チート兄妹『ヘンゼルとグレーテル』
「ヘンゼルとグレーテルって、実はチートよね」
「タイトルからしてそうだが、いきなり何を言い出しているんだ。というか、そんなにひどい話だったっけ?」
「短い話だけど、けっこうイベントが多い物語だからね。よくよく読み返すと、兄妹で凄まじいことをしているわ」
「何かパンくずとお菓子の家の印象しかないんだが」
「それは読み飛ばしすぎじゃない? まあ細かいあらすじは各自で調べてね。青空文庫でも読めるわ。現代的な散文じゃないから、あらすじ探す方が楽だとは思うけど」
「実母だったり、継母だったり、色々変更されてる部分もあるんだな」
「そうね。それで、兄ヘンゼルが行なったことだけど」
・口減らしを提案する母親とやむなく承知する父親の会話を察知
・森から帰れるように光る小石をあらかじめ集めておく
・母親に対策されるも代わりにパンのかけらを目印に
・魔女に捕まって太り具合を確かめられるとき食事の残りの骨を差し出して誤魔化す
「よくこんな機転が利くな……」
「ついでに言うと、最初に両親の会話を聞いた時に、妹に『僕が何とかする』って伝えているのよね。そして実行する。何でしょうね、この妹が思い描く『理想のお兄ちゃん』みたいな生き物」
「言い方……まあでもこれだけなら別に知性高いくらいで済むんじゃないか? チートじゃないだろう」
「どうかしら。妹も妹で凄まじいわ」
・かまどに入れようとする魔女を逆にはめて焼き殺し、兄を救出
・森から帰る時、動物たちに頼んで助けてもらう
「項目は少ないけど、改めて聞くと……うん。特に前者がえぐい」
「後者は後者で機転の問題じゃないしね。ただこれでもまだチートとは言い難いかもしれない。それを覆すのがこのオチ」
・お菓子の家で宝石を見つけて持ち帰る
・口減らしを提案した母親はいなくなる(あるいは死ぬ)
・父親と再会して金持ちになってエンド
「都合よすぎぃ!」
「うん、そうね。特に母親が死ぬところとか、何の脈絡もないわ。魔女と結び付けたりすることもあるけど、それはあくまで考察でしかないし」
「さすがにこんな話だとは思わなかった」
「念のため補足しておくと、魔女に捕まっているときグレーテルが神に祈っているから、ただご都合にしているわけではなく、説得力は含んでいるのかもしれないわ。神に祈ることで道が拓ける、解決するという作品はよくあるし」
「あー。その辺は宗教的、文化的違いかな」
「かもね。まあ、あくまで表面的にストーリーを捉えると、だいぶチートな童話というのは分かってもらえたかしら」
「オチの辺りは確かに、特に母親の消失が兄妹にとって都合よすぎないか、とは思った」
「そうね。穿った視点ではあるけど、こういう都合の良さを目の当たりにすると、『別に物語で整合性なくチートでハーレム築いてもおかしくないな?』とか思うわね」
「それはそれでどうなんだ。というか、多方面に対して喧嘩売ってないか」
「ソンナコトシテナイワー。あと、母親についてはちょっとこんな考察も思い付いたわね。常日頃から兄妹を不気味に感じていた説」
「ん? どういうことだ?」
「あれだけ機転の利く子供と毎日生活していたのなら、可愛げが無いと考えても不自然じゃないということよ。そこに口減らしという理由も重なって強行した」
「なかなか怖い説だな。それとどんどん母親が悪者化していく」
「まあそういう話だし。ふっ、いつの世も女は男に泣かされる運命なのよ」
「さりげなく自分をまともな女性のカテゴリに入れようとすんな」