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11.寸隙
ティロン。真っ暗な中に電子音が響く。
小さなディスプレイの光が、部屋の一角を照らした。
ティロン。立て続けに音が鳴る。
散らばったプリント。積み上げられた本の山。脱ぎ捨てられた制服。投げ置かれた学生カバン。
電気の消された真っ暗な部屋の中は、雑然としているのにどこか無機質で、まるで、そう。モデルルームを思わせる。部屋の主の存在をカムフラージュしているかのようだ。
ティロン。電子音のその奥に、彼はいた。
息を潜め、小さく小さく縮こまり――嗤っていた。
ねっとりとした重い空気は下に溜まる。そうして何もかもに絡みつき、温度を奪っていくのだ。
彼は嗤った。粘っこい空気を蠕動させながら、嗤う。
心待ちにしていたのだ。これを、待っていたのだ。
彼は嗤いながら、夜明けを待っている。