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囮と子供

「スティーブ、本当に今回の遠征、お主は村に残るのか?」


「はい、ディアンマ村長。当日になって急なわがままを聞いてもらって申し訳ありません」


「まあ、それは良いがの。街に行ける数少ない機会じゃから普段村から出られない護衛団の皆にはリフレッシュしてもらいたかったんじゃが……」


「へへっ、大丈夫ですよ。(シャーレ)(サフィール)に会えば俺……私はリフレッシュできています」


「ほほっ、お主は相変わらずの愛妻家、親馬鹿っぷりよのお」


「いやあ、それほどでも……それに」


「ん?」


「私の恩人の息子にちょっと気になることがありますから」


「? ……ああ、カドルという子のことか。君にしては珍しく上手い嘘をついたな」


「あははは、やっばり気づかれていましたか」


「まあのう。あのときは君の顔をたてたが、何かあったのか?」


「何かってわけじゃありません……けど、勘なんですけど、俺はあいつの言うことをもっと真剣に受け止めてあげるべきだったのかなって。

 あっ、流石にあいつの言ってたことを信じたわけじゃありませんよ? ただ、あいつが何でそう言ったのかはくみ取ってあげるべきだったのかなと……」


「ふむ……」


「……あっ、そういえばカドルを見ませんでしたか? 家に行ったんですけどいなくて、今日は畑は休むって聞いていたんですけど」


「見てないのう。まあ、可能性は低いがお昼までに見かけたら声をかけておこう」


「ディアンマ村長、ありがとうございます」


「ああ、君もこの村を頼んだぞ。スティーブ君」

 カドルがウェラスト山に入ったのは、まだ日が高い午前中だった。

 茶猪(グランド・ボア)が襲撃に来るのは真夜中だが、早く入った目的の大きくは罠の確認とできれば午前中に戦闘を行いたかったため。

 盗賊という天職の経験があるカドルは真夜中でも戦闘を行うことができるが、やはり明るいうちのほうが戦いやすく、またなにより茶猪を取り逃がして村に行かれたとしても護衛団の出発の前なら防衛することができると考えていたからだ。

 しかし、そう都合のいいようにはいかず、山の中を歩き回るが、茶猪の痕跡は見当たらず、魔物が来るなんて思いもよらないほど森は静かである。

 茶猪が西からではなく、別の方向から来るケースももちろん考えていたが、ランディア村は西以外だと街や関所が近くにあるため、可能性としては低い。


(やっぱり夜まで待つしかないか……)


 罠のしかけが問題ないことを確認後、山頂付近の見晴らしのいい場所でカドルは昼食をとる。

 ウェラスト山は山としては高くなく、子供でもその気になれば二時間で麓から山頂まで行ける。その代わり、傾斜は急になっており、ちゃんと整備された山道でないと魔物であっても下りることが難しい山だが、それゆえに見張るポイントは最低限で済む。


(スティーブさんたち、村の護衛団の皆はもう出発したかな?)


 固い干し肉を水筒に入れたスープで流し込みながら、いよいよ残る村の守りは自分しかいないとカドルは気合を入れ直すのであった。




「……来たか」


 夕焼けが沈みかけ、夜空の星が顔を見せ始めたころ、カドルの探知で茶猪の群れを発見した。

 その数はやり直し前と同様の数である十。そしてその中に一体だけ明らかに他のよりサイズが大きい個体がいた。


(いた! あいつだ、あいつのせいで……!)


 夢にも見た過去の記憶と照らし合わせて、その個体こそがカドル自身を襲い、そして隣の人の命を奪った茶猪王と呼ばれる個体であるとわかった瞬間、心の底で眠っていた憤怒と憎悪のマグマがドロリと流れ出す。

 流れ出た怒りと憎しみはカドルの手を固く握らせ、今すぐにも仇を討ちたい気持ちを逸らせる。


「……ふう」


 だが、今はまだそのときではない。

 一呼吸を置き、右手に結び付けているトゥリエからもらったミサンガを触って心を落ち着ける。

 そして、群れの進行方向とそのスピードから予定の移動経路を通ることを確信すると目的の場所に向けてカドルは山を下って行った。




「ボモモ」


(はあ、なんで俺様がこんなことを……)


 茶猪たちから数メートル離れた木の上で蝙蝠の形をした魔物である緑蝙蝠(ウィンド・バット)が悪態をついていた。

 彼が自身の上司である吸血鬼・リッチーから命を受けてはや数ヶ月。

 茶猪が行く先々で村を滅ぼす様子をお守りするのが彼の仕事だったのだが、その退屈さに緑蝙蝠は辟易していた。


「ボモモ」


「おい、茶猪(ブタ)、そっち行くんじゃねえよ……ちっ!」


 茶猪のうちの一頭が群れから外れたため、は舌打ちした後口を開く。

 口の中にはリッチーから渡された黄色の魔核(コア)と自身の者である舌先につけられた緑色の魔核が一つずつあり、二つを接触させると群れを外れていた茶猪は群れに戻る。

 魔物としては、非力な緑蝙蝠であるが、自身の魔核を介して別の魔核に魔力を流し、共鳴させることで、共鳴させた魔核の種族の魔物を操る能力を持っている。つまり、今回の場合、茶猪の群れの統率として緑蝙蝠があてがわれたのであった。


(ったく、なんでリッチー様はこんな茶猪(ブタ)共を育てているんだ?)


 上司であるリッチーには素直に従っているものの、緑蝙蝠にとって知能の低い茶猪は話し相手にもならない家畜だ。いや、緑蝙蝠にとって茶猪は食べたり利用したりするわけではないから家畜ですらないともいえる。


「ブモ」


「ヒッ! な、なんだよ」


 一方で緑蝙蝠は茶猪の中でもひときわ大きい個体である茶猪王(ボア・キング)については、警戒していた。というのも、しゃべることはなかったが、茶猪王の行動の節々に緑蝙蝠の言葉がわかっているような様子が見受けられたからである。そして何より茶猪王の額に埋め込まれている魔核が茶猪の種族として共通しているはずの黄色の魔核ではなく、見たことのない黒色の魔核であった。


「ブモ!」


「な、なにか見つけたのか……?」


 どうやら何かを見つけたようで、茶猪王が示す方に緑蝙蝠は超音波を飛ばす。すると、超音波の反響の結果、示された方向の先にいる生物を把握した。


(人間……それも子供か……けけ、どうやら山に迷い込んだようだな)


 茶猪の群れが村を襲っている間、手を出さないようにリッチーから言われているため、緑蝙蝠は鬱憤が溜まっていた。

 それを解消するおもちゃが目の前に現れたのだ。彼がとるべき行動はすでに決まっていた。


(リッチー様には村を襲っているときは茶猪(ブタ)共に命令を出すなと言っていたが、道中の場合は何も言っていない。なら、俺様が好き勝手に命令して問題ないよなあ!)


 緑蝙蝠は再度口を開け、茶猪の魔核に共鳴させる。

 今回の命令は、標的(おもちゃ)を遊び、嬲り、そして壊すこと。


「さあ、人間。少しは抵抗して楽しませてくれよ」


 命令を受けた茶猪は哀れな標的(子供)に向けて突進するのであった。

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