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───記憶という名の化け物────

【序章】

───遠くで虫の鳴き声が聞こえる……

「……ッ!?」

背骨に刺激を感じ、目を開けると、視界の半分を青空が埋め、もう半分を木製の屋根が埋めていた。

(自分は一体何を?…)

背中には硬い感触。

何処かに寝そべっているのだろうか。

操り人形のようにゆっくりと起き上がると、そこは見知らぬ駅のホームだった。

(取り敢えず状況確認が優先だな…)

そう思い、立ち上がり適当に駅構内を歩き回る。

すると、看板には「鴫原(しきはら)」の文字。

(鴫原駅か、聞いた事が無いな

まァ、駅員か乗客に聞けば位置程度は分かるだろう)

そう思い改めて見回し、やっとその異様な佇まいに気付く。

電車はまるで眠っているように佇み、人影は全く無い。

駅員室の机に転がる鉛筆、切れかけの電球、不気味に音を出す自動販売機…

まるで、ついさっきまで人が居たような雰囲気だ。

(人が居ないのなら、地図を見る他ないな…)

駅の外に出て、地図を見る。

そこには、よくある「町のいわれ」が書いてあった。

『静かな渓流、穏やかな浜辺、歴史ある神社、土地に伝わる不思議な伝承、等……』

そういった通り一遍なことしか書いていない田舎の町。

(ココは自分の故郷なのか?

もしそうなら、誰か知っている人に会えればいいのだけれど…)

然し、見回したところ全く人も車も通りかかる気配はない。

何か本能的なモノを感じ咄嗟に振り返ると、古本屋の戸が開いていた。

ソコに吸い込まれるように覗き込む。

「ごめんください」

数度、店の奥に向かって声を張り上げる。

(何度声をかけても全く人の気配のようなものは感じられない……いや、人の気配がしないというのも少し違う)

中に入ると古本は段ボールに入れられ、乱雑に積み上げられている。

扇風機は動いていないが、ホコリはついていない。

店の人に使われていたであろう手拭い、カレンダーの破られた跡等……

まるで今にも人が出て来そうな、今ここに立っていそうな様子。

だけど、何処からも人の声がしない。

今突然皆が蒸発したかのように……

自分の足音だけが妙に不気味に響き、少し悲しくなる。

店内に目を凝らし、耳を澄ませた。

鴫原の蝋燭流しや夏祭りといったポスターが貼られている。

(町の人達全員で準備の会合に行っているのかもしれない。そう思って気持ちを落ち着かせようとした)

目についた本を手に取ってページをパラパラめくってみる。

駅の列車が発車する迄少し立ち読みをして時間を潰していますよ、とでも云うように。

そうしておけば本当に何食わぬ顔で古本屋のおじさんが帰ってきて、「立ち読みは禁止ですよ」と注意されて、列車に乗り込む人が自然と駅にやってくる当たり前の光景が見える気がした。

このやるせない不安を誤魔化せるような気がした。

そうして目に涙が溢れそうになるのをグッと堪えて本の題名を見ていると、『鴫原の伝承』という特集が組まれた雑誌が目に入った。

どうやら、世界中の不思議な伝承を取り扱った雑誌らしい。

目次から「鴫原の伝承」のページを探し読み始めた。

『鴫原の伝承…ですかァ…

それはこの地が、第二次世界大戦の空襲から逃れる為の疎開先に指定された時期に起こった事です。

老若男女問わず、ある日を境に消え、二度と現れない。そんな事が起こったんです。

勿論、こんな田舎じゃ満足に捜査も出来ない。

挙句戦時中だった事もあり、皆目を瞑って来ました。

然し、それが最近また起こり始めたんです。

前までは意地の悪い子供騙しだろうと思われていたんですがねェ…

でも、運が良ければ戻ってくる事も出来るみたいですよ。

現にこの私もその1人ですよ…』

その先は、誰かが何かの為に破り取ったのだろう…

ページが無くなっていた。

(この雑誌の通りならば、自分はこの町の人間もしくは、疎開した子供で、戻る手段はある…のか…)

そう考えると少し安心できた。

(こうなった事は仕方ない。何か手掛かりを探すか…)

古本屋を出ると丘の上に建つ学校を目がいった。

(もう少し情報を集められそうだな……)

そう思い、学校を目指し歩き出す。

その時はまだ目の前の問題に手一杯で、目を覚ましてから1秒たりとも時間が経っていない事に気づいていなかった。

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