二十五
「考えたんだよ。」
【ん?】
「ぼくは、小さい人間だよ。」
「でも、だからって、目の前の現実に従属する事は無いんじゃないかな。」
【…そうだな。】
「現実に耳を傾け立ち回るばかりでは無く、こちらから話しかけてもいいだろ。」
【そうだな。】
【そもそも、現実は人間を従属させたりしないだろ。】
「そうだね。」
【現実に従属する。って、いうのも、おまえら人間の“フリ”だろ?】
「全く、その通りだよ。」
「けど、ぼくは、今居る場所で、あまりにも長い間、仮面を被り過ぎた。」
【周りは、仮面を被ったおまえに、慣れ過ぎていると?】
「うん。」
【…駄々をこねる子供は、躾直せば良かろう。】
「ひとに仮面を取る事を強要できる程、ぼくは傲慢じゃないよ。」
【子供には子供の、適応能力というものがあろう。】
「確かに、ぼくが別の仮面に被り変えたのなら、そうだろうね。」
【では、おまえは、どうしようと言うのだ?】
「場所を変え、やり直そうと思う。」
「…ただ、」
【ただ?】
「それも、逃げなのかな?とも、思う。」
【私は、おまえを手放そう。】
「…えっ?」
【私の中に流れ込んだ、おまえの時間をおまえに返そう。】
「一体、どういう事?」
【おまえはこれから、私と出会ったこの場所から旅立つといい。】
「…そんな…急に 」
【きっと、これからも、なだらかで険しい毎日だろう。】
【でも、大丈夫。おまえが世界に微笑みかける限り、世界もまた、おまえの笑みに心動かされる事だろう。…私の様にね。】
「ぼくの背中を、押してくれるのかい?」
【…おまえには、微笑んでいて欲しい。辛くともね。】
「分かったよ。君の言う通りにしよう。」
これで、ぼくは、もう道化では無い。
【さあ、もう行け。】
「うん。」
【 さようなら。】
「 さようなら。」




