表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

stage:2 猫耳野郎とハートの女王

「きみたちは今から」

 渡された黒い拳銃。

 口紅を塗ったみたいに赤い唇が、いやに艶やかに歪む。


「殺し合うんだ」




Hello? My dearest Alice.

stage:2 猫耳野郎とハートの女王






「ようこそ、不思議の国へ。アリス、それから白ウサギさん」

「うっさい黙れ。何だお前頭の上に猫耳なんてのっけやがって。俺は可愛い女の子の猫耳以外は認めねー」

「卯月、黙ろうか。黙らされたくなければ」

 ノー・モア・ヴァイオレンス。暴力反対。

 弥尋の拳骨は隕石並だ。頭に食らうと月の裏側が見えて目がつぶれる。腹に食らったら胃液吐く。後者は冗談じゃない、本気で吐く。

「あはは!今度のアリスと白ウサギさんは仲良しなんだね?」

 目を細めて笑うのは、ピヨピヨはねた金髪に青い瞳の見知らぬ男。

 白いワイシャツに黒いリボン。深い青のジャケットと、スラックス。

 相変わらずぼんやり看板の前に突っ立ってたら、突然目の前に現れた。

 奇妙なデジャヴを感じるのは、たぶん昨今そう珍しくなくなった猫耳のせいだろう。

 ただし、こっちは耳が動くなんて手の込みよう。何だ? 電池でも仕込んでやがんのかってんだ。

 どっからどう見てもただのコスプレ男なのに、弥尋は丁寧に問いかける。

「あなたは?」

「猫だよ。飼い猫」

「首輪してませんよね?」

「半分捨て猫みたいなものだからかな」

「ありがとうございます。以上です」

「あらっ?」

 自称猫が拍子ぬけしたような顔をする。

 弥尋はさっさと踵を返して、返しかけて振り向いて俺の手首をがっとつかんで、さっさとすたすた歩き出した。

「っていうかちょっ、弥尋くん!? 歩くの速…ッ、俺こける! 顔面が地面に直撃! なにこれ韻文!?」

「踏んでない。ちょっと試したいことがあって」

 言いながら、弥尋はちらりと後ろに視線をやった。俺もつられて振り返る。

「試したいこと? 何だいそれ」

 猫はのんびり後をついてくる。

「…あんたが、ついてくるかどうか」

「あっはー、そうだったんだぁ。じゃあ答えは見つかったね! あ、そこ右曲がってー」

「曲がる前に教えろ」

「僕に対する質問は毎日3っつで打ち止めです。何故ならきみの疑問に対していちいち理由や答えをつけなきゃいけないのは面倒だから。さぁ、あとひとつ。きみは何を質問する?」

 ひらっと両手を広げて、猫がけらけらと笑った。何がおかしいのかいまいちわからないけど、笑うたびに胸元で揺れる黒いリボンがいやに癪に障る。

 お前、左右の輪の大きさが違うんだよ!

 ぐっと拳を握って言いたいのをこらえてると、弥尋にすごい哀れっぽい目で見られた。

 同情するなら金をくれ。

 弥尋は俺から視線をはずして、不意に真剣な顔になって。


「…俺たちを、どこに連れて行こうとしている?」


 その質問に、猫はにいやりと笑った。

「ハートの女王のところへ、だよ」

 実に楽しそうだ。キモチワルイ笑顔だったけど。






「ハートの女王なのに男ってどういうことだ。あれか? 性別詐称か?」

「卯月、口にハバネロ詰め込まれたくなかったら、頼むからいっとき黙って。そしてなるべく心臓が止まるまで息をしないで」

「遠まわしに死ねってことそれ!?」

 弥尋のいうハバネロは、お菓子のハバネロなのかマジに唐辛子のハバネロなのか気になったけど、どっちにしろ口に詰め込まれたら死にそうな予感がしたので黙る。息は止めない。

「公爵夫人の飼い猫からお届けものというから何かと思えば。なるほど? 今までの『お届け者』よりは随分と気が利いている」

 っていうか何なんだろう、目の前の光景。

 あのにゃんこ、「ハートの女王のところへ、だよ」とか言うからめちゃくちゃ期待したっつーのに、おかしいだろ! なんで男なんだよ! イケメンだから更に腹が立つ!

 黒くて肩くらいまでありそうな、計算された不揃いの髪は、自称ハートの女王が身じろぎするたびにさらさらと音をたてる。アジアンビューティーもびっくりだ。どんだけ金かけてんだ。

 切れ長の瞳の色は高級なシャンパンも恥じらう金色。シャンパンなんて飲んだことねーけど。鼻筋通ってて顎は細くて、ちょっと冷たい感じの『綺麗』だ。

 色は白くて体は細い。明らかにフォークより重いものは持ったことがありませんっていう。

 っていうか何より許せないのが、あれですよ。隣に少年はべらしてんですけど! 少年は少年でも頭に「美」がつくやつ!

 玉座の手すりに腕を乗せて頭を凭せ掛け、しなだれるように床に座ってる少年は、頭にでっかくて丸い耳をつけて、おんなじようにでっかくて丸い、しかも潤んだ赤い瞳でこっちを見てる。

 ちなみに服は上半身ぶかぶかの白いシャツ「のみ」。つまり足は生足。あと首輪。そこから延びる鎖は自称ハートの女王がおもちなさってる。

 なんていうかあんまりディープ・インパクトな光景に、ちょっと目の前がぐらぐらした。

 人の趣味をどうこういうつもりはねーが、もうちょっとは慎んでくれ!!

「それじゃあお前たちが新しい『アリス』と『白ウサギ』というわけか」

 金色の瞳がきらりと輝く。弥尋は不機嫌そうな声で言った。

「俺たちはそんな名前じゃありません」

「いいや、『道行案内人・チェシャ猫』がお前たちをそうだと断定したのだから間違いない」

「…チェシャ猫ってさっきの猫っスか」

 弥尋の不機嫌ゲージが目に見えて上がってる。やめてくれ、こいつの不機嫌が最高潮に達すると、俺は意味もなく足払いかけられたり延髄切りかまされたりするんだ!

「そうだ。なんだ、あいつめ、自己紹介もしなかったのか」

 ふう、と自称ハートの女王が大げさな溜息をつく。

 そしてふいにパンパン、と手を打った。

 玉座の後ろから現われた、凍りついたような表情の茶髪のにーちゃんがうやうやしく捧げ持つのは、黒い拳銃。

 フォークより重たいものを持ったことがなさそうな、自称ハートの女王サマは、それを軽々と持ち上げて、

 その持ち手を、弥尋の方へ向けた。


「きみたちは今から、殺しあうんだ」




はじめまして。みくし(名前は「珠 翠月」です)で連載している小説の転載ですが、多くの方のご意見を伺いたいと思い投稿させていただきました。

遅筆ですので展開が遅いですが、最後までお付き合いくださるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ