stage:3 理不尽命令、受諾。
どこにでもあるありふれたファミレスから、どこにもないありえない不思議の国へ。
美少年侍らす美形の自称ハートの女王の要求は、
殺しあい。
Hello? My dearest Alice.
stage:3 理不尽命令、受諾。
おいおい何言ってざますか。
いやいくらIQ200あるとか噂で聞いたことある世紀の天才少年弥尋クンでも、さすがに拳銃の扱い方はわかんないでしょ…ってちょっと待て。
弥尋:ハートの女王から武器貰ってる。
俺:武器なし。
要求:殺しあい。
ってぉおおおおおい! おかしいだろ! この流れは明らかに俺がリンチされる感じじゃねえ!?
い、いやでもいくら弥尋クンでも、そんな要求呑んだりは…。
「わかりました」
「するのね!?」
淡々と答えた弥尋は、黒光りしている拳銃に手を伸ばす。
いやいや待って。ストップ・トゥ・ザ・フューチャー。あ、違ったあの映画はストップじゃなくてバックだ。
どうでもいいこと思いながら、あわてて弥尋の手をはっしとつかむ。
「…男と手ェつないでも嬉しくないんだけど」
「俺もだよ!」
ちょ、なに掴まれてンのに拳銃に手を伸ばそうとしてるんですかこの人。どんな執念ですかそれ。
「弥尋! いくらなんでも犯罪者になるのはまずいって!」
「じゃあ卯月はここで死にたい?」
「なんでそう極論に走るー!!」
「うっさい。いちいち喚くな」
掴んでいる手を振りほどかれて、殴られた。弥尋にしたら、かなり優しい方。でも痛い。
弥尋の優しさの半分は、たぶん痛みでできています。
ジンジン痛い頬を押さえながら頭の中でくだらんナレーション流してたら、弥尋にネクタイを掴まれた。
女の子に「有栖川くんの目って涼しげでカッコイイ〜(はぁと)」ってきゃあきゃあ言われてる、俺に言わせりゃ目つき悪いだけの切れ長の瞳で、じっとこっちを見つめてきた。
「極論じゃない。周り、よく見なよ」
「周り…?」
出入り口。拳銃かまえたムキムキマッチョ×2。
窓。槍っぽいの構えたムキムキマッチョ×1。
玉座の後ろ。例によって冷たい感じのする茶髪で美形のにーちゃん(もれなく拳銃つき)。
結論。退路なし。
「…っていうかこれは断ったらてめえら生きて返さねえぜ☆ っていう雰囲気ですかもしかして」
「気づくの遅過ぎ。いや、俺一人なら逃げられないこともないんだけど、卯月は逃げ切れる自信ある?」
「ないよ! むしろマイナスかも!」
「うん、だよね。期待してないからいい」
あ、それはそれで傷つくな。
弥尋は疲れたような溜息をついた後、もう一度俺を見上げた。ちなみに俺の方が身長が13センチほど高い。この前の身体測定で、俺は伸びてるのに弥尋は伸びてなかったときなんか、背骨折られるかと思うような勢いでとび蹴りを食らわされた。
あれ以来身長計がちょっとトラウマだ。
「とりあえず、今ここで殺されるよりも、話を受けた方が寿命は延びる」
「…逆に縮むのは?」
「さあね? そのへんは賭け」
ネクタイから離した手をひらっと振って、弥尋が笑う。
その余裕はなんなんだ、チクショウ。
ハートの女王が目を細めて嗤った。
「頭のいい相方がいてよかったじゃないか、白ウサギ」
「ほんとにな」
適当に相槌を打って、隣で弥尋が拳銃に手を伸ばすのを見る。
今度は、止めない。
いやぶっちゃけるとめちゃくちゃ怖いんだけどね!
シャンデリアの明かりをきらきらと、やたら豪華にまきちらしながら、弥尋の手の中におさまった黒い拳銃に、ハートの女王が満足げに喉を鳴らした。
弥尋はしばらく拳銃をあちこち眺める。なんだやたらと決まってるじゃねえか。ル●ン3世みたいだぜ!
ぐっと親指立ててやったら、憐み100パーセントの視線でじっと見つめられた。そこに愛はあるのかい…?
「で、俺たちはどうすればいいんです?」
殺しあいといわれても、やっぱり俺の武器はないみたいだし、今から出てくる気配もなく。
そしてハートの女王も、「アリス、今すぐに白ウサギの頭をぶち抜いておしまい!」って言い出すような雰囲気でもない。
弥尋の問いかけに、ハートの女王がふう、と嘆息した。めんどくせーオーラが全身からほとばしってる。
「…ああ、そうか。まだルールを説明していないんだったな」
手の中にある鎖をチャラチャラ遊ばせながら、ハートの女王はひっじょおにめんどくさそうにのたまった。
「アリスは白ウサギを追いかけなくてはいけない。
そして、白ウサギは逃げなくてはいけない。
お互い死なないために。
アリスは白ウサギを追いかけて殺さなくてはいけないし、そうしなくてはアリスは殺される」
「誰に?」
弥尋のいやに慎重な声に、ハートの女王は口角を吊り上げて笑って見せた。
「もちろん、私に、だ」
…あのさあ、今さら何だけど。
不思議の国のアリスって、こんな話だったっけ?