3.課外活動-1
海斗が進学先に夕陽ヶ丘高校を選んだのは、「家から一番近い高校だから」だった。
父親は警備会社勤めで、当務の状況によってはしばらく家に帰ってこない。一度も顔を合わせずに数か月暮らすことにももう慣れた。
母親はいない。早くに亡くなったと聞いた。断片的な記憶すらない海斗にとっては、初めから存在しないのと大して変わりはない。
普段は主に姉と二人で過ごす。一つしか年の差のない姉は、しっかり者のようでいて案外抜けている。主な家事を姉がやり、それを海斗がフォローする形で支えあって生きてきた。
元々は高校への進学はせずに中学を出たら働くつもりでいた。家計を助け、少しでも暮らしを楽にしたいと考えていたけれど、父に強く進学を進められた。
父の気持ちは痛いほど伝わった。姉弟二人が進学するのに困らないほどの額を、長い時間をかけて貯めてくれていたのだ。
姉と相談して、家からもほど近く大学までエスカレーター式に進学できる夕陽ヶ丘高校を選んだ。家事をこなし、勉強もし、父にかかる負担を極力減らしたかった。
学生生活を満喫するつもりは最初からあまりない。海斗にとってはそれが当たり前のことだった。
だから、つまり。
「センセー。部活動って、特例で不参加とか認められたりしないんスか?」
課外活動から逃れるすべはないものだろうか。
「部活が嫌なら委員会に入れ。我が校では原則課外活動必須だぞ。家庭の事情は把握しているが、特例を認めることはできない」
「ならせめてバイト認めてよセンセー」
「バイトは校則で禁止。以上。わかったらさっさと入部申請を書いてこい。明日が締め切りだぞ」
「んだよぉ、センセーのケチ!」
海斗は悪態をつきながら職員室を出た。何度訴えても頑として受け付けない。この攻防も今週三度目である。
はぁ。
大きなため息が漏れた。
そういえば姉は何部に所属していただろう。意見を聞きに行ってみようか。
職員室前に掲げられた時計で昼休みの残時間を確認してから、海斗は二年C組へと向かうことにした。