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<最強魔王の憂鬱⑦>


「では、出発しようかの」

「出発って、どこに?」


 鼓動がようやく落ち着き、ほっと一息ついた魔王であったが、幼女の言葉に疑問の声をあげた。勇者を育てるというのだから、もうすでに勇者候補がいて、どこか訓練場の様な所に行き、教官の様な立場になるのだろう。人に物を教えるというのはやったことがないが、大丈夫だろうか。


「いや、それをおぬしに聞こうかと思った。今まで、幾人もの勇者を打倒してきたおぬしであろう。強さには他人には譲れないポリシーがあるじゃろう?」

「え?」

「どうした、何か問題でもあるか?」


 しかし、魔王の考えていた答えと、幼女が返事した内容では、話がかみ合っていない。どうやら二人の認識には大きなギャップがあるようだ。


「大いに問題だよ。それじゃあまるで勇者を探すところから始めるのか?」

「そうじゃが? あれ、言っていなかったか?」

「はぁっ?」


 初耳である。

 勇者を育てるだけではなく、勇者の候補を探すところから始めるというのか。それでようやく、先ほどの質問がかみ合った。

 つまり、魔王なら強い奴も知っているだろうと。なんて無計画で、楽観的なのだろうか。これが神の策というのだから、この先が不安でしかない。


「急にそう言われても……。主に人間たちが勝手にやってきているだけだから、当てなんてないぞ? 基本的に魔王城から出たことなんてないし」

「なんと童貞なだけでなく、そうとうの引きこもりだったとは。役に立たない魔王だのう。いや、元魔王よ」

「そうは言われてもな……」


 自分が悪いわけでもないのに、散々な言われようである。落胆している魔王をよそに、幼女は眉間に皺を寄せながら唸った。なんて幸先の悪い旅立ちなのだろうか。


「むむむ。おぬしのせいで、神の計画が最初から躓いてしまったじゃないか。仕方がない、今まで勇者を倒してきて、誰か強い奴はいなかったか?」

「お前も見てて知っているだろうが、挑みに来た奴はほとんど生きてないぞ?」

「そうじゃった……。誰か惜しかった奴や逃がしたやつはいないのか?」


 そう言われて、魔王は一人思い当たる人物がいることに気が付いた。


「あ、一人逃がしたやつはいる。強かったかと言えば微妙だが、妙な戦法を使って意外と善戦していたな。装備が効かないとわかるとすぐに撤退して、あまり勇者らしくない勇者であったが……」

「その男、まさか魔装具神のウォッチャーか?」


 魔王の言葉に、幼女は思い当たるところがあるようだ。幼女も知っているほどの人物なら話は早い。あまり詳しくは覚えていないが、当てが一つできた。


「知り合いか?」

「いや、人間の街では有名人だ」


 早速そいつに会いに行こうと、腰を浮かせようとした魔王だが、幼女の表情が芳しくないことに気がつく。すると幼女は言葉を続けた。


「魔王を前に逃げ出した勇者、裏切り者としてな」


 幼女の口からは想像もしていなかった言葉が出てきた。裏切り者。その言葉は重く、勇者とはまったく異なる重さを持つ言葉である。


「そいつ、まだ生きているのか?」

「たわけ、人間の寿命いくつだと思っている。もう死んだし、仮に生きていたとしてもよぼよぼのじいさんじゃ」


 そんなに昔になるのか。魔族の中でも魔人種は基本的に長寿で、エルフほどではないが、人間よりもはるかに長い時間を生きられる種族である。寿命という言葉を意識しないからか、時間という感覚が薄れていた。


「そ、そうか……。じゃあ、当てがなくなったな」

「そうとも限らんぞ。やつの一族はまだ生きている」

「ほう。では、とりあえずそいつを見に行くか」

「じゃあ、善は急げというだろう。行くぞ、元魔王」

「ん?」


 ようやく腰を上げた魔王と幼女であったが、幼女の言葉にどこか引っかかるものを感じた。なんだ? と、一考するとその違和感の正体に気が付いた。そう、元魔王という呼び方である。


「その、元魔王っていうのはやめろ。一応、人間の姿にはなったが、魔王は魔王だ」

「まあ、言いにくいからのう。それに、これから人前で魔王と呼ぶわけにもいかないしの。じゃあ、なにか人の姿のときの名前をつけるのじゃ」


 幼女の言葉にむっとした魔王、――元魔王であった。幼女の言葉にも一理あるので、文句を言わずに己の名前を考えることにした。


「じゃあ……」

「名はその身の運命を定める。適当につけるなよ?」

「うっ――」


 思い付きで出た言葉を口にしようとしたのがばれたらしい。幼女の指摘に釘を打たれた。目ざといというか、妙に感が良いところがあって困る。仕方がないので、元魔王は真剣に考え、一つの言葉を口にした。


「くっ……、フェード。フェード・フォルティトゥードーで」

「うむ。少し、こっぱずかしい名前じゃの」


 なんだこいつは? いちいち幼女は文句を言ってくる。まったくもって可愛くない。


「で、どうやってそこに向かう? ここは大陸の最果てだぞ?」

「転移の魔方陣はおぬしがぐーすかと眠っている間に完成しておる。ほれ、行くぞ」


 少し進むと、そこには床一面に巨大な魔法陣があった。この術式は一回限りではあるが指定した大陸に転移することのできるものだ。とても高度な転移魔法である。

 フェードが慌てて乗ると、魔法陣は淡く魔力を帯び始めた。


「これから長くなるが、よろしく頼むぞ、フェード」

「お、おう」


 不意打ちに名前を呼ばれた。思わず顔が赤くなる。幼女には気づかれないようにそっぽを向く。この不安定な感情には慣れない。


「ま、待て。お前の名前は何て言うんだ。こっちは呼ばれて、そっちはお前ではあれだろ。お前の名前を教えろ」

「そうか。気にもしなかったがのう。――では、アモアと呼ぶが良い」

「そ、そうか。頼むぞ、アモア」


 名前を呼ばれた幼女、アモアは頷くと嬉しそうに微笑んだ。


「うむ、名前で呼ばれるというのも悪くないの」


 アモアの笑みにフェードは思わずドキッとしてしまう。本当に人間というのは多感で困る。感情を紛らわせるように、フェードは声を上げた。


「では、行くぞ。魔王を倒す勇者を探しに!」


 呼応して魔法陣が輝きだし、設定されていた術式が発動した。二人の身体を光が包み、目的地へと転移させる。一瞬にして消えた二人。誰もいなくなった倉庫には、再び暗闇が訪れた。


 こうして、己を倒すために勇者を育てるという、天使と魔王の自殺遊戯(スーサイドゲーム)が始まった。



【読了後に関して】


感想・ご意見・ご指摘により作者は成長するものだと、私個人は考えております。


 もし気に入っていただけたのであれば、「気に入ったシーン」や「会話」、「展開」などを教えてください。「こんな話が見たい」というご意見も大歓迎です。


 また、なにかご指摘がございましたら、「誤字脱字」や「文法」、「言葉遣い」、「違和感」など、些細なことでも良いのでご報告ください。


修正・次回創作時に反映させていただきます。

今後ともよろしくお願いします。


 と、お堅くまとまっていますが、ただ感想がほしいだけです。感想ください、お願いいたします(ノ_<。)


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