stage:1 初めの始まり
ようこそ、不思議の国。
チェシャ猫が示すのは奈落の底。
迷子の白兎の毛並みは赤色。
いかれ帽子屋がお茶の中に毒を入れた。
三月兎が嗤い出す。
アリスが持つのは黒い拳銃。
銃口は真っ直ぐ、赤いハートに向いている。
さあ逃げて。
捕まってしまったら、おしまいだ。
Hello? My dearest Alice.
stage:1 初めの始まり
「あー…、うん。質問いい?」
「うん、何?」
「ここはどこ?」
「わかる限りで答えていい?」
「いいんじゃないかな」
「不思議の国」
「なんで?」
「書いてあるから」
「あー…、うん…。ところで古閑高校2年B組 有栖川弥尋くん、どうしてきみはそんなに冷静なんですか」
「(何その説明的な台詞…)ここで混乱してもしょうがないからです、古閑高校2年D組 卯月白菟くん」
「何かな? それは俺を揶揄してるのかな?」
「揶揄されてるという自覚があるなら落ち着け」
「(命令形だぁ)イェス・サー。よし落ち着いた。さあ、ここはどこだ!」
「だから落ち着けっつってんだろ」
夏。
ガラス一枚隔てた向こうは地獄。
クーラー設定温度たぶん二十度切ってるファミレスの店内は天国。
道行く人たちが暑い暑いってぼやきながら、ハンカチやらタオルやら額に当てて通り過ぎるのを悠々と眺めて、「ハッハッハ、苦しめ愚民どもめ!」って、たかが500円以内で手に入れた天国でふんぞり返ってたのは、ほんの10分くらい前。
今。
目の前に立っている看板には、子供がクレヨンで落書きしたみたいないびつでドでかい文字が並んでいる。
“ようこそ 不思議の国へ!”
頼む。白昼夢なら覚めてくれ。