勧誘の後。
「身延も日蓮大聖人様の事を敬えよ!」
大日は何故か命令口調だ。
「『敬えよ』って…もしかして、日蓮が俺たちも同じ鴨川の出身で、日蓮ゆかりの地だからそれで『敬え』と?」
「そうだよ。それに日蓮大聖人様には『様』を付けてな」
「…こいつ」
身延は、大日のこの発言にイラついたのと、生理的に嫌なものを感じずには居られなかった。
そして、身延はこう言った。
「大日さ。どんな宗教団体に入ったのか知らないけど。まずはこうしてウソついてまでして誘ってさ。どういう事だよ。なぁ?」
「始めから『宗教の勧誘です』と言ったら大抵は断られるじゃないか。それでさ!」
「…っ。納得行かねー」
続けて身延が言った。
「…コレは宗教の勧誘なんだよな?だったら俺は幾らでも断る事が出来るんだが」
「断るって。事務所はもうそこなんだから。せっかく来たんだから一度位唱えてみてくれよ?」
「…その唱えるのとかどーすんだよ。文字が有るんだろ?本とかなきゃ分からないだろう?」
「……」
大日は黙ってしまった。
すると、横で車の運転をしていた男が言う。
「ええ。本を買って貰い、読んでもらいます。読まない事には幸せは来ませんから」
なんて言う。
「うわー」
身延は思わず声に出す。
「なあ、身延。やってみようよ」
「こ・と・わ・る!」
身延は断固として拒否した。
「危険は無いから。やるだけやってみようよ」
大日がなだめるかの様に言う。
「いやだね。入った所でどうせ、何らかの強制をさせようとするか、退会したかしようかと言う人を集団で嫌がらせするんだろう?何かで見てるよ!その類いなんだろう?」
「○○○○○と一緒にしないでくれ!あそことは違う!」
「何をムキになってんだよ。大日。これで○○○○○で無い事は分かったけど。まだ名前も聞いて無い宗教団体なら。
オレはそれだけで胡散臭く感じてよ。信用できないね」
「…事務所は直ぐそこ何だから。」
「大日よ。それはさっきも言っているぞ。とにかくだ。名前前も聞いて居ない新興宗教と言うだけで嫌なものを感じる。
それに勧誘は勧誘。こっちは幾らでも断られるんだからな。」
身延はこの時、助手席の方から大日に向かい、睨みつける様にして言った。
それだけ、怒っているのだ。
すると大日ともう一人の男は黙ってしまう。
その様子を見て、身延は車のドアノブをひっぱり出ようするが、ロックがかけられていて開かない。
そこで身延は、ノブを壊さんばかりの勢いでガチャガチャといじった。
それを見かねたもう一人の男はロックを解除する。
そしてドアは開いた。
身延が開けてドアが半開きになったその時。
もう一人の男がすかさず、大きめな声で言った。
「名前は摂流薄教団と言います。東京に本部があるんです」
この事は身延の耳に入ったのだ。
身延は黙って車を降りて、さっきみた学校のほうへ向かう。
「さてと」
身延はおもむろに、ポケットから携帯電話を取り出し、アプリケーションを起動させる。
そうしてから校門の前に行き、学校名を確認した。
「木更津市立○○中学校か。よし。」
一人で呟きながら、開いたアプリケーションに学校名を入力する。
するとしばらくして現在位置が表示された。
身延は次に木更津駅前と入力する。
すると、木更津駅前までは約4㎞。時間は約45分と表示された。
身延は、携帯でのルートを確認後、アプリケーションを閉じてポケットにしまう。
確認したルートは曲がる事が少なくて済んでいるのと、電池の消耗を抑えるためだ。
とりあえず携帯電話のアプリケーションの地図の記憶を頼りに、歩いて見る。2回ほど曲がり、真っ直ぐ歩くと、大通りに出た。
見回すと丁度、木更津駅方面を示す看板が有ったので、それを頼りに駅を目指す。
その途中で結構古びたスーパー銭湯が有った。
看板にはべるさい湯「のばら」と書いてあった。
「……」
また、しばらく歩くと難なく駅にたどり着いた。
携帯電話のナビゲーションのアプリケーションのお陰だ。
「こういう知らない地では、本当に役にたつなぁ」
身延が微笑む。
一方その頃。大日はと言うと。
運転者の一人と共に悔やんでいた。
「また、逆縁だったなあ。」
「そうだな。しかし、大日さ。お前の紹介者、静かに怒っている様は迫力あったな」
運転者の男が言う。
「俺は、あいつがあんなだとは思いませんでした」
「まあな。普通なら今までだと対象者は感情的に成って怒号に近い形で怒り出す
のを多く見ているから。ああいうタイプは俺も初めてだったな。素直に聞いてくれてたから『行ける!』と思ったけどもな」
「俺もそうでした。でも、失敗しましたね」
大日が苦笑いしながら言う。
そして運転者が言う。
「逆縁は良くある事。今日の対象者は救えなかったが、これで近い内に何かの罰でも当たるだろうさ。俺たち仏弟子の誘いを断ったんだから」
「ですよねー」
「それじゃあ。後は会館で勤行あげて行こうか」
「はい。そうしましょう」
その日の夜。家に戻った身延はノートパソコンを開き、インターネットに接続する。
「摂流薄教団っと。どの位ヒットするかな?…お。一万件。かなりあるなあ。」
身延はタイトル部分を見る。
「うは。摂流薄教団に対しての批判ばかりじゃんか。どれどれ?」
タグを開くとそこには摂流薄教団に対しての経験談などが書かれていた。
「次は…と」
次のページに移動する。
「ん?○月度幹部大会その1。画面は…なんだこれ?下うつむいて。何かしゃべってんのか?」
画面のタグの静止画には、若い男が台の前にたちうつむいて何やら読んでいるような場面になっている。
「コレをみてみるか」
画面をクリックする。しばらくすると、始まった。
―――
「続きまして、京都より、男子部第13隊高鍋吾平班長!」
「はい!」
号令と共に、若い男が台に立つ。そして何やら読み始めた。




