【第2章】──道中──
「ハァ……」
思わず息を吐く。
「遠い……全く進んでいる気がしない……
少し休むか…」
そう言って橋から身を乗り出し、川を眺める。
(小魚1匹たりとも居ない…か…)
再度、古民家を目指そうとしてソレに目が行く。
(…物干し竿か?)
河原に降り、近寄る。
(何だ?この紙切れは)
拾い上げる。
『鴫原駅』
↓
『新都駅』
(刃物か何かで真っ二つに切られている……)
すると突然、ジェット気流の様なものに巻き込まれた感覚に襲われる。
「ブワッ……ァッ……」
目を開けることが困難になり、思わず目を閉じる。
目を開けると、全く同じ光景が広がっていた。
(一体何だったんだ?)
聴覚が覚醒する。
聞き覚えのある声が聴こえる。
『お父さんも一緒に遊ぼぅ?』
『お父さんはここで涼音を見ているから、涼音の好きなように遊びなさい…』
図書室にいた少女と、父親らしき男が河原で遊んでいる。
視界に亀裂が入り、衝撃で割れゆくガラスのように崩壊する。
(……ッ眩しぃッ!…)
視力が回復する。
そこは夜の河原だった。
耳を劈く様な少女の声が聞こえる。
『何でっ!お父さんはずっと涼音の事を見ててくれるんじゃ無かったのッ??』
『ゴメンな、涼音。お父さんはこれから国のために行かなくちゃならないんだ…直ぐに戻ってくるから』
『嫌だっ!』
(なるほど……あの紙切れは父親の物か…)
『涼音っ!何をしている!?』
父親の怒声が聞こえる。
少女の手には半分に断ち切られた切符と、大きな裁ち鋏が握られていた。
『仕方ない、向こうから迎えに来てもらうよ…』
父親の消沈した声が聞こえる。
『嫌だっ!お父さん行っちゃやだァ!!』
また世界が…視界が崩壊する。
覚醒。
(……戻っていない?)
……コレはあくまで悲劇の導入に過ぎない。
(彼らの家はあの古民家だったよな?…)
時間の経過しない世界で言い様の無い疲労と頭痛に見舞われながら歩きだす。
先程とは違い、古民家が近付いてくる。
天気は快晴、太陽も南中したままだ…
だが、世界はその事を内包した者に気付かせない。
まるで遺志を持っているかのように…