十九
「生きてゆくのなら、せめて、人間らしい人間、で、なくちゃね。」
【人間らしい?】
「そ。ブチ切れたり、狂ったりしない。普通の人。」
「…ぼくみたいな小さな人間が、ひとに迷惑かけるもんじゃあ、無いから。」
【それ、変、じゃないか?】
「…何が?」
【大きな人間のそれは許されて、小さな人間は迷惑かけてちゃいけないなんて。】
「仕方ないじゃないか。許されないのだから。」
【…大きな人間は、迷惑だって大きいハズだ。】
【それを許す心の広さはあって、小さな人間の小さな迷惑は許せないのか?】
「そうだよ。」
【…何故?】
「自分自身と、同じだから。」
【どうして?】
「自分自身に許せない事は、ひとにも許せない。でも、何一つ許せない人間には、 誰も成りたくは、ないんだよ。」
【だから、大きな人間の迷惑は、許すのか?】
「そうだよ。」
【では、何故、小さな自分自身のは、許せない?】
「せめて、“人間らしい人間”で、いたいからだよ。」
【だから、】「プライドだよ。」
【…プライド?】
「そう、小さな自分の、せめてものプライド、だよ。」
【おまえは、小さい、のか?】
「ああ。ぼくは、小さいんだよ。」
やっと、分かったよ。
おまえは風に揺らいでいるのでは無く、おまえ自身が、揺らいでいるのだね。
本当は、風など吹いていない。
ただ、木の葉を揺らし、風がある“フリ”を しているのだね。
だから、皆、空気を求め喘ぐのだね。
【私は、ね。見ていたんだよ。】
「ん?」
【おまえが、微笑むのを。】
【“仮面”を被り直す時、“仮面”を眺めながら、お前は微笑んでいた。】
「…そう、だったんだ?」
【ああ。それはそれは、柔らかで、私はそれで、心が揺れた。】
「…それって、」
【ん?】
「それって、まるで…愛の告白、みたいだよ?」
【そうなのか?】
「うん。」
【…そうか。】
【どうか…したか?】
「いや。かわいいな、と、思って。」
【何が?】
「君が、だよ。」
【…私が?】
「ああ。」
【私は、人間とは違うのだがな。】
「じゃあ、何なのかな?」
【“ここ”で、あるところの者。ツクモカミ…とでも言うのかの?】