復活と地の一派
幕間
*天歴990年 魔物領*
黒く、薄暗い部屋の一室に、四体の魔物が円卓のテーブルに座していた。
四体はラミア、吸血鬼、エルフ、人狼とそれぞれ種類は異なっているが、その醸し出す雰囲気から彼女らがただ者でないことを示している。
一方で、テーブルの席には一つ空席が空席があり、そこに座する者を待っているのだった。
「我らが主の様子はどうかしら?」
そのうちの一人、ラミア・メルディーが口火を切る。
四体の中では序列はないものの、彼女らが話し合いをするときは、基本彼女が取りまとめ役となっていた。
「問題なし……というか、変化もなしじゃな。
声すら聞いたことがないが、こんな調子で本当に五年後までに主殿は復活するのかのう?」
それに答えたのは金色の髪を持った吸血鬼の少女・リッチー。
部屋は暗いとはいえ、昼の時間帯に呼び出されたためか気だるそうで深紅の目の光も鈍い。
「月の石記には、そう書いてありますゆえ……しばし待つ必要があるかと……」
金髪に銀髪がところどころ混じったエルフの女性・フィルシーが呟く。
ゆったりとしたしゃべり方は、彼女の生来の穏やかさを表している一方、左腕に巻かれた包帯は妙に痛々しい。
「ってかよう、なんでこうまどろっこしいことをする必要があるんだよ!」
銀髪が逆立っている人狼の少女・ヴォルガー椅子に腰かけたまま机に脚を乗せる。
その様子は、苛立ちを隠す様子もなく、琥珀色の瞳には怒りが映る。
「ワン公、足を下ろせ。それとキャンキャンうるさい」
「はあ!?」
そんなヴォルガ―を見かねて、リッチーは注意を出すが、余計な一言が彼女をさらに苛立たせる。
「死んだ目をした青白モヤシチビがなんだって?」
「ほう……死にたいようじゃな」
互いに座りながらではあるが、静かに火花を散らす。
下手な魔物であれば両者のにじみ出る魔力に気圧されて委縮するものだが、何度も繰り返される光景に慣れてしまっているメルディ―にとっては、ため息が出るものでしかない。
(同じ夜行性の種族なのにどうしてこうなのかしら……それとも同族嫌悪ってやつ? いや、異種族ではあるんだけど……)
四体の魔物は互いに種族の代表というだけで、親しいわけでもないのだから、正直放置しておきたかったメルディ―だったが、そうも言っていられないため、フィルシ―にアイコンタクトを送る。
メルディ―の視線に気づいたフィルシ―は親指をグッと立てて、了承の意を示した。
(やっぱり頼れるのはフィルシ―だけね……)
「お二人とも、準備はよろしいでしょうか……?」
(……ん?)
「ルール無用のデスマッチ……不肖、このフィルシ―が審判を務めさせていただきます。いざ、尋常に……」
「ちょ、ちょっと!! 何やらそうとしているのよ!」
「?」
慌てて止めに入るメルディ―にフィルシ―はきょとんとする。
「フィルシ―は、メルディ―様にご指示いただいた通り……リッチー様とヴォルガ―様の決着を見届けようと……」
「いや、全然違うから」
「そうじゃぞフィルシ―。ルール無用なら審判はいらないじゃろ」
「そういうことじゃないんだけど」
「! 申し訳ございません……では、さっきのアイコンタクトはいったい……?」
「わかってねえなフィルシ―。つまり、メルディ―は自分も参戦したいってことだろ」
「そう、だったのでございますね……」
「なんでそうなるのよ!」
三人が各々ずれた解釈を好き勝手に言うため、メルディ―は頭が痛くなる。
(ってか、あんたら二人は何平然と矛を収めているのよ!)
発端となった二人からすでに険悪のムードはなくなっていることにメルディ―はホッとしつつも、微妙にやるせない気持ちを持つのはしょうがないだろう。
(はっ! まさか、フィルシ―は最初からこれが狙いで……?)
メルディ―はばっとフィルシ―を見る。
が、フィルシ―は小首を傾げて頭にハテナを浮かべていたため、そんなことはなかったと気づき、虚しさがますのであった。
「話は戻すけどよ、いくら主の復活のため、『重』の魔核を魔物に埋め込んで村を襲わせる今のやり方って、やっぱりまどろっこしいと思うんだよ」
いくらか怒りも収まり、机から脚を下ろしたヴォルガ―だったが、意見自体は正気だったらしく、不満げに鼻を鳴らす。
「地重王……主の復活条件は、『重』の魔核に瘴気を集めることだろ?
だったら私らで人間たちの街の一つや二つを占拠して、そこで復活させればいいじゃねえか!」
人間が魔物を殺すとカルマを得るのと同様に魔物が人間を殺すとカルマが発生する。
しかし、人間にとってカルマが毒であるのに対して、魔物にとってカルマは薬、いや、栄養と呼べるものであり、ゆえに魔物は人を襲う。
そして、それは彼らの主である地重王も例外でなく、その命である重の魔核にカルマを集め復活させることが彼女たちの目的である。
そう考えると、ヴォルガーの言う通り、小さな村をちまちま襲っていくよりも大きい街を襲うほうが明らかに効率的だ。
「それは、なりません……月の石記に反してしまいます……」
だが、その意見をフィルシ―は静かに、されど力強く反論する。
「月の石記か……それもどこまで信用できるのかのう」
「リッチー様……月の石記が間違っていると言いたいのですか……?」
「そうは言っておらぬよ。ただ、月の石記に書いてあることは主らしか読めないからのう」
「……なるほど、私たちを疑っているのですね…………」
フィルシ―は包帯を巻いてある左手をギュッと抑える。
エルフは、今でこそ地重王を支持する軍勢の一員になっているが、少し昔(といっても数百年以上前だが)までは、どこにも属さない魔物の一族だった。
それゆえに今も同じ魔物であっても別の種族のものたちに疑いを向けられるのは日常茶飯事であり、表情こそ変えていないものの、包帯の下に隠したフィルシ―の気持ちは、この場の誰にも想像できない。
「リッチー、そこまでにしなさい。月の石記もエルフたちもを信じて迎い入れることは、過去に散々議論して出した結論でしょ」
さすがにこれ以上の脱線は避けたかったメルディ―は強引に話を戻す。
「ヴォルガーの言うことも一理あるけど、下手に動いて天の一派や海の一派に知られたら面倒でしょ。
向こうだって天空王や海時王の復活させるのはもちろん、我らが主の復活阻止のために敏感になっているはずだし」
「そりゃあ、そうだけどよ……ひっ! わ、わかったよ……」
なおも反論しようとするヴォルガーをメルディ―は視線で止める。
「リッチー、我が主の魔核を持っている魔物は?」
「そうじゃのう。今はたしか茶猪……いや、そこから進化した個体の茶猪王に入っておるよ。」




