夢と思ったら乙女ゲーム転生? 逆ハー目指して頑張ります
この作品は白井 鈴さんのコメントに触発されて書かせていただきました。
文中でコメントを引用させていただいております。お楽しみいただければ幸いです。
「——であるからして、我が校へと入学された諸君には誇り高き魔法学園の生徒として——」
壇上で子守唄を奏でるハゲた……、いえ、ハゲは差別用語でしたね。……|ちょっと頭が寂しくなって久しいおじいさん《校長先生》の声を聞きながら感慨にふけります。
——あぁ、強制力って素晴らしい。
失礼。余りにも感動していたためご挨拶が遅れました。
私の名はリリィ・プルミエール。この国の王女にして……、失礼、先日この世界の女帝として影から君臨することとなった年若きマッドサイエンティスト(10歳)です。
詳しいことをお知りになりたい方は、是非とも前作を読んで知っていただければと思いますが、面倒な方は……、そうですね。
前世で読んだことのあるウェブ小説風に説明してみましょう。
この世界へと転生した無垢で可憐な美少女が、乙女ゲームの世界へヒロインと言う設定で転生した事実に気づかないまま、生まれ育った孤児院のために色々と奮闘した結果、ゲーム開始となる学園入学前に世界を支配するに至りました。
このようなところでしょうか?
え? 前作ではそこまで進んでいなかったし、国を裏から牛耳ってるって設定じゃなかったのか? ですか。
そうですね、長くなってしまいますがそこから説明しましょう。
まず国王の娘とわかった件ですが、すでに国王の威厳など地に落ちておりましたし、私が国を裏で支配しておりましたからね。面倒なので放置することにしました。
幸いにもあの場にいたのは国王と院長先生だけでしたので、国王は物理的に(殴って)黙らせ、院長先生は穏便に(嘘とお金で)説得して黙っていただくことにしました。
なぜですかって?
それはもちろん、世界の覇権などちっぽけなものよりも壮大な計画が私を待っているからです。
次にこの世界の女帝という部分についても説明しましょう。
前作では2、3ヶ国がまだ健在と言っていおりましたが、あれから入学まで何ヶ月あったとお思いでしょうか?
3ヶ月、3ヶ月もあったのですよ? もしも私が学園に通っている間、どこかの国が報復なり侵略戦争を行ってきたらもの凄く面倒ですし、身分を隠して学園に通う障害にもなりかねないではないですか。
なのでさっくりと他の国には無くなっていただきました。もちろん私は野蛮な戦争など嫌いですから?
この世界の魔法と核を融合した最終兵器をチラつかせつつ「3日以内に全面降伏しなければこの兵器で王都周辺を吹き飛ばしますよ? この兵器は少しだけ副作用がありまして、落ちた地点を中心とした半径100km、向こう100年は人が住めない呪われた大地になりますが問題ありませんね?」と囁きましたら涙を流しつつ喜んで無血開城してくださいました。
もちろん説得には飴と鞭という言葉もあります。
善政を敷いていた国は国王を領主という形に変えただけで、文化や風習などそのまま残すことにいたしました。もちろん口を出す部分は出させていただきますけどね。
悪政を敷いていた国は……、残念ですが不幸な事故が起こってしまい、支配層の方々が軒並み亡くなってしまいました。仕方がないので私の手の者が治める形となりましたが、すこぶる評判がよろしいようです。これは怪我の光明と言うものでしょうね。
とまぁそんな形を取り、全ての後腐れをなくした上で身分を隠し、庶民としてこの魔法学園に入学という運びとなったのが今の状態です。
少しだけ無理があるかしら? とも思いましたが、ゲーム世界ならではの強制力があったのでしょう、かなりスムーズに原作通りのシチュエーションで入学することが可能となりました。
「——特に今年は一般から魔法の素養が認められて入学した生徒もおります。彼女のように優秀な生徒は後世に名を知らしめる可能性もあり——」
原作では入学式などかなり省略されていましたが、……思ったより話が長いです。
意味のない挨拶などすぐに忘れさられるのですから、内容など右から左に抜けていくものですが、考え事のついでに眺めている分には飽きることがありません。壇上ではハg……校長先生が頭頂部を真っ赤に染めながら口から墨……ではなく泡を飛ばして熱弁をふるっております。
そう、その姿はまるでタコですね。
前世に比べ、この世界での10歳は自意識がかなり発達しておりますがそこまで頑張ってアピールしなくともよろしいのに……。
そうです、いい考えが浮かびました。彼の事はタ校長と呼びましょう。適度な親しみが生徒達にいいアピールとなるでしょう。
「——我が校の生徒である誇りを持ち、彼女へ対し迫害や侮蔑、あまつさえ傷つけるなど、絶対に許されないと肝に銘じた上で学業に邁進して頂きたい。
以上、私からの言葉でした」
パチ……パチ……パチ……
うっとりとタ校長の頭頂部を眺めていると、いつの間にか話が終わったようでまばらな拍手が耳に入ってきました。
やはり長くつまらない話だったようですね。割れんばかりの大歓声やスタンディングオベーション、アンコールの嵐が起る程であれば聞く価値もあるのですが、無いのであれば無視して正解でした。
頭頂から湯気を立たせつつ、壇上から降りてゆくタ校長を見る他の先生方や生徒の視線も白けておりますし、彼の校内でのヒエラルキーは相当下なのでしょうね。ゲーム中でもただのモブでしたから。
「——と思うのですが如何でしょうか?」
などと一通り思ったことや事情を話し終えると、隣に座る少女へとお伺いを立てます。
「知らないわよっ!! というか何で私にすべての事情を言っちゃってるのっ!? 知らなければよかったことまで聞いて後悔してるんですけどっ!?」
このノリの良いお方は、このゲームのライバルキャラと言う設定を持ち、後の悪役令嬢にも親友にもなれる可能性を秘めた方で、確か名前は……。
「ええと、お名前はなんでしたっけ?」
「それを今聞くっ!? 親しそうに話しかけてきたし、前世持ちってことで全部知ってて話しかけてきてると思ってたわよっ!?」
「すみません。シチュエーションや貴方も前世持ちという点は覚えていたのですが、……モブの方のお名前まではちょっと」
「モブじゃないよっ!? 一応あなたのライバルキャラですからねっ!? ……はっ!?」
あまりにも興奮したからでしょうか、ささやき声が少しづつ大きくなり、周囲の生徒にも聞こえたようで視線が集まりました。
彼女が慌てて咳払いをすると、周囲の生徒は慌てて前を向きます。
「私の名はリディア・シュトロメル、この国の宰相の娘で学園ではあなたの補佐役を行うよう言われてるんですから覚えてくださいよっ!?
……はぁ、原作の設定と食い違いが多いから現実はこんなものかと思ってたけど……。まさか貴方が裏で暗躍した結果、ここまで歪みまくっていたなんて……。
お父様に聞いた時は驚きでアゴが外れるかと思ったわよ」
打てば響くツッコミが心地いい彼女はリディア・シュトロメル。私の行動ひとつで悪役令嬢として破滅するなり、親友としてこの国を陰で支える女性にすらなると言う、私の選択一つで未来を好きにいじることのできる、とても未来が楽しみな女性です。
「はいはい、田中 怜奈さんですね。もちろん覚えておりますよ?」
「ちょっ!? なんで前世の名前まで知ってるのっ!?」
そして彼女も私と同じ前世持ち。意外な共通点を持っていることから(一方的に)親しみを覚え、(彼女の意志は関係なく)とても仲良くさせていただいています。
「乙女には色々と秘密があるのですよ?」
「私っ!! 私の秘密はどこっ!?」
「どこでしょうね♪」
「もうやだぁっ!!」
ちなみに逆ハーレムルートを進める為には彼女と親友になり、新しい悪役令嬢を登場させないといけませんので、親友ルートを進めるという選択肢しかないのは残念でなりません。
そうそう、それと攻略を手伝ってもらうためにも、早めに逆ハー狙いということを伝えておかないといけませんね。
「さ、入学式も終わったようですし、ホームルームに向かいましょう。
もちろん今ここで言ったお話の内容を口外すれば……」
「分かってます!! 分かってますから仲良くいきましょう。ね、リリィ様」
もちろん彼女も破滅は嫌でしょうし、宰相の娘と言うことで選択肢を与えるつもりもありませんけどね。こんなに面白おかしく育ててくれ、涙目でしたが色々と情報を提供してくださった宰相には後でお小遣いでもあげましょう。
「ここは原作通りいきましょう。様など付けなどせずに呼び捨てでお願いしますね、リ・ディ・ア・さ・ま」
「呼び捨ては無理ですっ!! せめてさん付けでお願いしますっ。リリィさん。これでいいですね」
「はい♪」
原作通りリディアさんに睨まれましたが(涙目でしたが)、今日は気分がいいので腕を組んで教室へ戻ることといたしましょう。
がっくりとうなだれる美少女、ほんと絵になりますわ♪
「うぅぅ、なんで私がこんな目に……」
——————
ホームルームでは現代日本よろしく、生徒一人一人の自己紹介から始まりました。
「俺の名前はアリアネス。アリアネス・コンクルージュ。
属性は火で魔力量は大です。制御はまだ不完全ですがよろしくお願いします」
今挨拶をしているのは攻略対象の一人、熱血バカ……失敬、誰よりも正義感の熱い後の風紀委員長で、なぜか初年度はヒロインとの絡みで不可抗力の接触が多く、後々ヒロインに頭が上がらなくなる予定の方です。
「僕はクリオネス・アルカディン。
属性は水で魔力量は大、好きなものは読書で静かな場所を好みます」
将来クールな知的生徒会長となり、ヒロインへ冷たい態度を行いつつ裏では苦悩するという、俗にいうツンデレキャラになる男の子。
「……メリアス。ラング・メリアス。
風、特大」
この無口な男の子は後の副会長。口数は少ないですが的確に的を得た言動が多く、行動は迅速で無言実行を地で行くような男の子。私的に一番のお気に入りはこの子でもあります。
初年度の攻略キャラで同級生はこの3人になるのですが、ゲームの中で見る以上に実物はとても愛らしく、今から自分色に染めて行けると思うと思わずよだれが……。
「リリィ、よだれっ。漏れてるっ、漏れてるからっ!!」
スッと前の席からハンカチが差し出されました。
前に座っているのはリディアさんなのですが、振り返りもせずにタイミング良くハンカチを差し出してきました。……ふむ、こちらを見ずとも状態を把握しているとなると。やはり同じゲームをしていただけあって同好の士だったのでしょうか。
「言っとくけどリリィの思っているのとは違うからね」
心を読むとはさすが親友。心の友と書いて心友でいいかもしれません。
「うん、聞いてないよね。もういいけど……」
さすが心友、ため息をつく姿も愛らしいです。
さて、他の方の自己紹介も眺めていますが有象無象の生徒も美形率が半端ではありません。攻略対象は全部で8人だったはずですが、今や現実なのですし1人や2人……、いえ、10人や20人ぐらいなら増やしても平気ですよね?
とは言え、無節操にツバをつけると他の女性を敵に回してしまいます。ここはクラスの半数程度(美形のみ+リディアさん)のみに抑えておきましょう。
「……ねぇ、凄い寒気がしたんだけど、何か変なこと考えてなかった?」
「気のせいかと思いますよ。それよりリディアさんの自己紹介の番では?」
「……そうね」
リディアさんが可愛らしく自己紹介を行う中、私は私で原作に沿った行動が必要なことを思い出しました。すでにおぼろげとなった記憶の中、リリィがどのような自己紹介をしたか懸命に思い出します。
"貴族"や"恐れ多くも"、"感謝して"という単語は思い返すのですが細部が思い出せません。それに父親《国王》からくれぐれも騒ぎを起こさないよう、大人しく過ごして欲しいとDO・GE・ZAでお願いされていますし。……ふむ。
そうですね、大体は思い出しましたし細部が違っても同じ単語を使っておけば問題はないでしょう。
リディアさんが席に戻り、私の番が来たのですゆっくりと立ち上がり、艶やかに一礼をして口を開きます。
「私はリリィ・プルミエールと申します。
属性は闇、魔力量は極大の域となります。
恐れ多くも貴族の方々は私と同じ学舎で学ぶことができる幸運に感謝し、皆様より高みに至る私を目指し、頑張ってくださいますよう何卒よろしくお願いいたしますね」
ふむ。口に出してみると何か違った気が。
「っばか、何言ってるのよ!! 原作の通りならそこは"恐れ多くも貴族の方々と同じ学舎で学ぶことのできる幸運に感謝し、皆様と共により高みを目指せるよう頑張りますので何卒よろしくお願いいたします"でしょ!!」
先ほど座ったばかりのリディアさんが勢いよく立ち上がると、私へ指を突きつけつつも小声ながら鼻息荒く迫ってまいりました。
「あぁ、それでした。よく覚えておいででしたね」
「それでした。じゃないっ!! 何原作以上に微妙な空気にしてくれちゃってるのよっ!!
見てみなさい、あの敵意満々の顔。あなた、大人しく過ごしたいんじゃなかったの」
リディアさんの言う通り、何故か大半の生徒から敵意のこもった視線を感じます。これはこれで癖になりそうですが、このままでは私の逆ハーレム計画に支障をきたす恐れがありますね。
「それもその通りでした。皆様、ここはリディアさんの顔に免じてどうかお許しください」
「ちょっ!? なんで私が」
「何か言いましたか? 田中さん」
「なんでもないですっ!!」
リディアさんは一旦うつむいて肩をプルプルと震わせた後、周囲を見渡して今度は大きな声で語りかけました。
「良いですか皆さんっ!! このリリィさんは庶民出身のため、あまりにも緊張して言葉遣いを少しだけ間違えただけに過ぎません。貴族の子弟である皆さんはおおらかな心を持ち、この程度の言い間違いは笑って許すぐらいの度量を持ちましょう。
この通りリリィさんも反省している様子ですので今回のことは水に流し、私達全員で彼女に常識というものを教えてあげましょう」
失敬な、その言い方では私が非常識と言っているように聞こえるではありませんか。
確かに前世ではよく言われましたが、この世界ではあまり言われることがないのですよ。……ですが逆ハーレムの為、ここは大人しくリディアさんの言葉に従っておきましょう。
「そうですね、少しだけ緊張して言葉遣いを間違えたかもしれません。彼女に教わった通り挨拶したつもりだったのですが……、皆様、今後もわからないところがあればお聞きすると思いますので、お教えいただければ思います」
追随するように頭を下げると若干敵意が下がって行くのが分かります。
これは素晴らしい。
やはり原作を知っている彼女にはすべての狙いを話し、逆ハーレムの手伝いをしてもらわなければなりません。
「ねぇ、すっごい寒気がしたけど、何考えてるの?」
「ふふ、後でお話ししますので楽しみにしててください」
「いやっ、聞きたくない。なんか聞いたら後戻りができない気がするっ!!」
「ふふっ、田中さんは心配性なんですね。
大丈夫ですよ。聞かないほうが大惨事になりますから、嫌でも聞くしかありませんので」
「いぃやぁーー」
立ったまま頭を抱え始めたリディアさんを他の生徒たちは心配そうな表情で見つめます。やはり、この短時間でクラスのハートを鷲掴み、な手腕を見せるリディアさんには是非とも手伝っていただかなくてはなりませんね。
——————
「ばっっっかじゃないのっ!!」
授業終了後、寮に隣接するカフェテラスでお茶を楽しみつつ、リディアさんに|計画(逆ハーレム)を話した後の第一声がそれでした。
「あれは二次元の傍観者だから楽しめるブツであって、……実際目の前でやりたいって言われたらマジ引くわー。
そもそもあんた、仮にも王族でしょ? 生産性ってモノを考えなさいよ。ゲームの謎設定に沿って王位継承権を持ってるのはあんた1人だけだろうし、話を聞いた限りだと実際に世界を支配してるのもあんたなんでしょ?
もしハーレムなんて築いて子供でもできて見なさい。昼ドラも真っ青のドロっどろな未来が待ってるわよ?
それも込みで楽しみたいなら私には止める手立てはないけど、せめて巻き込まないとだけ約束して」
彼女は一息で言い切ると用意された紅茶を一気に煽り、私を睨みつけました。
確かに彼女の言うことも最もです。ですが彼女は大切な部分で間違った認識をしています。まずはそこから正してあげましょう。
「リディアさん、あなたの意見は分かりました。
ですがご一つだけ勘違いをしていますよ」
「勘違い?」
「ええ。確かに私は見目麗しい男性を囲い、逆ハーレムを作りたいと思っております。
ですが、本気で惚れてもいない相手に体を許すような安い女と思わないでいただきたいですわ」
「……へ?」
「私が行いたいのは見目麗しい男共を私だけに夢中にさせ、手玉にとって遊ぶこと。恋愛とは次元が違いますわ」
私の高尚な目的を聞いたリディアさんはこめかみを抑え、半眼となった視線を私に向けて疲れたように聞いてきました。
「本気で言ってる?」
「勿論です」
質問に間髪入れず答えるとリディアさんは机に突っ伏してしまいました。宰相の娘とあろうものがお行儀が悪いですね。
「あのさ、その場合ハーレム入りした男性達の実家における跡継ぎ問題はどうするのさ」
「そんなもの、ハーレム入りした時点で後継から外されるのは分かりきってることではないですか。
既にしっかりと下調べを行い、弟や妹など別の跡継ぎ候補がいることは確認しています。ご実家へのフォローや王宮で発生するであろうゴタゴタに関しては既に何通りもの対策を練っておりますし、下準備も着々と進行中です。
後はご本人達の攻略を間違いなく行い、自らハーレムの一員として飼ってくださいと言わせるだけですわ」
「悪魔や……、本物の悪魔がここにいるよ……」
「失敬な。生前の友人……はおりませんでしたが、知り合いは私のことを魔王と呼んでおりましたよ」
「もうやだ、この魔王……」
「まぁまぁ、しっかりと私のフォローをしてくだされば未来の宰相の地位は確約いたしますので」
机に突っ伏したままですが肩はピクリと動きました。これはもう一押しですね。
「勿論私には優秀な手駒が揃っておりますから、ご希望でしたら名前だけの宰相となって好き勝手に生きるのもアリですよ」
この提案はお気に召したようで、勢い良く顔だけをあげました。若干目の奥が光っているのは気のせいでしょうか。
「宰相とかどうでもいいけど、それだけの力があるの?」
「勿論です。私を誰と思ってるのですが?」
「影番」
「ええ、誰も逆らえないほどの力を持った……え?」
いい終わる前にリディアさんは勢いよく立ち上がると、私の両手を握りしめ獲物を見つけた猛獣のような目で迫ってきました。
「じゃっ、じゃあこの退屈な世界にオタク文化を広めることも?」
「え、ええ。手伝ってくださるのなら国政の一端として大々的に展開することをお約束いたしますわ」
得体の知れない圧力に押され、頭の中で国家予算と相談しつつも思わずうなずいてしまいました。
「やるっ!! この世界にヤオイを広げることができるなら、私は悪魔にだって魂を売ってみせるわっ!! 京さまっ、私はこの世界にあなた様の薄い本を絶対に広めてみせますっ!!」
先ほどまでの倦怠感が嘘のように、前世で聞いたゲームキャラの名を叫び、やる気と黒いオーラに包まれ、拳を振り上げながらさらに詰め寄ってきました。
「リリィ、全力であなたのことを応援してあげるから、オタク文化の件については私に一任ね」
なぜでしょう、そこはかとなく早まってしまった感が拭えません。
「ふふふふふ、やるよー、私はやるよー。
リリィの人格を矯正してでも絶対にハーレム作らせて、ヤオイの文化をこの世界にも流布してやるよー。
異世界でも京さまの素晴らしさを全人類に知らしめてやるんだからねぇ〜」
訂正しましょう。確実にやってしまいました。
「そうと決まったら原作の細かいところまであなたに叩き込んであげるっ!!
さっ、こんなところでゆっくりしていないで王宮に行くわよっ!!」
「あの……、やはり無しということには……」
「だが断るっ!!」
彼女に手を引かれ、学園の外に連れ出されながら考えます。
ハーレムルートは間違いなく前進しました。
——ですが、彼女が悪魔に魂を売ったのなら、私は何と契約してしまったのでしょう。