十四
真っ暗で、そして、相変わらず真っ白な時間が訪れる。
人間の、活動停止時間…と、いうやつだ。
「こんばんは。」
【…な、っ!?】
「…ゴメン、びっくりさせちゃったかな?」
【何で、今頃、ここにいる?】
「…君と、ゆっくり話しがしたくてね。」
【長話がしたければ、トモダチと、、そう、トモダチという人間と
すればいいだろう?】
「君と話がしたいんだよ。エレベーターのユウレイさん。」
【……私は、幽霊では、無い。】
「ふ~ん。じゃあ、何だろ?」
【元々、ここに居る者じゃ。】
「…元々、ここに居る者?」
【そうじゃ。】
「ふ~ん。まぁ、いいや。ところで、」
【良くはないが…何じゃ?】
「ところで、ぼくが、君と同じって、どういう事?」
【…真っ白。】
「真っ白?」
【そう、真っ白なのだ。心が。】
「心が、真っ白。。」
【そうだ。】
「心が、真っ白。。」
【なぁ、人間というのは、いつも、赤かったり青かったり…
瞬間、白くなったと思ったら、黒くなったり。そういう者ではないか?】
「…それは、フリ、だよ。」
【今、何と?】
「それは、きっと“フリ”だよ。」
【フリ…芝居、なのか?】
「まぁ、そんな、ところ。」
【何故?】
「何かをしてないと、生きてゆくのが不安だから…いや、それもフリか。」
【…よく意味が分からぬ。】
「つまり、何もかもが“フリ”なんだよ。」
【フリ。】
「うん。赤くなるのも青くなるのも、不安がっているのさえ、、ね。」
【…では、人間、とは】
「本当は、きっと皆、真っ白なんだよ。」
【そんな、】
「君と、ぼく。みたいにね。」
【それでは、】
「そう、皆、ただ居るだけ。なんだよ。」
「…きっとね。」
【 …違う。】
「…えっ?」
【違う!】
【人間は、揺らぎ、膨大で僅かな時間の中を、右往左往して、在るか無いかも定かでないモノを追い求める。暑くて寒い場所で、空気を求め喘いでいる。 そんな、】
「それが“フリ”、なんだよ。」
【“フリ”?】
「そうだよ。」
「人間でありたいと思うから、そんな“フリ”を、するんだよ。」
【…人間。】
「そう。人間らしい、人間。」
【…人間らしい、人間。】
【なんだ、それ?】
「…馬鹿らしいだろ?だから止めたんだよ。」
【“フリ”、をか?】
「うん。」
【そうか。】
「うん。」
【…けど、これ、は、何なんだろな?】
「ん?」
【これだよ。おまえの顔に、ふたつ付いている、それ。】
「え、っ。」
【底なし沼の様でもあり、光を映す水面の様でもある。それ、だ。】
「…君って、随分と、」
【ん?】
「随分、ロマンチスト、なんだね。」
【そうか?】
「うん。そうだよ。」
【そうかもな。実際、それは、ただの蛋白質の塊なのだから。】
「…蛋白質の、塊、ね。」
【ああ。なのに、何故、こんなにも様々に見えるのだろうか?不思議だ。】
「きっと、君の心を、映しているのだよ。」
【…私の、】
「うん。」
【こころ?】
「そうだよ。」
【…なんだか、変、なんだ。】
「ん?」
【風が吹いて、ザワザワと揺れるんだ。】
「えっ、、と」
【白くないんだよ。】
「何が?」
【…私の、こころ、だ。】
「…そう。」
【ああ。】
【…おまえを、待つように、なってからだ。】
「え?」
【おまえが来るのを待つようになってからなんだ。】
「待つ?」
【ああ。】
「君が、ぼくを、、待っていたの?」
【ああ、そうだよ!】
「ねぇ。君の姿、見せてよ。」
【姿?】
「うん。」
【…ここ、だよ。】
「えっ?」
【だから、私は“ここ”。なんだよ。】
「…そっか。ユウレイ、じゃ、ないんだったよね?」
【ああ。】
「また、来るよ。」
【うん。待ってる。】
「ああ。待ってて。じゃ。」