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夕陽ヶ丘にくる夜に  作者: 深海うに
魔女の噂
4/17

4.課外活動-2

 少人数制を謳う夕陽ヶ丘高校の校舎は、さして広くはない。


 一学年三クラス。そのうちの多くは隣接する夕刻大学へ進学するという。決して新しいとは言えない校舎だが、その割には設備も整っている。


 校内の清掃は、業者に委託しているらしい。そのせいか、課外活動が必須な反面、掃除の時間というものはない。


 ピカピカに磨き上げられた廊下を通り、海斗は二年の教室を覗き込んだ。


「すいません、ねぇちゃんいますか?」


 ドア近くで談笑していた上級生に尋ねる。声をかけられた男子生徒は海斗の顔を見るとすぐにあぁ、と応じ、教室の奥へと呼びかけた。


笹塚(ささづか)、弟!」


 男子生徒の声で、教室の中心で咲いていた女子の輪がわっと割れた。


 立ち上がったのは、長い髪を無造作にまとめた華奢な少女だった。海斗の顔を見て、嬉しそうな恥ずかしそうな、なんとも言えない顔になる。そろそろ教室には来るなって言われるかな。海斗は心の中で頭をかいた。


「どうしたの?」


 姉は海斗とそっくりな奥二重の目を細めて、微かに首をかしげた。肩にかかった黒髪が、姉の動きに合わせてさらさらと流れる。


 海斗はすみません、と誰にともなく断ってから、教室の中心へと近寄った。


「ちょっと聞きたいんだけど」


 担任から突き返された白紙の入部申請書を姉の目の前でひらひらと振って見せた。三度にわたる攻防のせいで、もはや紙はぐちゃぐちゃになってしまっている。


「入部申請、明日締め切りだって。あんまり活動してない部活とか、委員会とか、しらない?」


「わたし、美術部だけど。ほぼ活動ないから」


 ちょっと、しわくちゃすぎない?姉は小言を言いながら、海斗の入部申請書を手で伸ばし始めた。


「うちから美大への進学希望者っていないし。普段はほぼ帰宅部みたいな状態。

 さすがに文化祭で掲示する作品は作らなくちゃいけないから、二学期になると遅くまで残ることもあるけど……」


「あぁ、文化祭。なるほどね……」


 言われてみれば去年の秋ごろ、姉があわただしくしていた時期があったか。自身の受験勉強で必死だったせいか、ろくに覚えていないが。


「図書委員なら文化祭前も放課後活動ないよぉ」


 横からおっとりとした女生徒が口をはさむ。姉と輪になって弁当をつついていたうちの一人だ。新間垣(にいまぎ)雪音(ゆきね)という。海斗にとっても顔なじみの相手である。


「ほとんどの委員会って、文化祭期間だからって仕事増えたりしないんだよねぇ。対外的に活動報告の必要がないっていうか。

 普段の活動だって、司書の先生がいるから当番もないし。図書の整理は休み時間にやっちゃうし。楽だよぉ」


 委員会のほうがおすすめ~。雪音は間延びした独特のテンポで言いながら、最後まで取っておいたのであろうウィンナーに箸を刺した。昔から好物は最後に食べていたなぁ、と海斗はぼんやり思う。


「海ちゃんたちみたいに、学校終わってすぐ帰りたいなぁっていう人には図書委員いいよぉ」


「図書委員のこと、詳しいんだね。雪ねぇ」


 雪音はヘラリと笑った。ほおばったウィンナーをもぐもぐとかみしめると、ゴクン、と音が聞こえてきそうな動作で飲み込む。よく言えば小動物的、言葉を選ばなければ幼児のようだ。


「だって、わたし図書委員だもん。今年はレオくんも図書委員に入るって言ってたよぉ」


 レオくんというのは雪音の一つ下の弟で、海斗にとっては幼馴染に当たる。悪友と言ってもいい。最も付き合いが長く、信頼している友人だ。


「へぇ、冷音(れおん)も図書委員なんだ。んじゃおれも図書委員にしようっと。

 雪ねぇ、サンキュー!」


 海斗はいまだに入部申請書のしわを少しでも伸ばそうと手アイロンをかけている姉から書類を奪い返すと、ろくに挨拶もせずに自分の教室へと戻っていった。姉を囲む先輩女子たちが含んで笑ったことを、海斗は知らない。

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