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妹物語

作者: チラリズム

 オレの名前は。


 いや名乗るのはやめておこう。どうせ君たちは朝に目が覚めると忘れているだろうし。

 ……そうだな。年齢だけは教えようか。

 十七歳だ。高校生だ。

 わかるか? 先輩の女子とも後輩の女子とも付き合え、もちろん同学年の女子とも付き合える真ん中だ。恋愛ゲームとかの主人公でよくあるベストな年齢だ!

 いや。しかし今回は違う……今回しか無いけど違う。オレは違うぞ!

 オレの好みは後輩のソレよりも下だ!

 しかも『妹』だ!


 【7月25日】


 学校から帰宅して今は夕方。

 放課後の部活で汗を流す、ましてや女子マネージャーとラブラブ……よりもオレにはオレの青春があった。

 家のリビングにあるソファで寝ていたオレは、二階から降りてくる小さな足音に反応して目を覚ます。


 妹だ。


「ビューティフル」

 妹の姿を確認したオレは思わず声に出して言った。

 わかっている。言うな……妹が愛らしいとか。恋愛対象とか。

『ちょ~キモ~い! マジあり得なくない?』

 と、実際に妹がいる者は思っているだろう。


 フッ。

 

クククククッ。そんなキサマらの……いやいやコレもやめておこう。言い出すとキリがない。

 オレの妹は小学校高学年。ポニーテールの黒髪で小柄な女の子だ。

 今日は水色のワンピースを着ている。

 性格は天然で臆病、少し世間知らずで大人しい。

「お兄ちゃん帰ってたんだ」

「まぁな」

 まだまだ幼さのあるカワイイ声にオレは癒される。たまらない。

 よし。ここは一つカワイイ妹をイジるとしますかな。

「ぐっ! ぐはっ!」

「お兄ちゃん!?」

 オレはワザとらしく床に倒れ込んで苦しい顔をする、こんな演技にも疑わず簡単に騙されるのが我が妹だ。

「大丈夫お兄ちゃん!? 頭が痛いの? それとも頭が悪いの?」

 今なにやら聞き捨てならん言葉を聞いたような気がしたが、問題ない実際にオレは頭が悪い。

「頭痛がッ! 吐き気もするし目眩も!」

「ふえぇ~! どうしよう。とにかく救急車!?」

「いや救急車は呼ばなくていい。聞け妹よ!

 この病気を治す唯一の方法、つまり薬は“パンツ”だ!」

「パ、パンツ?」

「お前のパンツを見せてくれたらお兄ちゃんは『元気百倍〇〇〇〇〇〇』になるんだ! オレはパンツがみたい!」


 あきらかに変わる部屋の空気。当然である。今オレはスゴいことを何のためらいもなく言ったのだから。

 しばらくの沈黙が終わると、妹はユックリとスカートの方へと手を伸ばす。

「……お兄ちゃんのためなら。これでお兄ちゃんが元気になるなら」

 恥じらう姿が最高だ! なんだ!? 天使か!? いや妹だ!

 ユックリとたくし上げながら焦らすじゃねぇか。

 そうすればするほど赤面していく妹を見ながらニヤニヤするオレ。

 よくアニメとかに出てくる変態思考を持った主人公でも、視聴者の期待を裏切り肝心なところで必ず止める。

 そんなんじゃねぇだろ!!

 規制の問題があるのだろうが、オレ達が求めているモノはもうその先だ。先をいけ!

 深夜アニメを、萌えアニメを見ている肥えたブタ共は、そんなんじゃ満足できねぇのは知ってんだろ。

 いやギリギリの絶対領域なんかを好む者もいるが。

 オレはギリギリとかダメだ。オレは受け入れるぞ!

 誰にも邪魔はさせん!


 まるでオレは神を崇めるかのように膝をつき、両手を横に広げて涙をこらえて妹を凝視する。


こい!!




「なにやってんのアンタ?」


 マザーに気づかなかった……だと!?


 ……オレもか……オレもなのか。

 オレも“そちら側”の人間だったのか。

 買い物から帰宅した第三者である母親によって妨害されてしまい、オレは今日の妹へのスキンシップは終わりをむかえた。


【8月8日】


 何かがおかしい。

 夏休みをむかえて家にいる妹が妙だ。

 くくっていたポニーテールをほどき、肩にかかる髪を時々かき分ける。

 そして、おやつのバナナやアイスキャンディを少し、ほんの少しばかりエロく食べるようにもなっている。

 まるでオレを誘っているかのようだ。

 オレの見間違いだろうか。


【8月14日】


 この日も何かがおかしい。

 オレの部屋に隠してある箱の中に並べていた『大人のDVDコレクション』の配列が変わっている気がする。

 確か昨日まで『女子高生・コスプレ・熟女……』の順番だったハズ、コスプレと熟女の位置が変わっているような。

 それに時々だが隣の妹の部屋から聞こえてくる声や音も気になる。

 なんだ。何がおきている。何がおきようとしているのだ!


【9月20日】


 学校も始まり秋の色が顔をのぞかせたこの日。

 オレの一つの恋が終わりを告げた。

 高校に入学してから好きだった同学年の女子に告白してフラれてしまったのだ。

 勇気を振り絞りついに告白したというのに……。

 まぁいい。所詮は妹が好き過ぎて仕方がないオレが、高校の入学を機に始めた度胸試しのようなものだ。

 この発言にオレが最低な人間だと思う者はそう思えばいいさ。

 しかしフラれるというのは些か精神にくるものだな。ここは愛する妹に慰めてもらうことにしよう。


「ふっふふふ~ん♪」

 鼻歌まじりで帰宅したオレは玄関に立つなり違和感を感じた。

「おや?」

 家の様子がいつもと違うな。朝に家を出たときと何かが足りない気がする。

 オレは急に不安になり玄関の靴箱を開けた。

「ない!」

 いや。オレの靴じゃねぇ~よ。イジメたくなる気持ちは分かるがオレじゃない。オレの靴は隠されていない。

 ますます不安に、そして怖くなり……オレは階段を上がりオレの部屋の隣、つまり妹の部屋の扉を勢いよく開けた。


「……ない」

 なんで? あれなんで!?

 何故に妹の部屋が空き部屋に? つか妹は何処だ?



 ……ん??


 オレの妹の名前は何だ?

 そもそも妹がオレ以外の誰かと話していたところを見たことがあるか? いや。無いぞ。

 戸籍上オレは確かに一人っ子だ。

 錯覚。幻。空想。架空妹?

 何故だ? 何故このタイミングだ?

 以前のバナナやアイスも実際はオレが食べてただけか、いやエロくじゃなくて数が減っていたのは……だ。

 DVDもオレが一人で勘違していたのか。誰にも、ましてや存在しない妹に触られているなんてことは……はっ!

 あの隣の部屋から聞こえた音や声も、それはそれで怖すぎる。


 ……しばらく放心状態だったオレはその場にうずくまり叫んだ。


「チクショオォォォォォォ!!」


 この日以来。オレは現実と向き合うようになった。

 いつから妹を妄想していたのかは分からないが、なんだか呪縛から解放されたみたいですがすがしい。

 今後。彼女を見ることも無いだろう。

 オレは大人になった。

 オレは大人しくなった。

 成長したオレは今までのオレとの別れに涙を流したが、すぐにその涙を拭いて胸を張った。

 そして。



「よし……妹と遊ぼう」

どうやら彼はダメだったようである。


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