【第2章】《少女の想》
その古民家は綺麗に保たれているものの、何処かカビ臭かった。
玄関の戸は開け放たれ、縁側の襖は庭に倒れ込んできていた。
(誰もいない……よな?)
念の為、ゆっくりと中に入り、空き巣のような足取りで探索する。
その家はとても簡素な造りだった。
別段、応接室とかそういった類のものは無く、人間が暮らしていくのに最低限必要なものを無理繰り詰め込んだ様な雰囲気だった。
(……?仏壇か…)
申し訳ないとは思いつつも仏壇の中を覗き込む。
脇に隠されたように置かれている“通知簿”
名前の欄には、百鬼 涼音の文字。
恐らくあの少女の物だろう。
他にも何か手掛かりはないかどうか、箪笥の中を漁ってみる。
(ホント、やってる事は空き巣と何ら変わらないな…)
「ん?」
奥の方で小さなノートのようなものを掴んだ感触が伝わる。
取り出してみると、二人分の通帳だった。
(百鬼 浅葉と、百鬼 悠咲か…記憶が戻る気配もないな…
?まだ何かある……)
小綺麗に折りたたまれた手紙。
手にした瞬間、意識が飛ぶ。
『お父さん!行かないで!お願い!行かないでってば!!』
『ゴメンな、涼音。必ず帰ってくるから…』
少女の懇願にも応じず、迎えの車は動き出す。
『おとうさん……』
元の世界に引き戻される。
(コレで戦時中なのは確実だな…)
手紙の内容を確認する。
『お父さんへ
お父さんがいなくなってから、2年が経ちました。
いつ戻って来てくれますか?
出来れば返事を下さい。
涼音より』
拙い文字ながら父に最大限の配慮を施した手紙だった。
(なんというか…目覚めの悪くなりそうな話だな…
まだ何かあるのか?…)
赤紙。
手に取る。
再度意識が飛ぶ。
…
……
………
…………
銃声が聞こえる。
破裂音がする。
悲鳴が聞こえる。
[ココは…ドコだ?]