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邪魔もの殺してスローライフ。   作者: 瀧寺りゅう
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転② 伝説の愛されもの

 思いもしない穏やかな声で魔王オーディンは答えた。


 魔王の声に反応したのか、隠れていた邪魔物が街の影からうぞうぞやってくる。この邪魔物を見て、街の人たちは家に閉じこもってしまったのか。


 一体いつ、どうやって入ってきたの。門が壊れたときのことを思い返す。まさか、あのとき一瞬感じた悪寒は――。


 たった一瞬で私の横を通り抜けて、魔王は街に入りこんだということか。


「なぜここに……岬にいるはずじゃ」


「バナナクレープはもう飽きた。移住先を探していてね。次はもっとおいしいものがあるところがいい」


 私の問いに答えながら、魔王が何か食べている。肌色のものが見えてドキッとした。苦笑いする。魔王が持っているのはクレープだった。


 異様なまでの余裕だ。前にして初めてわかる。勝てない可能性だってある? 冗談じゃない。


 私が必死に食い止めて、たった一人でも街の人や仲間を逃がせるかどうか……それくらいの力量差が私と魔王の間にはある。


「外で騒いでいたね。やかましいのは嫌いだな」


「誰のせいだと思ってるんですか。どうして邪魔物をこの街に……ううん、どうして世界中に邪魔物を放ったりするんですか?」


「邪魔もの退治をしているのさ」


 ……え? 意味が理解できなくて、聞き返してしまう。


「邪魔物退治……? あなたが?」


「ああ、でも違うよ。私のつくった邪魔物たちのことじゃない。君たちのことさ」


 腑に落ちる。仲間の言っていたことは正しかったようだ。


 人間嫌いの魔王。魔王オーディンからすれば、私たち人間が邪魔ものなのだ。だから邪魔物たちをつくり、世界中を襲わせていた。


「力があると、それを求めてやってくるものが多くてね。うるさくてたまらないよ。エーディンはよくやってるなあ」


 魔王がどんな不便な生活を送り、それによって人間嫌いになったのかは知るよしもない。でも、おかげで今は自分の話に夢中になってくれている。


 隙を見て回復魔法を発動する。気づかれないよう体力をじりじりと回復させていく。魔王はこっちを見ようともしない。


「やれやれ、私は穏やかに暮らしたいだけなのに……平穏は遠いよ」


 くしくも聞き覚えのある言葉が私の耳を通りすぎた。


 それとほぼ同時に、体中に力がみなぎる。体力が全快した。魔王は見ていない。


 私でどれだけ時間を稼げるかはわからない……でもやるしかない。――今だ!!


「剣技発動!! 女神、エー……ディ……」


 私は止まる。女神様の名前を最後まで言えずに。


 すぐ目の前に魔王がいた。噴水に座ってたはずなのに、息がかかるくらい近くにいる。


 ドクン、ドクン。


 顔の下から音がして目を向ける。鋼鉄の甲冑を貫いて、魔王の腕が私の胸に食いこんでいた。――ひじまでずっぷりと。


「……げぶっ!」


 崩れ落ちる。聖剣が光を失い、あたりが暗くなっていく。私は慌てて回復魔法を自分の胸に当てる。


「おやおや。かわいい胸からアセロラジュースが出ているよ」


 落ちつけ、落ちつけと思うのに血が止まってくれない。本当にジュースみたいに、ごぼごぼあふれてく。回復が追いつかない。


 力が入らなくなって、私は広場に倒れた。上にはケイク・ケイクの夕空と、魔王の顔。


 剣技を発動することすらできなかった。剣技の習得スピード80倍――人々から羨ましがられるスキルも、しょせんは女神や魔王といった別格の存在から与えられたもの。

 彼らに与えられた側でしかない人間が、創造主に等しい彼らに勝てるわけがないんだ。


 愛されものだろうと邪魔物だろうと、与えてもらったにすぎないちっぽけな存在。


「……あなたなんて、女神の最大の加護を受けたものに、いつか倒されるに……決まってるんだから……っ!」


 それでも私は、なけなしの負け惜しみを魔王に言った。いるわけないと否定したばかりの存在を使って。最期に少しでも、魔王オーディンに何かをぶつけたかったのだ。


 そしてその行動は、結果的に私を絶望のふちへと突き落とした。


「伝説の愛されもののことかい。――それは私だ」


「……。……ぇ?」


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