九
外した仮面を眺めながら、久しぶりの、あいつの、声。
「…ありがとう。」
そう言うと、
あいつは仮面を手放したのだ。
【何故、それを、捨ててゆく?】
「…え、っ。」
【…何故、それを、捨ててゆく?】
「…幻聴??」
【幻聴と思いたくば、それでも良い。まぁ、似たようなものだ。】
【それより、答えろ。何故、捨ててゆく?】
「…もう、必要、無いから。」
【必要、無い?】
「うん、そうだよ。もう、ぼくには必要ないんだ。」
【…人間は、何かを成す時、皆、仮面を被るのでは無いのか?】
「面白いね。その通りかも、、でも、」
「もう、この仮面を被って“何かを成す”必要は、無いんだ。」
【…そうか、その仮面は、もう用済みか。】
【では、また、別の新たな仮面を被るのか?】
「…いや、それも、しない。」
【どういうことだ?】
「もう、仮面は、要らないんだよ。」
【仮面は、要らぬと?】
「うん、もう、いいんだ。」
「だだ、生きていければいいから。」
【…何かを成そうとは、最早、思わぬと?】
「うん、そうだよ。」
【諦めると?】
「…それは、少し違うかな。」
「元々、何かをしたかったワケじゃ、無い、みたいだからね。」
【では、これから、どうするというのだ?】
「無理に、何かを探すのも、どうかと思うから…」
「なるべく、何もしなくなると思う。」
【…何も、せぬと?】
「うん。」
【人間が、何も、せぬと?】
「うん、今、ぼくは、そう言った。…あ・じゃ、ね。」