<最強魔王の憂鬱①>
「私が、私を倒す勇者を育てろ、だと?」
神とやらの言葉を聞き驚いた魔王は、それでもすぐに冷静さを取り戻した。神の使いと神の伝言。そもそもそれが真実かどうかも怪しい。どこからどうみても普通の人間の子供で、変な魔力を秘めているが非力で無害そうであった。
目の前の幼女は白い髪でよく見えなかったが、どうやら銀色の細いサークレットをつけている。そんな幼女からは、脅威のかけらも感じず、これが神の使者だというのであれば、魔王はずいぶんと舐められたものである。
「そもそも、お前が本当に神の使いかどうかも怪しい」
「まだそんな些末なことを気にしておるのか? 図体の割に、細かい奴じゃのう?」
「そんなこと言われてもな。急に現れて、神の使いだといって、やすやすと信じられるか」
「まあ、それもそうか。――じゃあ、これでいいかい?」
幼女は少し考えた後、目をつむり、祈るようにして手を組む。
すると、突然その体が輝き宙に浮かび始めた。そしてその光は徐々に背中に集中し、同時に光が濃くなっていく。光が集中していた場所から、なんと純白の翼が現れ始めた。
幼女の体ほどの大きさの翼。それは幼女の背中から完全に現れた。そして最後に頭に着けていた白銀のサークレットが金色に輝き、額から離れ、そのまま頭上で留まった。
魔王が我に返ると、そこには天使がいた。
「これがわしの本来の姿じゃ。翼は、本当はなくても飛べるのだが、こっちのほうが威厳があるじゃろう」
天使は魔王の目線より少し高い位置に浮きながらふんぞり返っている。翼に生えている羽根一つ一つが薄く光を発しており、魔王はその光の輝きに見覚えがあった。
それは以前、ここに倒しに来た勇者の一人が、同じように翼を生やした天使を連れていた。そいつも「神の裁き」だなんて言っていたような気がする。つまり、こいつも同様の類なのだろう。
「――では、しかたない。ひとまず、お前が神からの使いだということを信じてやる」
「では、さっさと契約して、わしと一緒に勇者を――」
「待て。信じるとは言ったが、勇者を育てるとは言ってないぞ? もし、私が断ると言ったらどうなる?」
「ぬぬぬ。――おぬしも往生際が悪いのぉ……」
そう唸りながら天使はゆっくりと降りてきた。
――パリッ
地面に足が付く。同時に背中の翼はガラス細工が壊れるかのように消え去った。頭上に浮いていたサークレットも、光を失い再び額に吸い込まれるように収まった。
天使の姿ではなく先ほどの人の姿へ。地に降りた幼女は、近くにあった瓦礫の一つにちょこんと腰かける。
「わしは構わんぞ。半年もしたら、この世界に大洪水が起こって、全て流れ消えるがのう……?」
「はっ?」
魔王は耳を疑う。大洪水と言っていた。それも世界が流れ消える規模の。そんな大災害であったら、文字通り世界の終わりである。
どう聞いても冗談にしか聞こえないが、天使の姿を見てしまった以上、その信憑性が決して低くないと魔王は一蹴できなかった
「そ、そんなことを言って私が頷くとでも思ったか。私に断る選択枝はないと。笑止。それで神は私を脅しているつもりか? この魔王が、死を突きつけられて、神に媚びるとでも思っているのか。――甘く見られたものだ。不愉快も甚だしい。断じて否、否だ。神に消される定めだとしても、世界とともに消えて皆道連れにするのも、魔王としての矜持であろうに」
「――なぜ、おぬし急に早口になったのじゃ?」
「……」
幼女の鋭い指摘。魔王は黙らざるを得ない。
魔王は考える。魔王の役目はとはなにか。それは世界を混沌に落とし破壊すること。それが己の手ではなく、神の手で起こされるのは癪だが、自分の存在によって引き起こされるのであれば、それは魔王として本懐なのではないだろうか、と。
であれば、この世の混沌の根源たる魔王として、この神の使いと謳っている幼女を切り捨てて、世界の終わりをここで高笑いしながらゆっくりと待つべきではないのか?
そう考えた魔王は、掛け置いていた大剣に手を伸ばす。すると、幼女が口を開いた。
「では、おぬしは“死闘をしたい”という己の願望の、唯一にして最後の機会をみすみす見逃すというのじゃな」
その言葉に手が止まる。
「――――なに、どういうことだ?」
己の願望、だと?
驚き幼女を睨むと、幼女は再び言葉を続けた。
【読了後に関して】
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