【第1章】本に巣喰う蟲
(さて、学校に着いたのは良いものの…
果たして開いているのか?)
そんな考えが一瞬頭を過ったが直ぐに打ち消された。
ココも、まるでついさっきまで人が居たかのような異様な雰囲気に包まれている。
言い様の無い不安に襲われつつも、校内に足を踏み入れる。
そこは、よくある田舎の小さな木造建築の学校だった。
さっきの雑誌が無いか図書室に向かう。
図書室に入ると、本は整然と並べられ、管理用のコンピュータの駆動音のみが不気味に響いていた。
(この世界は一体何なんだ…?)
一通り見回し、カウンターの上の雑誌に目が留まる。
それは古本屋で見た物と“全く”同じ雑誌だった。
鴫原の伝承のページを開く。
(やはり、破り取られている…)
その雑誌は全く同じ形に破り取られていた。
そして雑誌から目を離すと、カウンターにもう1冊雑誌がのっている事に気付く。
(?また同じ雑誌…?)
手に取ると、意識が身体から剥がされる様な感覚に見舞われる。
「……ガッ!?……ァ??」
目の前に広がる光景に思わず目を見開いた。
そこには図書室で静かに本を読んでいる子供や、
ヒソヒソ話をしている者もいた。
(良かった…やはり何かの夢だったんだ……)
そう考え、思考が再度停止する。
(何故自分はこんな角度から彼らを俯瞰している?)
それはまるで何者かの記憶を覗き込んでいるようだった。
動作確認をしてみる。
泳ぐように移動が出来る事に気付く。
(……っ!?すり抜けた?)
そこでようやく聴覚も復活する。
『ねぇねぇ〜なんでこの本破られてるの??』
(あの雑誌……)
小学生程の少女が管理人であろう女性に問いかける。
『それはこの世界から消えた人が別の世界から破ったんだよ』
『??』
少女には分からなかったのだろうが、女性の云う“消えた人”である者には分かった。
(そうか、つまりこの世界への干渉は可能…と)
そこで再度女性の声が聴こえる。
『あと、その雑誌が見たいならあっちの本棚にあるよ』
(なるほど……然し、この姿では触れられないな…)
そう思うとまた意識が身体から剥がされる様な感覚に見舞われる。
「…ガァッ!?……ハァハァ……」
(何なんだコレは…)
女性の言葉を思い出し、即座に本棚に駆け寄る。
(コレを剥ぎ取れば…)
ソレはあっさりと破れた。
『戻る方法ですかァ…
そうですねェ…飛ばされた先の世界で色々な物に触れ、記憶を覗き込み、推理し、その土地に巣食う未練や怨念を晴らしてあげると元の世界に戻ってこれますよ。まァこのインタビュー記事を読めれば、の話ですけど…』
(なるほどな…つまりはこの土地の伝承を解読していくに連れて、記憶を取り戻せるって事か…
やってみる価値はありそうだな…)
そう密かに闘志を燃やすと、またもや意識が剥がされる様な感覚に襲われる。
「ァガッ!?……」
目を開けると、視界の半分を青空が埋め、もう半分を木製の屋根が埋めていた。
(1つ謎を解明する毎に戻ってくるってことか?
取り敢えず、記憶はある…な…)
記憶の保持を確認し、再び駅から出る。
すると、学校とは全く反対の方向にある古民家が目に入る。
(向かってみるか……)
1度目に目が覚めた時から時間は全く進んでいない。
その事に気付けないまま、足を進める……