四
リトヴァルカ皇國軍総司令部直轄独立殲滅部隊、通称『軍総独殲隊』への配属を命じられた後。――僕は今、その部隊の配属先、『西襖・ダルクストン基地』の執務室のデスクの向こうに座っている基地司令、マリンダ・アシュフォードの前に、白峰と共に立っていた。
美人ではあるのだが、お堅そうな、いかにも司令!という感じの雰囲気の20代半ばくらい、軽くウェーブのかかった山吹色の髪の女性だった。それだけの若さで司令というのもなかなか珍しいが、別に無い話ではないらしい。例えば、家が貴族の家系だったりする場合とか。
敬礼。マリンダが答礼する。腕を下ろす。僕等もそれに続く。そして、
「貴君が配属されて来たという草薙中尉か?」
・・・・・・・。
(あれ...?僕って中尉だったか?)
と思ったらなんと白峰が、
「...司令、失礼ながら申し上げます。彼は中尉ではありません、少尉です。」
と訂正しているではないか!!
(え、なに?もしかしなくてもいま司令、僕の階級間違えたの?)
マリンダは顔を赤くし、
「う、煩い!不敬罪で告訴されたいのか!!」
(子供かよ!!)
僕は思わず心の中でつっこみを入れていた。
「きゃー、職権乱用ー。」
白峰は棒読みで敬いの“う”の字も無く抗議している。
(おいおい、大丈夫かよ、この人たち...)
「と、とにかくだ、草薙少尉」
僕は先程までのやり取りに呆気に取られ、
「はあ。」
と、なんとも気の抜けた返事をしてしまった。
彼女は一瞬眉を顰めたが、先程の事もあった為かそれについては特に何も言われなかった。
「貴君はここにある指令書通り、本日付でここに駐屯しているリトヴァルカ皇国軍総司令部直轄独立殲滅部隊へ配属となる。尚、軍総独殲隊は極秘部隊である為、公には第07特型戦闘車小隊として行動してもらう事となる。」
「承知しています。」
僕は今度こそしっかりと反応した。
「うむ、貴君も指令書を見て大体察してはいるだろうが、この国は最早後には引けない状況にまで追い詰められている。それも、『ムオーデル』なる部隊一つによってだ。故に、この作戦は失敗するわけにはいかない、なんとしても成功させねば。難しいどころの話でないのは十分承知している、それでも敢えて言わせてくれ。頼む、奴等を、『ムオーデル』を止めてくれ。」
そう言ったかと思うと不意に立ち上がり、なんと基地司令様が頭を下げてきたではないか。
「ぇえ!?ちょ、頭を上げてください!これは命令であって、別に司令に頭を下げられるような事ではありません!」
この人はどうやらとんでもなく誠実であるようだ。
「いや、これは私自身の思いだ。どうか――頼む。」
「――分かりました。この国の未来の為に、やれるだけのことはやりましょう。」
「感謝する。」
「それを言うのはまだ早いですよ。」
「そうか...そうだな。」
僕は少し間を空けてから切り出した。
「ところで」一つ咳払いをし、真顔で、
「マリンダ・アシュフォード司令、先程からあなたの頭に乗っている埃がどうしても気になるんです。」
隣で白峰が吹き出していた。
「お前クレイジーだな。」
一方マリンダは、本日二度目の赤らめ顔で小刻みに震えていた。そして一気に言い放った。
「言ってくれて感謝する!早く取ってくれ!!」
(自分で取るっていう選択肢は無いのかよ!!!!)
白峰は隣でニヤニヤ笑いを隠そうともせず、面白がって見ている。口元から覗く犬歯がかなり醜悪な様相を醸し出していた。
マリンダは茹で上がったたこの様に顔を真っ赤にしていた。何だか見ていて痛々しかった。
僕は彼女の元へ歩み寄り、手を彼女の頭へと伸ばした。
次の更新は8/17(月)です。