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英雄の足跡

「お前が鬼だ! ほら、追いかけてみろよー!!」

「うわーん!」

「また、泣いた! 泣いたぞ! 弱虫め!!」

「こらーーー!! 煉をイジメるな!」

「出たな! ゴリラ女!」

「誰がゴリラ女?」

 俺は、小さい頃、虐められていた。といっても、子供の頃だからそんなに陰湿な虐めなどでは無かったけど。近所の悪ガキ達に泣かされてた俺を救ってくれたのは、いつもヒーローだった。

 枝を剣代わりにして悪ガキ達を倒していく姿は、女性だけど勇敢で強くて、俺にとっては誰よりもヒーローだったんだ。

「立てる?」

「ありがとう。茜ちゃんは何で守ってくれるの?」

「うーん・・・大切な人だから!」

「大切な人?」

「そう! 私が強いのも大切な人を守るためだからって信じてる。この力はそのためなの」

 ヒーローでもある少女はそう言うと、力を見せてくれた。彼女は力に溺れず、力の使い方を知っている真のヒーローだった。

 だけど、少しずつ時が経つにつれて女性らしい身体付きになっていくのを見て、俺は、ヒーローとしてだけでない彼女の一面を見るようになって行った。

 そして、あの事件が起きた。


「武蔵の家では男の発言は絶対であり、その行動を女が邪魔することはあってはならない」

「ええ、存じております」

「ならば、良い。下がれ」

「はい」

 四武家と呼ばれる世界にも影響を及ぼす家系がある。その中の一つの武蔵に俺のヒーローはいる。中学生にもなれば女性らしさも出て来て、魅力を感じさせる年齢にもなっている。

 そんな女性に対して、男が絶対の家系で何が起こるか。襲われるのだ。特に強さも兼ね備えているため、狙っている男も多かった。

 そして、事件が起きる。

「は、離して!」

「いいのか? 男の言う事は絶対だ。それを破れば、家から追放。それだけじゃなく、社会的にも抹消なんてこともあるかもな?

 剣の才能があっても女って時点で意味が無いんだよ。その才能を受け継いだ俺の子供を産め」

「・・・ッ!」

 諦め、悔しさ、悲しさ・・・いろいろな感情が入り混じり、彼女の目から初めて涙が零れ落ちる。何て情けない世界なんだろうか。性別だけで全てを失う世界。そんな世界があっていいのだろうか。

「もう・・・嫌・・・」

「諦めるなよ! 俺のヒーローは強くて、勇敢だったろ!?」

「煉・・・?」

「なんだぁ? てめぇ、武蔵の家にどうやって入ってきた。いや、お前、ここの雑用係か。なら、出しゃばるな。

 この世界では力こそが全てだ。武人でも無い奴がいい気になるなよ」

「力が無くても! それでも・・・守りたい者を守ります。その大切さを教えてくれた人に背を向けて逃げることは出来ませんので。

 立って下さい。俺は、あなたの姿に憧れて、この家に来ました。そして、あなたのお陰で救われました。

 だから、そんな顔をしない―――」

「うるせぇな! ・・・そうだな。死ぬか? たかだか雑用係が1人死んだぐらいで何ともならないだろ」

「ゴホッ! ガハッ! うわわわぁぁぁーーー!!」

「ちっ・・・面倒なガキだ」

 男は俺の胸倉を掴み、思い切り殴りかかろうとした。だが、その手はもう一人の人物によって止められる。

「その手を放しなさい」

「あ? てめぇ、女がおと―――」

「放せと言っているのです」

 圧倒的な威圧。男は言葉も途中に呼吸を荒げる。武人であるがゆえにその殺気を感じ取れるのだ。俺にはこの時の殺気なんて全く分からなかったが、いつもと感じが違うってことだけは雰囲気で分かった。

 素人である俺ですらも分かったんだ。目の前で殺気を受けてる男はたまったもんじゃないだろ。

「この世界の常識だから、と諦めていました。けど、煉が気付かせてくれました。私は・・・あなたがそんな顔をしなければならない世界を壊します」

「ふ、ふざけるんじゃねーーー!!」

 かろうじて残っていたプライドを絞って、男は刀を持ち、斬りかかる。

 武人として鍛え抜かれた太刀筋は俺でも凄みが分かる。だが、その一太刀ですらも彼女は軽々と避ける。

「立花 茜、参ります」

「クソがーーー!!」

「一の舞 白狼」

 無手の状態で構えた茜はそのまま斬り下ろす動作をする。当然、何も持っていないのだから何も起こらないはず。だが、男は斬り下ろされた直線上から避ける動作をする。

「本当に戦うのか? 俺を攻撃すれ―――」

「二の舞 赤狼」

 突きの構えを取ると、そのまま高速で突きを繰り出し続ける。高速の剣技。次々と放たれる突きによって空が斬れる。そして、男の体が切り刻まれていく。

「諦めなさい。あなたでは私に勝てません。私は、家を出ます」

「く、クソ・・・お前は、絶対に許さない! 例え、家から出たところで武蔵家によって世界から抹消される運命だ!

 いや、俺が・・・俺が必ずお前を手に入れる!

 気に入ったぞ。強さと美貌を兼ね備えた剣姫(けんき)!!」

 その日を境に茜は武蔵家を後にした。茜の父であり、当主でもある武蔵 慶次は家を出ることに反対をした。だが、慶次の父である武蔵 皇はその意見を突っぱねた。

「家訓を守ることこそが大事である」

 その一言で全てを終わらせたのだ。そして、皇は自室へと戻り、会議は終了した。

「何者だ?」

「武蔵家で雑用係をしている紅 煉といいます」

「なるほど。その雑用係が何用か? 儂の首を取っても茜は戻らぬぞ」

「・・・!? あなたが追い出したと聞きました。なら、あなたさえいなくなれば!」

「ふむ・・・ならば、問おうか」

「?」

「茜にとってこの家にいることが本当に幸せなのか?」

「そ、それは・・・」

「女だからと男よりも下とされ続けた結果、今回の件が起きた。古くからの慣習はすぐに消すことは出来ぬ。儂も儂の妻のために消そうと努力をした。だが、染みついた物は消せぬのじゃ。

 茜にとっては幸せな選択だったと思うがの」

「確かにそうかもしれない! けど、何で・・・何で、茜を襲った奴にはお咎めが無いんだ!」

「それも慣習・・・と終わらせるにはいかぬな。奴には追って処分を言い渡す予定じゃ」

「・・・ッ」

「小童の言いたいことも分かる。だが、他人の力を当てにしてるだけではダメじゃの」

「けど、俺には力が無い」

「ふふふ・・・力が無いか。力があれば行動を起こすか?」

「当たり前だ! 俺は、茜と共に戦えるように―――いや、憧れたヒーローになりたい」

「よかろう! 戦士としての心が出来ておる。儂自らが煉を鍛えてやろう。覚悟して付いてこい」

「前当主自ら・・・?」

「不服か? 歴代でも最強と言われた儂の手ほどきでは」

 不敵に笑う皇はラスボスそのものであったが、それと同時に俺にとっては希望の一本の糸に思えた。力を持たない俺にとって、力を得るチャンスなのだから。

「・・・やります。俺を鍛え上げて下さい」

 そこから地獄のような鍛錬の日々が始まる。血反吐を吐き、鍛え続ける日々が数年続いた。学校にも行きつつの地獄の日々をよくこなしたなーと自分でも思うが、何とか鍛錬を続けれた。

 全ては茜に追い付き、憧れのヒーローとなるために。


「全校生徒代表、立花 茜」

「はい」

 凛としたたたずまいと美貌から周囲の視線は茜と呼ばれた女生徒に向けられる。全ての視線を受けても動じることなく、壇上へと歩いて行く。

「あれが・・・」

「綺麗・・・お姉さまって呼んでいいかな」

 壇上にいた校長が横の席へと戻り、茜がマイクの前に立つ。そして、新入生でありながら全校生徒の代表として、新学期の挨拶をする。

「新入生でありながらこのような立場に選んで頂き、光栄に思います。挨拶とのことなのですが、私は語るほど知ってる事はありません。なので、新入生として先輩方に、よろしくお願いします・・・とだけ言い、この挨拶を終わらせて頂きます。

 良き学校生活が送れることを喜ばしく思います」

 先輩として後輩の自分たちのことをよろしくお願いしますと、普通なら聞こえる。だが、学園都市においてそのようなものはない。

 先輩であっても強者に喰われるのだ。現状、誰よりも強いと選ばれたからこそ、茜が全校生徒代表になった。その事実を受け止めつつ先輩方は挨拶を見届けた。

 学園都市―――四武家が大きく関与して出来た都市。才能を大きく伸ばすため、選ばれた存在を更に飛躍させるために、というのが表の存在意義。

 しかし、裏では非人道的な実験などが行われており、四武家がそれぞれのパワーバランスを崩そうと躍起になっているのが現状である。

「いいじゃん。俺たちと遊ぼうぜ。この後は何も無いんだろ?」

「す、すいません。私、そういうのは―――」

「何を嫌がってんの? 俺たち上級生の言う事聞けないの? それに、これも目に入らない?」

 男が女生徒に見せたのは襟に付いたバッジである。Aと書かれたバッジに女生徒は目をそらして逆らうことを止めた。

 武家がトップということもあり、ランク制になっている。つまり、ランクこそが至上のクソみたいな社会になってしまっているのだ。

 最高ランクのSSを筆頭にS、A、B、C、Dとなっている。つまり、この男子生徒は上から3番目の強さということになる。

「いいねぇ。大人しい女の子は嫌いじゃない」

「誰か・・・助けて・・・」

 その光景を見ていた茜が飛び出そうと声を上げようとした瞬間、男子生徒の腕を掴む存在によってそれは止められた。その人物を茜は誰よりも知っていた。

「止めてやれよ。嫌がってるじゃねぇか」

「何だ? 新入生か。Dランクのクセに俺に喧嘩売るのか?」

「はぁ・・・武家が関わるとどこもロクな事にならないんだな」

「何言ってやがる!」

 男子生徒の繰り出される無数の拳。身体強化によって常人とはかけ離れた拳の速度と破壊力で次々と打ち込んでいく。だが、拳を打ち込んだはずの男子生徒の顔色は逆に良くない。

「権力を振りかざし、弱者を虐げる奴は許せない」

「剣も無いのに構え・・・?」

「一の太刀 虚無」

 何も武器を持っていないのに繰り出される攻撃によって男子生徒は次々と傷を負う。そして、力なく男子生徒は倒れる。

「何が起こったんだ・・・?」

「まさかAランクが新入生に倒される?」

 周りにいた生徒たちは突然現れてAランクの男子生徒を倒した存在をただただ見ていた。この男は誰なのか。

「大丈夫? もう少し早く出れば良かったんだけど、間に合わなかった」

「いえ、ありがとうございます。あなたは?」

「俺は―――紅 煉。今日からこの学園都市にやってきた新入生だ」

 女生徒を起こし上げた煉を見つめる。あぁ、彼がやってきてしまったのだ・・・と茜は思う。武家の思惑、剣姫の使命が交錯し、学園都市を中心に胎動する。

 全ては英雄の誕生のために

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