贈り物と約束
「ごめん、待ったか?」
「う、ううん! 今来たところだから大丈夫だよ」
蒼月が空の真上に現れたころ、約束の場所でカドルとトゥリエはおちあう。
祭りはまだ続いているが、二人が住んでいるところは街の外れなので周りに人はいなく、家から漏れる光が二人を照らしていた。
「親父さんとお袋さん、もう家にいるのか?」
魔核は魔力があれば子供でも明かりをつけられる一方、魔力のコントロールができない子供では、魔力の過剰供給により、意図せず爆発させることもあるため、家によっては子供に使用をさせない家庭もある。
「ううん、二人ともまだ祭りのほうに行っているみたい」
「そうか、挨拶しておきたかったんだけどな」
「あ、挨拶!?」
「ん? 何かおかしいこと言ったか?」
「う、ううん、そうだよね。挨拶は必要だよね……」
両親がすでに他界しているカドルにとってトロンとマリーは親代わりのような存在であるため、顔を見ておきたかった程度の発言だったが、トゥリエは妙にあわあわしていた。
「じゃあ、さっそくだけど、はい。これが俺からのプレゼント」
村長との謁見後の買い物だったが、カドルはそこまでプレゼント選びを迷うことはなかった。
それはひとえに魔王討伐の旅をしているときにクレアとフレンの買い物に戦士と一緒に連れまわされた経験が大きい。
(……目がいいからってお店の探索と良品の目利きもさせられたっけ)
ガーナーは基本的に荷物持ちだったが、ときおりクレアに「道中も仮面つけているのにオシャレしても意味ないだろ」などと不用意な発言し、死にかけたこともあったりする。
「あっ、髪留めだ」
「ああ、アネモネの花っていうらしい」
「ありがとう……えへへ、どうかな?」
もらった髪留めをさっそくつけたトゥリエは上目遣いでのぞき込む。
「うん、良く似合ってる」
戦闘中や作業中に髪の毛が邪魔にならないようになどと、微妙にセンスが実用性に寄っているカドルだが、亜麻色の髪に咲く白いアネモネは彼女の純真さにマッチしていたことに安堵した。
「ありがとう。えへへ、今日のカドル、なんかいつもと違うね」
「えっ!?」
トゥリエの言葉にカドルはどきりとする。考えてみると今のカドルは20年分の記憶があり、その分精神的な年齢も高くなっているが体は10歳のままなのである。
カドルにとしては、普通に接していたつもりではあるけれど、周りから見たら変わったように見えるのであろう。
「お、おかしかったかな?」
「う、ううん! そういうことじゃないの!
優しいのとわたしの言うことを聞いてくれるのは、変わらないんだけど、いつものカドルはその……あまりしゃべってはくれないし」
トゥリエの言葉を聞いて合点がいく。
このころの本来のカドルはまだ両親を失ったことから立ち上がれておらず、周囲と壁を作っていた。
その結果、ランディア村が滅んだときの立ち直りもわりと早かったため、一概には間違っていないとはいえないかもしれない。
しかし、今のカドルにはそう思えること自体が悲しいことであるとわかっている。
(……スティーブさんの最後の言葉はそういうことか。本当、昔から迷惑をかけてばかりだな)
「ご、ごめんね……怒っちゃったかな?」
一方でトゥリエはカドルからの反応がなくなったのが、おそるおそる伺いをたてる。
「いや、ごめん、そういうわけじゃないんだ……むしろ、ありがとう」
カドルはトゥリエの頭をポンポンと優しくたたく。
「ふぇっ!?」
「あっ、ごめん。つい……」
ランディア村では、感謝の気持ちを伝えるとき、相手の頭を優しくたたく風習があった。
(魔王討伐の旅に出た時は年下のフレン相手でもやらなかったのにな……あれ?)
何気なくやったはずの行動に何か違和感を覚えるカドル。
違和感を突き止めようと考えを巡らそうとしたところで、トゥリエの邪魔が入った。
「う、うん……あっ! そうだ! これっ、村長さんからカドルに渡してって」
「これは……魔核……?」
トゥリエから受け取った袋に入っていたのは複数の魔核の欠片。
ディアンマ村長がトゥリエのことを知っていたか疑問に思ったけれど、すぐにスティーブから聞いたのだろうと得心がいく。一方で、生活の必需品である魔核をくれたのかわからない。
「それと、村長さんが言っていたんだけど……」
『怖がらせてごめん。今回は君の勘違いだったけれど、何かあればすぐに私に言いなさい』
「!」
ディアンマ村長もスティーブもカドルの言葉を信じてくれなかった。
けれど、彼らは自身の立場に誠実であっただけで、カドルの敵ではなかったのだ。
(せめて、恩返しをしなきゃな……)
自分の味方であるスティーブのため、ディアンマ村長のため。何よりランディア村のため。
カドルは自身が何ができるかを考え、手のひらを見る。
(やっぱ……やるしかないかよな。今度こそ守り切るんだ。俺の、この手で……)
手のひらに乗った小さな決意をカドルは握りしめるのであった。
「それで、わたしからのプレゼントはこれなんだけど……どうかな?」
トゥリエは紙袋に入れたプレゼントを渡す。
カドルはこの場で開けてもいいものなのか一瞬迷ったが、トゥリエの目が催促していたので、袋の中身を確認すると、手に紐上のものがポトリと落ちた。
「……ミサンガ?」
「うん! お祭り限定のものらしくてね、イニシャルも縫ってもらったんだ。」
もらったミサンガは子供用のため、煌びやかなものではないもののこの日に合わせて制作されたのであろう蒼月とワルド語で書かれた文字が二つ入っている。
「こっちは、俺の名前だと思うけど、もう一つって……」
「わ、わたしの名前なんだ……嫌だった?」
「い、嫌じゃないけど」
「じゃあ、嬉しい?」
ずんずん近づいてくるトゥリエに気圧されるカドル。
「う、嬉しいかな」
「えへへ、よかった~」
(なんか今日のトゥリエは妙に慌ただしいな)
表情が豊かな子であることは知っていたものの、今日のトゥリエの様子を訝し気に思うカドルだったが、その理由はすぐにわかることになる。
「えへへ、でもこれであたしとカドルは夫婦になるんだね」
「えっ?」
「……ふぇっ!?」
お互いの言葉にポカンとした表情で見つめあう。
「……なんでそうなるんだ?」
「だって蒼月の日に贈り物を送りあった男女は結ばれるって……」
(そういえば、そういう風潮があるって聞いたことあったな……)
蒼月の日にお世話になっている相手にプレゼントを贈りあう習慣自体は一般的なものだ。
しかし一方で、蒼月の日が男女にとって特別な日として扱われている以上、そういった追加のジンクスは明確化されてはいないものの存在する。
(トゥリエが妙に慌ただしいのはこれが原因だったのか……)
いくら自身に向けられる感情に鈍いカドルであってもここまでくれば流石にトゥリエの持っている淡い感情に気がつく。
そして、その感情は肉体的にはともかく精神的には二倍あるカドル自身が素直に受け取っていいものじゃないということも。
しかし、だからいって子供の言うことだと受け流すことは、それこそさきほど子供の言うことだと相手にされなかったカドルにすることはできず、真面目にそして真剣に伝えることに決める。
「……ごめん、トゥリエ。そういうつもりじゃなかったんだ。
でも、俺がお前が大切に思っているのは間違いじゃないから……一つ約束してくれるか?」
「……約束?」
「ああ。これから先、どんな辛いことがあっても……俺がこの村からいなくなっても前を向いて笑顔でいること。それを約束してほしんだ」
「……カドル?」




