<黒と白の邂逅④>
城の殆どが吹き抜けとなった玉座の間に佇む魔王。
魔王の魔力も相まって、放たれた黒き聖剣の光は、城の大部分を塵と化した。崩れるものがなくなった魔王城は静まりかえっていた。
今回の戦闘で魔王城は大被害を受けた。ほとんどは魔王自身で引き起こしたものではあるが。仲間も大勢倒された。しかし、それら別に良い。むしろ良かったのだ。
やってくる勇者が、魔王の前に立つまでに瀕死であれば、立ち上がる価値もない。小蝿が飛んでいると思って、その場で消しさればよい。逆に城を大損害させ、部下を壊滅にし、それでも力強く立ち向かっていれば、それだけ戦うに相応しい。こちらも期待して立ち上がるものである。
今回がまさにそれだった。久々に城は大壊し、部下はことごとく倒された。それでもって、魔王の前に立ち向かってきたのだ。それでもこのざまであった。
「はぁ~、つまらん!」
しかし、消化不良な魔王は八つ当たりで大剣を地面に叩きつける。すると城の床に大きく亀裂が入り、大地に裂け目ができた。
「あっ――」
その瞬間、魔王は我に返る。しかし時すでに遅い。結果、自分で自分の城をさらに壊した形となった。もう、まともなところを探す方が難しい。
――まあ良い、また新たな城を構えよう。
唯一原形をとどめていたのは竜骨でできた玉座であった。腰かけ硬く冷たいその感触が魔王を少し冷静にさせた。
魔王は自分を討伐に来た勇者を前にし、高揚するのだが、その気持ちとは裏腹に手ごたえも感じられないと満たされず消化不良に陥ってしまう。今回も期待が高かったがゆえに、ショックが大きかった。
「ああ、めんどうだ。つまらない戦いの後の事後処理は更にめんどうだ!」
魔王は、玉座に腰かけたまま誰に言うでもなく子供のように駄々をこねた。満たされない虚無感が魔王を苦しめている。
しかしそう言っても状況は変わらない。今回は生き残った配下はどれくらいいるのだろう。全滅したとは思えないが、また部隊を再編成しなければならない。城も修復しないといけない。そう思うと、憂鬱である。やることは山積みだ。
「あー、もう限界じゃ。おぬし強すぎる、強すぎるのじゃ!」
すると、突如魔王城に聞き覚えのない声が響いた。幼い女の声。その声は甲高く、誰もいなくなった玉座の間に響いていた。
「どうしてじゃ! なんでおぬしは倒れないのじゃ。聖剣じゃぞ? 女神の加護じゃぞ? なんでおぬしはそんなに平然としているのじゃ。少しは傷つくとか、よろめくとかしないのか。何じゃほぼ無傷とは。おぬしチートじゃないか?」
魔王はあたりを見渡すも、廃墟と化した玉座の間には声の主は見当たらないも、その声は続く。
「誰だ? 一体どこにいる」
魔王は姿の見えない声に一瞬驚いたものの、すぐに警戒を解いた。もし敵であれば声をかける前に攻撃しているだろう。現状話しかけるだけで何もしないと言うことは、相手に攻撃の意思がないはずである。仮に攻撃をされたとしても、どうってことはないのだが。
「正体を現さないと、ここら一帯を無作為に広範囲魔法で破壊するぞ?」
見えないのだが、声がするということは、どこかにいるということだ。声も存外離れていない。ならば面倒だからここら辺すべてを焼き尽くしてしまえばいい。どうせ城は原形を保っていないのだ。いっそ更地にしてしまった方が再建時の手間が省ける。
「……」
返答がない。反応がないので、魔王は掌に魔力を練り始める。一息で先ほどの聖剣の勇者の一撃と同等量の高密度の魔力が生み出される。
更地にするとなると大規模魔法が必要だ。七節か八節ほどの魔法が良いだろうか?倉庫や、自室は別空間であるので何も気に留めることはない。
「あー、ちょっと待って、待って。ストップ、ストップ。タンマ、タンマ!」
そんな慌てた叫び声とともに、何もなかった空間から幼女が現れた。
9、10歳ぐらいだろうか、腰まで伸びた白髪に白いワンピース、それになぜか裸足という場違いな軽装であった。突然何もない空間から文字通り現れたのだ。急に現れたということは幻影魔法だろうか。気配もなかったとなるとかなり高度なものである。
「あわわわわっ――――、痛っ!」
4、5mほどの高さから現れた幼女は、なぜかそのまま落下した。
少女は受け身も取れずにお尻から地面に激突した。痛そうな声とともに、ワンクッションして地面に落ち着いた。
その身体には、尻尾もなく、頭部には角も尖った耳もない。その姿は――。
「人間、だと?」
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