誕生日の過ごし方
今日、12月25日は俺――青野拓也――の誕生日だ。
クリスマスが誕生日というのは、正直あまり嬉しくない。プレゼントも、誕生日も、同時に済まされてしまうからだ。家族にはよく『世界中の人が拓也のことを祝ってくれる』なんて、適当に流されている。
でも、俺の周囲の人は16回目の誕生日を祝ってくれる気配すらない。
「おい、青野! 今日はクリスマスだぞ。恋人と楽しく過ごせよ~」
同じテニス部に所属しているクラスメイトの緑川が声をかけてきた。こいつとは中学時代からの付き合いだ。
「俺に恋人がいないのがわかってて言うなよな」
からかうにしてももう少し優しくして欲しい。そういうところが緑川には足りないんだよな。
「おう、わりーわりー。じゃ、俺は先帰るよ。今日は楽しいことが待ってるからな~」
「なにっ、お前いつの間に彼女作ったんだよ。おい、待て」
俺の方に笑顔を向けながら、緑川は廊下を走っていった。俺のことは完全に無視かよ。
軽く舌打ちをしたくなってしまった。でも、流石にそんな無意味なことはしたくなくて、直前でやめた。
この通り、俺には『誕生日を祝ってくれる恋人』もいない。そして、『誕生日を祝ってくれる友達』さえいないのだ。
「帰るか」
俺は、誰もいない静かな教室で小さく呟いた。沈黙を破っても、再び沈黙が訪れる。何だか俺は心が虚しくなった。
今日は7時間授業だったせいで、既に辺りは暗くなっていた。俺の家の近くの閑静な住宅外では、外灯が光り輝いている。今頃全国のカップルは明るい街でイチャイチャしているんだろうなと、それを考えると軽く不快になる。もちろん、彼女がほしいという気持ちは持ち合わせているが、『リア充爆発しろ!』というのは別だ。
家の前についた。中には誰もいないらしく、明かりは付いていない。今日は母さんも早めに帰ると言っていたんだけどな。
「ただいまー」
真っ暗の玄関で靴を脱ぐ。この状況には慣れたもので、明かりをつける必要もなく俺はリビングのドアにたどり着いた。
そして、ヒヤリとしたドアの取っ手に手を伸ばした。ドアを開けたその時。突然リビングの電気が点いた。そして、いくつかの破裂音が俺の耳に響いてくる。眩しい光に俺は目を細くしてしまった。
「メリークリスマス! アンド、ハッピーバースデー! 拓也!」
声に驚いて、俺は目を見開いた。
そこには、家族と、部活動の仲間達10人がいた。
「お前ら、どうして……?」
「誕生日なのに言ってくれないなんてひどいじゃねえか。緑川にいってもらわなかったらスルーしてたぞ」
橙野というテニス部の友達が真っ先に声を出した。
「え、ええええええ!」
「なに湿気た面してんだよ。早く祝おうぜ!」
緑川が俺の手を引っ張ってきた。机にはたくさんの料理が並んでいた。
俺には『恋人』でもなく、『友達』でもなく、『誕生日を祝ってくれる親友達』が、居たようだ。