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【第3章】《家族のカタチ》

(着いたは良いものの……)

縁側から入り、中の状況を確認する。

(?見覚えのある紙だな…)

ソレは真っ二つに切られた切符だった。

触れる。

視界が弾け飛ぶ。

『お父さん!おかえり……ッ!?ど、どうしたの?その……左手』

口が勝手に動く。

「あぁ、これか……榴弾を食らってしまってな…」

『痛く…無いの?』

「神経が死んでるからな…」

急に視界が歪み、高速に回転し始める。

(なんだッ!?)

思わず目を瞑る。

おずおずと目を開く。

『悠咲さん、涼音さんを下さいッ!』

『それは無理だ。』

(今度は俯瞰風景なのか…)

『ッ!……何故ですかッ、、、』

『お前は隻腕になっても、守り通せるのか?

お前は涼音の為に本気で命を賭け、鈴音以外を投げ出す覚悟があるのか?』

『ッ、そ、れ、はァ…』

『無いだろう』

『なら……力ずくで奪う迄だ…』

『なんだと?』

そう言って、スーツ姿の男は女性の手を握り、縁側から飛び出て逃げ出す。

『馬鹿が……

ん?コレは切符か?……仕返しだ。』

(馬鹿は誰だよ…ったく…)

そのまま父親は切符を真っ二つに切ってしまった。

足音がする。

『お父さんッ!……ッ!?

何してるの!?』

『仕返しだ…』

女性はヒステリックに叫ぶ。

『最ッ低!!』

そのまま先程の男性の手を握り、再度逃げ出す。

『いつから俺はこんな頑固オヤジになったんだろうなぁ……』

その目には涙が浮かんでいた。

視界が歪み、高速回転を始める。

停止。

「戻ってきた…か…」

そのまま庭に出て、伸びをする。

体に溜まった様々なモノが抜けていく気がした。

何か大切な事を忘れてる気がして、必死に思い出そうとする。

(…確かこっち側からの干渉は可能だったよな)

そう考え、縁側に落ちていた切符を拾い上げる。

(これで何か変わったはずだ……

あの2人が向かった方に行ってみるか……)

そして古民家の玄関先に1枚の名刺が落ちているのに気づき拾い上げる。

再度意識が飛ぶ。

声が聞こえる。スーツの男性の声だ。

『やっぱり戻って説得しよう……』

数瞬の暗転の後、視界が元に戻り古民家の中に居ることを自覚する。

父親の責めるような声が聞こえる。

『なんだ?覚悟でも決めてきたのか?』

(良かった…一応喧嘩別れは避けられたようだな……)

『いえ、ですがどうすれば認めて頂けますか?』

『お前は百鬼という名の語源を知っているか?』

男は首を傾げる。

『百鬼と言うのは昔から武術に関わることが多くてな……百の鬼と称える家名の通り、百鬼家出身の兵士や武士は其の心に鬼を宿すと言われていた。

それを知った政府は当時の技術力を最大限活用し、当事者の祖先の記憶を呼び起こし、未練や怨念を見せつけ鬼を宿した人間を造る事に成功した。

それは俺の世代からだ。』

スーツの男性は最後の言葉に驚いたように目を見開く。

娘は黙って下を向いている。

父親は話を続ける。

『俺は清国との戦争時に榴弾を食らった。

そしてこの家に帰ってきた時、妻は病魔に蝕まれ数週間後亡くなった……

そんな時だった、政府が俺に鬼人兵計画の話を持ってきたのは。

俺は涼音を守る為ならと思って、直ぐにその装置を裏の納屋に設置させ自身を実験台にした。

実験は成功し、無事に鬼人兵となった。』

そこまで話して父親は深く溜息をつき天井を見上げる。

今度はスーツの男性が口を開く。

『それで、条件と言うのは?』

『……あぁ、百鬼家に婿養子に来ないか?

近頃、また戦争に首を突っ込む雰囲気になってるらしくてな…俺が征くと言ったんだが、若い方が良いと突っぱねられてしまってな……

まぁそう心配そうな顔をするな、先祖返りの鬼人兵は百鬼家じゃなくとも成立はする。

何処にいようと戦争には行く羽目に逢うんだ。

それなら、生き残る可能性が高い方がいいだろ?』

そこまで話して父親は男の返事を待つ様に押し黙る。

『駄目だよ…お父さんも片腕無くなってるし……』

娘が泣きそうになりながら訴える。

『分かりました。私の家名でなら先祖返りでも、鬼降ろしでも受けます。』

父親は頷き、家名を聞く。

勘解由小路(かでのこうじ)です。』

父親は目を見開き、唖然とする。

『どうしたんですか?』

父親は我に返って厳しく問いただす。

『お前は本家の出身か?

もしそうなら、日本の五大武家の1つだ…

百鬼家も五大武家に数えられるから政略結婚の様な形になってしまう……』

男は冷静に応える。

『いえ、自分は家を追い出された身なので……』

父親はその返事に安心したようだった。

『なら、儀式をするぞ……ついてこい』

……意識が元に戻る。

(納屋に向かうか……)

しかし、納屋のようなものは存在しない。

(何処にも無い……何故だ?

取り壊されたのか?)

辺りを見回すと、荒れた風景の中に不釣り合いな真新しい蓋のような物を見つける。

(なんだ?この下に施設があるのか?)

開くと、ソコは青白い背景に0と1が隙間なく整然と並べられ上から下に流れていた。

(なんだ!?明らかにココだけおかしい……)

その瞬間、身体が吹き飛ばされる様な感覚に陥る。

目を開ける。

視界が全て緑色のフィルターを掛けられたかのような光景に目を見開く。

「おや?ようやくお目覚めかい?

過去最高レベルのIQの高さを以てしてもこれ程かかるのか?

簡潔に言おう。時間を掛けすぎだ。私を待たせるな。ワタシタチには時間が無いんだ。」

「……まぇは、なにヲ、ぃってい…??」

上手く呂律が回らない。

「あぁそうか、済まない記憶を戻すのを忘れていたようだ。取り敢えずソコから出してやる。」

緑色のフィルターの様な物が砕け散り、色彩が元に戻る。

「さっ、記憶を戻すよ」

突如として流れ込んできた膨大な情報量に耐えきれず、咄嗟に頭を抑え蹲る。

「それぐらい耐えてくれよ。君はコレから私の研究成果として戦場に駆り出され、鬼人兵として戦場を駆け回るジャガーノートになってもらうんだからさぁ」

謎の男は薄ら笑いを浮かべながら見下ろす。

「ほら、記憶は戻ったか?

父親からの質問だ。

応えろ!“三号機”」

頷く。

「そうか、なら良かった。少し休むといい。」

そう言って、父親である百鬼 裕也は部屋を出る。

(元の世界に戻った…のか…)

安心した途端意識が途切れる。

───睡眠とは、情報を整理する為に行われる、

故に。

(……なんだココは?)

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