であるスペリア王国に帰還し、王に報告をしていた。
王都の謁見の間には、勇者、戦士、賢者、盗賊と王の近衛兵たち、そしてスペリア王国の国王であるカーネル=スペリアⅧ世がいた。
「貴君らの功績をたたえて、以前からの約束であった爵位と報奨金の他にそれぞれが望むものを一つ与えようではないか」
カーネル王は太っ腹なことを言うが、クレア以外の三人は膝まづきながら気まずそうに顔を見合わせる。
やがて三人のうち、ガーナーがカーネル王へと視線を向ける。
「カーネル王、申し出はありがたいのですが、魔王と実際に戦ったのはクレアのみです。我々三人は下賜をいただく権利はありません」
「なんだそんなことか。報告は聞いたが、勇者が魔王と戦っていたとき、貴君らも戦っていたのだろう。
心配するな。名目は魔王討伐だが、褒美については、旅全体の活躍を評価してだ。
その結果、貴君ら全員を褒美に値すると評価した。何でもよい。望みを言ってみよ」
さすがに王位は与えられないがな。と軽口をたたく。
まだ齢50歳にもなっていないカーネル王であったが、名君として知られており、勇者一行が魔王討伐の旅を円滑に進められたのも彼の功績が大きい。
そして王の御前であってもクレアが仮面と一体になっている兜を脱がなくても大目に見てくれるぐらいには懐も深い人物だった。
「「「……」」」
再びクレアを除いた三人は互いに目を配らせあう。
順当にいえば功績が最も大きい勇者から言うべきなのだが、クレアが三人には目を合わせようせず、また動こうとしないため、年功順でガーナー、カドル、フレンの順で言うことにした。
「では、僭越ながら私から……望みとしては、不死鳥に関する情報があったとき、優先的に情報提供をいただきたいのですが可能でしょうか?」
「不死鳥……そうか、ガーナーの妻の一人はすでに亡くなっているのだったな。
となると、目的は不死鳥の魔核か……よかろう。だが、不死鳥に関しては貴君らの助力が必要になるだろうから情報提供は考えていた。だからもう一つぐらい望みを言ってよいぞ」
「……では、不死鳥に関するクエストの発注と受注の権利をいただきたいのですが、可能でしょうか?」
「わかった。この国の不死鳥のクエストの決定権を貴公に与えよう。
他国には口利きをするが、どこまで協力を仰げるかは保証ができん。それでもよいか?」
「はい。それでかまいま……」
「はいはいはい!! じゃあ私も海帝龍の情報提供と、レミーアに別荘をいただきたいです!」
ガーナーが言葉を言い切る前にフレンが叫ぶ。
ちゃっかり二つ要求しているが、ガーナーのように魔物の情報提供が願いの一つとしてカウントされないならそれはありかもしれない、というかそうなるように被せてきたのだろうと順番を飛ばされたカドルは思った。
「……フレン、貴君には魔法学院の教師をやってもらいたいのだが」
「それは、わかってるよ。だから別荘にしたんじゃん。ねえ、いいでしょ、王様?」
「……はあ、わかった。たしかレミーアには今は使われていない王家の別荘があったからそれをくれてやろう」
「へへっ、やーりぃ!」
無邪気に喜ぶフレンの姿を呆れながらも笑うカーネル国王。
「そして、次はカドルの番だが……」
「私は、東北方面の土地を……ランディアという村があった辺りの土地をいただきたいです」
旅の終わりの先。魔王討伐の旅を終えてからのやることを決めていたカドルからはすんなり言葉が出た。
滅んでしまった自身の故郷を復興させること。それがカドルの次の夢だった。
「ランディアか……貴君の故郷だったな。よし、許可しよう。
それと、今まで復興がができずすまなかったな」
「いえ、魔物との戦いが激しかった状態で、誰も住んでいない土地なら復興が後回しになるのは仕方ないことです」
「そう言ってもらえると助かる。こちらからもなるべく早く部隊を編成して応援にいかせよう。
……そして、クレアよ」
三人の要求が終わり、全員の視線は魔王をたった一人で倒した真打に注がれる。
「貴君は何を望む……?」
「……はい」
クレアが言葉を発すると近衛兵の数名から驚きの声が漏れる。
それは、鎧の中から出てきたクレアの声が明らかに女性の声だったからだ。
クレアは身長こそ一般の成人男性の頭一個分低くはあっても常に全身を鎧で覆い、戦っていることは伝わっており、その強さから男性だと思いんでいる人もいた。
当然パーティーメンバーである三人とカーネル王はクレアが女性であることはすでに知っていたため、驚きはしなかったが、何を望むかは三人でも想像できなかったため、彼女の言葉を固唾を飲んで見守った。
「私は、カドルの褒賞の白紙化を望みます」
「……何?」
兜の奥からおもむろに出てきた言葉に、全員が聞き間違えかと勘違いを起こす。
「先ほどの領地の件も含め、カドル自身の褒賞を全て白紙にしていただきたいです」
「!?」
しかし、クレアから放たれた間違えのない一言は、その声質の平坦さとは逆にその場にいたクレア以外の全ての者に動揺を与えた。
「く、クレアよ。そ、それは何の冗談だ……?」
「冗談ではありません。私の望みだけで足りなければ、私の爵位と報奨金も白紙にしていただいてかまいま……」
「おい、クレア!!」
言い切る前にガーナーが詰め寄る。
「俺らが下賜を受け取るのが気に入らねえならそう言えよ!」
「別にあんたらが褒美をもらおうが、別にいいのよ。でも、カドルは駄目」
「はあ? てめえ、どういうつもりだ!?」
「どういうつもりもないわ。ただ、カドルのような無能に褒美などを与える必要はないということよ」
「カドルが無能だと? どこで判断して……」
「もちろん全部を見ての判断に決まっているでしょ。カドルはあんたのように前線を維持できる力もなければ、フレンのように後衛から援護することもできない。多少目はいいものの、体外に出ていない魔核を感知できず、天職しかも神職に選ばれておきながら斥候程度役に立たないなら、総合的に見て無能じゃないかしら?」
「斥候の重要性ぐらいお前だってわかっているだろ」
「ええ、たしかに斥候は大事ね。ただ、神職に選ばれた者の明確な役割が戦闘にはなく、斥候だけってどうかしら?
言ってしまえば、カドルのできることはカドルである必要はないのよ。
なにより、同種の奪う者の代表である奪取を魔物はおろか人間にすら成功させたことがないカドルを『無能』と評するのはおかしくないでしょ?」
「お前っ!!」
とうとう我慢の限界に達したガーナーから怒りの拳が伸びる。
「止めろっ!」
しかし、そんなガーナーを羽交い締めにしてまで止めたのは無能のレッテルを貼られた本人であった。
「止めてくれっ……」
「カドル……」
ガーナーの体から力が抜けるのを感じると、カドルは羽交い締めをとき、カーネル王のほうへと向き直る。
「カーネル王、前言を撤回する形になって申し訳ないのですが、先ほどの私の望みを変更してもよろしいでしょうか?」
「……ああ」
「私の褒賞はいりません。だからさきほどのものとは別にクレアの望みを聞いていただけないでしょうか?」
「! 今、貴君の功績を無価値と言った者を庇うのか?」
「庇うなんてつもりはありません。
ただ、クレアがいなければ魔王の討伐は旅すら始まらなかったでしょう。
その功績は、正しく評価されるべきであるとは考えています」
「……ということだが……フレア、いや、勇者よ。カドルはこう言っているが、貴君はどうだ?」
「私の答えは変わりません。カドルが褒賞を辞退するならそれでいいです。追加の望みについても他にありません」
「……わかった。ただ、すまないが、いったん私のほうで預からせてくれ。明日また判断を伝えよう」
カーネル国王は疲れた表情で言うと、勇者一行を下がらせる。
何気なく言ったカーネル王の言う明日が来ないとは、そのときはたった一人を除いて、誰も思ってもいなかったのであった。




